【保存版】認知症の発症メカニズムとは?世界の脳科学研究34本!
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

認知症と脳科学の最前線 予防と治療の研究最前線

歳を取るとどうしても物覚えが悪くなってしまうのはしょうがないのですが、日常生活に差し障るようになってくるといろいろと苦労も増えてきます。

認知症というのは脳の病気として定義されていますが、その発症機序は複雑です。

果たして現在どの程度のところまでわかっているのでしょうか。

今回、認知症の予防と治療に関わる研究論文を34本まとめて紹介したいと思います。

認知症の発症機序:総説的立場から

21世紀の神官たち:専門家が選ぶ認知症危険因子ワースト7

その昔古代ギリシアでは困ったことがあるとデルフォイの神殿に上がってご神託を伺ったそうですが

20世紀の後半超大国との争いに困ったアメリカ政府はデルフィ方式と呼ばれる調査方法を編み出しました.

これは著明な政策専門家たちに匿名で意見を伺いそれを集約していくことで信頼度の高い情報を精錬するような方法のようですが

この論文はこの匿名専門家によるデルフィ方式と文献調査の両建てで認知症のリスク要因について詳しく探ったものです.

この現代の神官たちと文献調査の結果はだいぶ一致度が高かったようで

主だった認知症発症リスク要因として

1.鬱症状の既往

2.中年期の高血圧

3.身体運動の不活発

4. 糖尿病

5.中年期の肥満

6. 高脂血症 

7.喫煙習慣

といったものがあげられたようです.

その他の要因としては腎不全や冠動脈疾患,知的活動などが挙られたようですが,この辺は統計上ピシャッとは一致しなかったようです.

ともあれ要因の一つに挙げられている抑鬱症状は認知症発症リスクを大きく高めるようで

うつ病が多い現代というのは認知症リスクを抱える個人も多い近未来と捉えることもできるのかなと思いました.

参考URL:

Target risk factors for dementia prevention: a systematic review and Delphi consensus study on the evidence from observational studies.

アルツハイマー病チェックテスト

認知症と一言で言ってもその内実はいろいろですが

その2大巨頭はアルツハイマー型認知症と脳血管型認知症になります.

この2つは症状もそのメカニズムも大分異なっているのですが

一般にアルツハイマー病のほうが進行が早く症状もシビアになりやすいことがしられています.

この論文は,このアルツハイマー病にどれくらい自分がなりやすいか簡単にチェックできる方法についてのものです.

この簡便自己チェックテストは過去になされた膨大な研究をもともに作成されたのですが

アルツハイマー病のなりやすさを決める要因(リスク要因11個,予防要因4個)を重み付けをしてあげているのですが,具体的に上げると

年齢,

性別,

教育,

BMI,

糖尿病,

抑鬱,

悪玉コレステロール,

びまん性軸索損傷,

喫煙,

アルコール摂取,

社会的な関わり,

身体活動,

認知活動,

魚の摂取,

農薬を浴びる経験

といった構成になっており,それぞれに重み付けされた点数が付けられています.

この評価方法で興味深かったのが教育,びまん性軸索損傷(交通事故による微細な脳損傷),アルコール摂取,農薬を浴びる経験です.

この教育が大事というのは教育を受けていた人はその分脳が頑丈になっているようなところがあるようで,アルツハイマー病の発生リスクを下げるそうです.

またびまん性軸索損傷というのは交通事故による頭部打撲で現れることがあるのですが,これも何らかの機序でアルツハイマー病の進行を早めることがあるようです.

アルコール摂取については全く飲まないよりも少し飲んだほうがリスクが減るような点数配分になっており,諸事情でアルコールを控えている私にはショックでした.

また農薬を浴びる経験というのも初めて聞きましたが

アルツハイマー病と発生機序が似ているパーキンソン病については

フランスでは農業によるパーキンソン病の発症が職業病として公式に認定されているような話も聞いたこともあり

発生機序が似ているのなら同じようなことがアルツハイマー病でも起こりうるのかなと思いました.

