不安感とアミノ酸:何が効くのか、なぜ効くのか?
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不安感とアミノ酸

不安感というものがあります。

不安感自体は決して悪いものではありません。というのも、生きていく上でいちばん大事なのは生き延びることであり、危険を避けるためにも不安感を感じる必要があるからです。

とはいえ、私達は同時に社会に生きる生き物でもあります。社会で生きるということは、よくわからないものを信じるということでもあります。それは腹の底が見えない誰かと付き合うことであったり、仕組みがわかなない飛行機に乗ることであったり、何が起こるか分からない広場に身をおくことだったりします。

こういったことに強い不安を抱いてしまうと生きて行くのがしんどくなってくるのですが、こういった不安感を減らす方法というものはあるのでしょうか?

今回の記事では、アミノ酸が不安をどの程度減らすことができるかについて紹介したいと思います。

アミノ酸とはなにか?

アミノ酸というのはよく効く言葉ではありますが、いったいこれはどのようなものなのでしょうか?

アミノ酸のお話をする前に、まず私達の体の仕組みがどんなふうにできているか考えてみましょう。

私達の体は沈まない船に例えることができます。

船が渡る海はいつも平穏であるとは限りません。ときには嵐に襲われて船が大揺れすることもあるかもしれませんが、それでも沈むことなく海を渡っていきます。

私達の体も時には大事なプレゼンでドキドキしたり、仕事で疲れてぐったり、時には感染症に襲われてひどい目にあったりしますが、船と同じくバランスを保ちながら日常という名の海を渡っていきます。

私達の体は揺れながらも沈まない仕組みが備わっていますが、こういった仕組みは恒常性と呼ばれています。

またこの恒常性を保つ仕組みは、免疫系や自律神経系、内分泌系で構成されていますが、これらのシステムを動かすためにはいくつかの栄養素が大事になってきます。

自律神経失調症:熊本市南区の藤川整骨院&整体研究所

こういった栄養素にはビタミンやミネラルなど様々なものがあるのですが、アミノ酸というのも、これらのシステムをうまく動かすための大事な栄養素の一つになります。

アミノ酸にはどのようなものがあるのか?

アミノ酸はたいへん小さな小さな物質で、化学式で書くと下の図のような形になっています。


協和発酵バイオ
アミノ酸の基礎知識|アミノ酸ナビ|研究開発|協和発酵バイオ株式会社

上の図のRの部分が違うと異なるアミノ酸になるのですが、自然界ではおよそ500種類のアミノ酸があり、その中でも20種類のアミノ酸が私達の体を作り上げています。

またこれらのアミノ酸は、体の中で作ることができない必須アミノ酸と体の中で作ることができる非必須アミノ酸に分けることができます。


透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】
必須・非必須アミノ酸の構造式の一覧【全部で20種類あります】

 

このようにアミノ酸は様々な種類があるのですが、どのようなアミノ酸が不安を減らす効果があるのでしょうか?

不安を減らすアミノ酸

タウリン、オルニチン、フェニルアラニン、チロシンの効果

タウリンはイカやタコ、オルニチンはシジミ、フェニルアラニンは豆類、チロシンはチーズに多く含まれている食べ物ですが、これらの組み合わせでストレスを感じにくくなる効果があるという研究があります。

ドイツのボン大学、デボラ・アームボルスト博士らの研究グループは、これらのアミノ酸がストレスの感じ方にどの程度影響を与えるかについて調べています。実験では、健康な成人男女59名に、タウリン(1000mg)、オルニチン(2000mg)、フェニルアラニン(200mg)、チロシン(1000mg)、その他ビタミン、ミネラルが複数含まれた粉末を12週間被験者に飲ませているのですが、その結果ストレスが軽減することが示されています(※1)。

その理由としては、タウリンやチロシン、フェニルアラニンが増えることで体内でセロトニンが作られやすくなったこと、オルニチンが交感神経の働きを穏やかにしたことが関係しているのではないかと論じられています。

バリン、ロイシン、イソロイシンの効果

バリンやロイシン、イソロイシンは筋肉を作る上でとりわけ大事なアミノ酸で、BCAA(分岐鎖アミノ酸)と呼ばれています。 BCAA は、まぐろ、かつお、あじ、サンマ、牛肉、鶏肉、卵、大豆、高野豆腐、チーズなどに多く含まれています。