参考URL:

Development of a new method for assessing global risk of Alzheimer’s disease for use in population health approaches to prevention.

フラミンガム研究と認知症

脳や心臓,近代医療の歴史を書いた本をめくるとよく出てくるものにフラミンガム研究というものがあります.

これはアメリカ合衆国マサチューセッツ州フラミンガム市(人口28000人)の住民を対象にした大規模医学研究で

その時代に増え始めた心臓病がなぜ起こるかということについて,様々な因子(喫煙,教育,食事,飲酒,血中コレステロール値・・・・)がどのように影響するかについて時間を追ってずっと現在まで続いている研究です.

この研究によって今まで明らかにされていなかった心臓病の危険因子が明らかになったり

あるいは多変量解析という解析方法もこのフラミンガム研究を行う中で開発されてきたという歴史があるようです.

この論文は,このフラミンガム研究の一部をなすものなのですが

フラミンガム研究の対象者で認知症でないもので中年(55±10歳)1352名のMRI脳画像を撮り(!!),心臓疾患のリスク因子(糖尿病,喫煙,高血圧など)と脳の萎縮,認知機能・実行機能の低下との関連について10年間の追跡調査を行ったものです.

結果を述べると心臓病のリスク因子になるような糖尿病,喫煙,高血圧はすべからく10年後の脳萎縮,認知機能・実行機能の低下を招いていることが示されています.

それにしても1352名のMRI画像と生活習慣の関連という大きな規模の研究は初めて聞き,すごいなあと思いました.

参考URL:

Midlife vascular risk factor exposure accelerates structural brain aging and cognitive decline

高齢者は認知症リスク要因をいくつ抱えているのか?

認知症というのは,その代表的なものにアルツハイマー型認知症と脳血管型認知症の二つがあるのですが

この両者ともに血管の老化が発症の主要因子となっていることが近年の研究から明らかになっています.

それゆえ血管の健康を保つようなアプローチがそのまま認知症の予防にもつながると考えられているのですが,

一般に高齢者は血管病変リスクをどの程度抱えているのでしょうか.

この論文は,高齢者に対する血管病変予防アプローチが認知症発症の低下にどの程度影響を与えるかについて調べたものになります.

この研究はまだ始まったばかりであり,この論文では対象となる高齢者(70-78歳)が,どの程度血管病変リスクを抱えているかについて報告しているのですが,

血管病変リスクを

1 高血圧
2 BMI>30
3 高脂血症
4 現在喫煙している
5 運動不足

というように見ると
1004人の被験者の中でも87%が最低一つの血管病変リスクを抱えており,その最大のものが高血圧であることが示されています.

この研究では,地域の看護師が主体となって,対象になる高齢者にこれらの血管病変リスクを減らすよう集中的に関わることで,認知症の発症リスクどう変わるかを6年間追いかけるそうです.

自分だけでの健康管理というのはなかなか難しいと思うのですが,地域の知った顔の看護師が関わることで,より効果的に健康管理ができるのかなと思ったり,

いわゆる地域リハビリテーションの様な関わりが,認知症の予防に有効になるのかなと思いました.

参考URL:

Prevention of dementia by intensive vascular care (PreDIVA): a cluster-randomized trial in progress.

認知症発症と腎臓病

慢性腎臓病と認知機能

認知症というのはある日突然なるものではなく,それまでの長い生活歴を反映して発症するもののようですが

この発症要因にはいろいろなものが上げられています.

糖尿病に高血圧,過度の飲酒に喫煙歴,孤独な生活など様々なのですが,近年注目されている危険要素に慢性腎臓病とういものがあります.

この論文は,この慢性腎臓病と認知機能低下の関連性について,過去に行われた大規模研究をデータベースとして約55000人の動向から,その関係性を探ったものです.

結論を述べるとやはり慢性腎臓病と認知機能の間には関連があり,認知症発症リスクを最大で約4割引き上げることが示されています.

直接的な研究ではないのですが,慢性腎臓病に対して血圧管理を十分に行った場合,認知症発症リスクを下げられるという研究もあり

やはり中高年からの身体管理というのは大事なのかなと思いました.

参考URL:

Chronic kidney disease and cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis.

尿検査で分かる?認知症

いろんな文献を読むと認知症というのはある日突然なるものではなく

中年期から徐々に徐々に積み重なって,年を取ったある時にしっかり症状として出てくるもののようで,それゆえ予防的な取り組みが大事になってくるのかなと思うのですが

この認知症のサイン,リスクというのを簡便に知る方法というものはあるのでしょうか.

この論文は,いわゆる尿検査の結果と認知症発症リスクの関係について調べたものです.

尿検査では尿の中にどれだけ蛋白質(アルブミン)が含まれいているか調べているのですが,

この尿中アルブミンが30mg/gCr未満だと正常,

30-299mg/gCrで自覚症状のない早期腎症期,

これが300を超えるといわゆる顕性腎症期になるそうなのですが,

腎臓の傷めはじめのごくごく初期,30mg/gCrを超えると将来認知機能が落ちていき,認知症を発症するリスクが高くなることが示されています.

食べ過ぎ,飲み過ぎは一年に数度くらいのほうが良いのかなと思いました.

参考URL:

A Prospective Study of Albuminuria and Cognitive Function in Older Adults

腎臓と認知症?

認知症を引き起こしうるものとして喫煙や過度の飲酒,糖尿病やうつ病などいろいろなものがあるのですが,意外なところとして腎臓病というものがあるそうです.

日本腎臓学会によると日本では約8人に1人,1330万人が慢性腎臓病ではないかと推測されているのですが,

慢性腎臓病では少なく見積もっても認知症のリスクを約2倍に引き上げうることが様々な研究から報告されています.

この論文はなぜ腎臓病が認知症と結びつくかについて説明したものですが,要点を述べると

①腎臓病のそもそもの要因である加齢,高血圧,高コレステロール症が脳血管を傷める

②腎臓病によって引き起こされる慢性炎症症状,血液凝固性亢進,酸化ストレスが脳血管を傷めたり,神経生成への悪影響を及ぼす

③腎臓病によって引き起こさる尿毒が直接的もしくは間接的に脳血管を傷めたり,神経性性へ悪影響を及ぼす

ということで,最近では③の尿毒の脳への影響が注目されてきているそうです.

慢性腎臓病の原因になるものとしては糖尿病と高血圧,高脂血症というものもあるのですが,

健康診断の結果に,もうちょっとだけ気を使ってもいいのかなと思いました.

参考URL:

Cognitive disorders and dementia in CKD: the neglected kidney-brain axis.

認知症発症とコレステロール

ドロドロ血液は脳に悪い?

血液ドロドロは体に悪いと言われていますが,そもそもこの血液ドロドロというのはどういう状態を指してドロドロというのでしょうか.

またこの血液ドロドロの状態というのは脳にどのような影響を及ぼすのでしょうか.

この論文は血液ドロドロ(血液の粘性)と認知症発症の関係について調べたものです.

研究ではイギリスはサウスウェールズ州に住む65歳から84歳の865名の男性を17年間追跡調査を行って調べたものです.
この865名は調査開始時にはすでに血液の粘性と炎症値に問題があるヒト達ばかりだったのですが,この血液粘性と炎症値,どちらが認知症に影響しているか調べたところ,血液粘性が高いほど脳血管型認知症になりやすいことが報告されています.

この血液ドロドロがどこからくるかというと,どうやら血液の主要成分である赤血球の状態によるところが多いようで

この赤血球がプヨンプヨンしていて変形しやすければ狭くて小さい血管もスルッと通りやすいのですが,これがバツンバツンに固くなると詰まりやすくなったり.