イランのグラレ・クーチャクプール博士らの研究グループは、イランの成人男女3175名を対象に食事に含まれるBCAAの量が、不安症状やうつ症状とどのように関連しているかについて調べています。

結果、BCAAをより多く取っているものほど、不安症状や抑うつ症状が少ないことが示されています(※2)。

その理由としてはBCAAが、蛋白合成、細胞増殖、血管新生、免疫などのコントロールにかかわるタンパク質であるmTORを活性化するからではないかと論じられています。

リジン、アルギニンの効果

リジンとアルギニンは鶏肉や牛乳、大豆に含まれていますが、これらも不安感を引き下げるという研究があります。

味の素ライフサイエンス研究所の研究では、日本人の成人男女108名を対象に、リジン(2.64mg)とアルギニン(2.64mg)を1週間投与することで、不安感がどの程度変化するかについて調査しています。

結果を示すと、リジンとアルギニンを1週間摂取することで、特性不安(性格的な不安)と状態不安(一時的に引き起こされた不安)の両方が低下することが示されています(※3)。

その理由としては、リジンとアルギニンが増えることで、体の中でストレスホルモンであるコルチゾールが作られにくくなったためではないかと論じられています。

何をどれくらい食べればいいのか?

このようにいくつかのアミノ酸には不安やストレスの軽減効果があることが分かっていますが、では実際何をどれ位食べればいいのでしょうか?

実はアミノ酸を上手く吸収するためには、量だけでなくバランスも大事だと言われています。

アミノ酸の吸収を説明する理論として、「アミノ酸の桶」というものがあります。

これは下の図に記してあるように、アミノ酸は含有量が最も低いもののレベルに合わせて吸収されるという考え方です。

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そのため、アミノ酸を取るにあたっては、いずれの種類のアミノ酸もバランスよく含まれている必要があります。このアミノ酸のバランスを点数化したものが、アミノ酸スコアと呼ばれるもので、魚肉系や卵、牛乳が満点であり、穀物類が比較的低い点数であるのがわかります。

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しかし注意してもらいたいのは、私達の体はアミノ酸だけで動いているわけではないということです。他にも多くのミネラルやビタミン、脂質、糖質、これらがバランスよく取ることで丈夫な体が仕上がります。

中にはこんなに気を使った食事はできないという人もいるかも知れません。

しかし考えてほしいのです。なぜ、気を使った食事ができないのかを。

問題の根本は食べ物自体ではなく、無理のあるライフスタイルそのものかもしれません。生き方自体を変えなければ、おそらく問題は手を変え、品を変え、現れてきます。戦争でいえば、誤った戦略のもとでは、どんな優れた戦術であっても意味を持ちません。戦いに勝つには、戦術に先立って、まず正しい戦略を立てる必要があります。

自分が何がほしいのか、自分がどういった状況にいるのか、自分は何ができるのか、何が変えられて、何が変えられないものなのかを一度立ち止まって考えることが何を食べるかよりも遥かに大事かもしれません。

自分の欲望を教えてくれるのは自分だけです。食事も大事ですが、一度目を閉じてゆっくり考える時間を持つことも、また大事でしょう。

まずは生き方、自分らしい生き方とは何かという戦略を練ることが大事です。戦略を十分練った上で、アミノ酸という正しい戦術を使ってみましょう!

 

【参考文献】

(※1)Armborst, D., Metzner, C., Alteheld, B., Bitterlich, N., Rösler, D., & Siener, R. (2018). Impact of a Specific Amino Acid Composition with Micronutrients on Well-Being in Subjects with Chronic Psychological Stress and Exhaustion Conditions: A Pilot Study. Nutrients, 10(5), 551. https://doi.org/10.3390/nu10050551

(※2)Koochakpoor, G., Salari-Moghaddam, A., Keshteli, A. H., Afshar, H., Esmaillzadeh, A., & Adibi, P. (2021). Dietary intake of branched-chain amino acids in relation to depression, anxiety and psychological distress. Nutrition Journal, 20(1), 1-9.

(※3)Smriga, M., Ando, T., Akutsu, M., Furukawa, Y., Miwa, K., & Morinaga, Y. (2007). Oral treatment with L-lysine and L-arginine reduces anxiety and basal cortisol levels in healthy humans. Biomedical Research, 28(2), 85-90.

 

 

 

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