あるいはこの赤血球が過度に凝集しやすくなるとこれまた固まって詰まりやすくなり

こういったことから脳の中に小さな脳梗塞を数多く作って認知症になってしまう,そういうことがあるようです.

この赤血球の柔らかさや凝集性は糖尿病で血糖値が高い状態が続くと大きく悪化するということで

糖尿病の治療・予防が認知症に大事なのはこの辺にあるのかなと思いました.

参考URL:

Is sticky blood bad for the brain?: Hemostatic and inflammatory systems and dementia in the Caerphilly Prospective Study.

なぜコレステロール値が上がるとアルツハイマー病になりやすくなるか

アルツハイマー病の発症要因というのは多岐に渡るようですが,最終的にはβアミロイドと言われる蛋白質が神経細胞に集積して脳の変性を引き起こすようですが

なぜコレステロールが上がるとアルツハイマー病になりやすくなるのでしょうか.

またコレステロール値とβアミロイドとの間には何かしら関係があるのでしょうか.

この論文は,アルツハイマー病の発症機序について詳しく論じたものです.

この論文によると神経細胞の細胞膜には,海に浮かぶ筏(いかだ)のように,ある特殊な領域があり,これは脂質ラフト(いかだ)と呼ばれているようです.

このラフトはその構造上,様々な分子が会合して相互作用を起こしやすいような造りになっており

詳しい機序は不明のようですが,コレストロール値が増えると,このラフトの形や機能も変化し,容易にβアミロイドの前駆物質が作られやすいようになるようです.

体内のコレステロールの大部分は脳にあるそうですが,

それゆえ,コレストロール値というのは脳の機能に影響を及ぼしやすいのかなと思いました.

参考URL:

Alzheimer’s disease: cholesterol, membrane rafts, isoprenoids and statins.

ふくよかな老人はアルツハイマー病になりにくい?

仕事柄,認知症の患者さんを見ることが多いのですが,急激な認知機能の低下を引き起こすアルツハイマー病の患者さんというのは,なんとなくの印象ですが割りと痩せ型の方が多いよいうな感じがあります.

これとは対照的に年相応に緩慢に認知機能が落ちてくるような,おそらく微細な脳損傷が積み重なって発症してくるような脳血管型の認知症の患者さんというのは,わりとふっくら体型なような印象があります.

こういった直感は必ずしも私だけではないような気がするのですが,実際のところ,これを裏付けるような研究というのはあるのでしょうか.

この論文は,ニューヨークに住む4316名の65歳以上の高齢者を対象に血漿中の脂質レベルと認知症発症の関連について調べたものです.

研究では初回評価時を基準にその後の経時的な変化を追っているのですが,

悪玉コレステロールが増えたり,善玉コレステロールが減ったりすると,多少脳血管型認知症の発症リスクが増えること,

また総コレステロール値が上がるほど,アルツハイマー病になるリスクが減ること,

また高脂血症の治療薬によっても脳血管型認知症やアルツハイマー病の発症リスクを減らすことにはならなかったことが示されています.

総じて言えば老年期のコレステロール値の上昇はアルツハイマー病だけで考えれば,必ずしも悪いとは言い切れないということで

老年期のコンディションを整えるのは,中々に難しいなと思ったり

あるいは中庸が大事なのかなと思ったりしました.

参考URL:

Relation of Plasma Lipids to Alzheimer Disease and Vascular Dementia

コレステロール値と認知症は関係ない?

コレステロール値が高いというと何が何でも体に悪いというイメージがありますが,果たしてこれは認知症にも言えることなのでしょうか.

この論文は,コレステロール値が高いことが認知症と直接関係しないのではないか,それよりコレステロール値が下がることのほうがよほどリスクが高いのではないかということを示したものになります.

この研究ではスウェーデンに住む38歳から60歳の1462名の女性を対象に行なったもので,32年間に渡り追跡調査を行って,コレステロール値と認知症の関係を調べたものです.

結論を述べると調査開始時,調査の全期間生き残った人たちを対象にコレステロール値が高い上位4分の1の人達を中央値の人たちで比べた場合,コレステロール値と認知症の発症率に変化がなかったこと,

驚くべきことに,コレステロール値が中年期から人生終末期にかけて下がった人たちの方が認知症の発症リスクを2倍以上(HR 2.35,95%CI 1.22-4.58)押し上げることが示されています.

体内のコレステロールの約3分の1が,実は脳に存在しているそうで,またその殆どが脳の神経線維を包んで髄鞘に含まれているそうです.

この髄鞘というのは,神経細胞同士の高速で効率的な情報伝達を可能にするようなものなのですが,

果たしてコレステロールの低下が,この髄鞘の変性と関係してるのかどうか,

また仮に髄鞘の変性と関係しているのなら,変性が進行してコレステロールが下がるのか,あるいはコレステロールが下がって髄鞘が変性するのか,

果たしてどっちなんだろうと思いました.

参考URL:

The 32-year relationship between cholesterol and dementia from midlife to late life

中年男は脂で決まる?中年から高齢期の認知機能と脂質

嘘か本当かは分かりませんが,先日あるコラムを読んでいたらできる中年は脂ぎっているというものがありました.

記事では脂ぎった各界の実力者を例に上げ「できる中年は脂ぎっている」と結論づけているのですが,健康志向が叫ばれる現在これはどの程度正しいものなのでしょうか.

今日取り上げる論文は中年期から高齢期にかけての脂質レベルが認知機能の低下にどのような影響を与えるかについて調べたものです.

研究ではスウェーデン在住の50歳以上の中高年者819名を対象に血漿中のコレステロール指標を測定し,その後最大16年間に渡って認知機能の変化を追跡調査したものですが

結果を述べると

①女性については50ー65歳においてコレステロール値の低いほうが認知機能も良好で,その後も認知機能が高く保たれる傾向がある.

②男性についてはこれとは逆に50ー65歳においてコレステロール値の高いほうが認知機能が高い.

③ただし65歳以降はコレステロール値が高いほうが認知機能の低下も急である

ということが示されています.

働き盛りのときには多少脂があったほうが仕事ができるということもあるのかなと思ったり

かといって生涯現役を貫くのなら,やはり多すぎず少なすぎず,ほどほどの脂の乗り方が良いのかなと思ったりしました.

参考URL:

Serum lipid levels and cognitive change in late life.

認知症発症とうつ病の関係

鬱の回数は認知症に影響を与えるか

認知症の発症リスクを高めるものには喫煙,高血圧,高脂血症など様々なものがありますが,うつ症状にかかったことがあることが大きく影響することが知られています.

しかしながらこのうつ症状というのは厄介で,一度発症するとその後の再発率も高く二度三度繰り返すことも少なからずあるそうです.

うつ症状というのはそれ自体が作り出すストレス反応によって脳の中でも記憶に関わる海馬にダメージを与えてしまうそうですが,果たして鬱の回数と認知症発症リスクというのは何かしらの関係があるのでしょうか.

この論文は鬱の回数と認知症発症リスクについて調べたものです.

対象はアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア近郊に住む住民1239名で,約25年にわたって追跡して調査しているのですが

結果を述べると

・鬱症状を繰り返すたびに認知症発症リスクも増大する
・初発の鬱症状で認知症発症リスクが約90%上がり
・その後一回の鬱症状の増悪ごとに18%ずつ認知症発症リスクが上がる

ということが示されています.

鬱症状というと目に見えないためになかなか理解を得られませんが,一発で認知症リスクを90%高めるくらいに体(脳)に対する負担が大きい病気なんだろうなと思いました.

参考URL:

Recurrent depressive symptoms and the incidence of dementia and mild cognitive impairment

なぜ老人は鬱になるのか

認知症の原因になるものはいろいろとあるのですが喫煙,高脂血症,高血圧などと並んで有力なものにうつ症状というものがあります.

とりわけ年をとってからのうつ症状は認知症リスクを高めることが知られており,今日取り上げた研究からは約2倍程度まで認知症リスクを高めることが報告されているのですが,なぜ人は人生一安堵,山谷越えた人生後期になってうつ病になってしまうのでしょうか.

人生で振りかかるいろんなストレスを点数化し順位付けしたこの論文中の表を見てみると,これらの点数が一定の基準を超えるとうつ病を含む何らかの疾患を引き起こすことがあるようです.

ざっとこの表を上から見てみると見てみると

「配偶者の死」
「親族の死」
「自分の病気・怪我」
「友人の死」
「収入の減少」
「性的問題・障害」
「退職」
など人生後期になってから遭遇しうるイベントの数が多く

一見退職して安穏と見える人生後期の生活というのは案外ストレス負荷が高いイベントが数多く待ち受けていて,それゆえ人生後期でうつ症状が発症するということもあるのかなと思いました.

参考URL:

Late-life depression and risk of vascular dementia and Alzheimer’s disease: systematic review and meta-analysis of community-based cohort studies.

高齢女性のうつ症状は認知機能のどの程度引き下げるか?

認知症というのは多因子疾患で,様々な原因が折り重なって発症することが知られています.

こういった原因として血圧や喫煙,高コレステロール血症などが知られているのですが,それ以外の大きな原因としてうつ症状というものがあります.

うつ症状も幅が広く,相当シビアなうつから,元気ながないねと言われる程度のうつまで色々あると思うのですが,

こういったうつ症状は認知機能の低下にどの程度影響を与えるのでしょうか.

この論文は高齢女性のうつ症状が,その後の認知機能の低下にどのように影響を与えるかについて追跡調査を行ったものです.

研究では米国メリーランド州在住の認知症を発症していない高齢女性436名を対象に行っているのですが,

研究開始時に軽度以上の抑うつ症状を示した高齢女性はその後認知機能の低下を示す確率が2倍以上になることが示されています.

この研究の特色は,うつ症状が認知機能に与える影響について,丁寧に調べている点で

うつ症状も医者に掛かるような臨床的なものだけでなく,軽度のうつ症状も拾い上げたこと,

また認知機能の低下も認知症の診断という評価ではなく,認知機能の様々な側面を見るテスト(即時再生記憶,遅延再生記憶,注意機能(TMT-A),実行機能(TMT-B))を行っているということろで

認知機能の変化を追うためには,やはり丁寧な評価が必要なんだなあと思いました.

参考URL:

Depressive symptoms predict incident cognitive impairment in cognitive healthy older women

なぜうつ病が認知症を誘発するのか?その仮説的メカニズム

認知症を発症する原因は様々にあるのですが,意外なところでうつ病が認知症を引き起こすというものがあります.

ある研究によるとうつ病になったことがある人はそうでない人と比べて約2倍認知症を発症しやすいということも言われていますが,これはいったいどんな仕組みでそんなことが起こるのでしょうか.

この論文は,このうつ病と認知症の関係についてその仮説的メカニズムを示したものです.

少々専門的な言葉が出てきますが,そのフローチャート的な流れを以下に示すと

まず基本的なうつ病と認知症のつながりを示すモデルとしては

ーーーーーうつ病ーーーーー  ←   ←
↓         ↓        ↑
グルココルチコイド増加  脳血管疾患     ↑
⇣  ↓        ↓         ↑
⇣  海馬萎縮  全体的な脳虚血症状→前頭線条体経路異常
⇣   ↓       ↓         ↓
⇣    脳機能/認知機能の残存機能の低下
⇣                ↓
⇢  ⇢  ⇢ ⇢ ⇣      ↓
⇣      ↓
アルツハイマー病要因→アルツハイマー症状→アルツハイマー病診断

という流れがあるのではないかということが示されており

これにもとづく経路としては5パターン考えられ

1 うつ病→→→正常な認知機能→(時間がたっても安定)→正常な認知機能

2 うつ病→うつによる海馬萎縮などの神経変性→軽度認知症→軽度認知症で安定

3 うつ病(背景にアルツハイマー病病変)→軽度認知症→アルツハイマー病診断

4 脳血管疾患     前頭線条体経路損傷    うつ病
    +     →     +     →   ⇅
アルツハイマー病     海馬萎縮       軽度認知症→アルツハイマー病
                                +
                              脳血管疾患

5                 うつ病
  脳血管疾患→前頭線条体経路損傷→⇅  ↓
                  軽度認知症→脳血管型認知症

というものがあるそうです.

少々ややこしいですが,にらめっこすると仮説とはいいうものの,なるほどなあと思いました.

参考URL:

Pathways linking late-life depression to persistent cognitive impairment and dementia

ストレスの多い中年女性は認知症になりやすい?

日常生活を送るにあたって多少のストレスは避けがたいと思うのですが,これも継続的になったり強すぎたりするとココロやカラダを傷めることがあるようです.

最近は女性のストレスが話題にされることも多いのですが,これは認知症の発症とどのように関係してくるのでしょうか.

この論文は,中年期に高いストレスを感じる女性が認知症にどれ位なりやすいかについて調べたものです.

研究ではスウェーデンに住む女性1462名を対象に日常生活でのストレスをどれ位感じるかについて調査を行い,その後定期的に同様の調査を数回はさみながら20数年の追跡調査を行っているのですが

結論を述べると,ストレスを感じる頻度が高いほど,またストレスを感じる期間が長いほど,認知症発症リスクが高まることが示されています.

具体的にはストレスを頻繁に感じると答えた女性はおよそ60%認知症リスクが増大し,

数十年の追跡調査で,ストレスを感じると答えた回数が一回であれば発症リスクは10%,2回であれば70%,3回であれば250%押し上げられることが示されています.

認知症の発症に関わるものはいろいろあるとは思うのですが,無理のないライフスタイルというのも大事なんだろうなと思いました.

参考URL:

Midlife psychological stress and risk of dementia: a 35-year longitudinal population study.

認知症発症と高血圧

ハワイの日系人に見る認知症予防に有効な血圧とは

認知症というのは年を取って急になるような病気ではなく,長い年月をかけて完成されていくいわば成人病のようなものだと思うのですが

この認知症を予防するためには,具体的には中年期に血圧をどれ位に抑えておくのが良いのでしょうか?

この論文は,ハワイに住む日系人を対象に大規模調査を長期間行い

どれ位の血圧が,どの程度認知症に影響を及ぼすかについて詳しく調べたものです.

研究では1900年から1919年に生まれた7838名の日系人を対象に,中年期(平均54歳)の収縮期血圧と,その後の認知症発症の関係性について調べています.

結論を述べると,中年期に収縮期血圧が120mmHg未満であったものに比べて120mmHg以上140未満であったものはやはり認知症(脳血管性/アルツハイマー病/脳血管・アルツハイマー病合併)になる確率が上がり,

認知症発症原因の17.7%が高血圧という理由で説明できること,

さらにこの中でも治療を行わなかったものについては認知症発症原因の27%が説明できることが示されています.

なんだか同じ民族のことで示されると,妙に説得力があるなあと思いました.

参考URL:

Lowering midlife levels of systolic blood pressure as a public health strategy to reduce late-life dementia: perspective from the Honolulu Heart Program/Honolulu Asia Aging Study.

中年から始まる女性の認知症

女性と男性というのは同じ人間ではありますが,ホルモン分泌の関係から老化の仕方というのは多少違いが出てくるようです.

特にこれは血圧の変化に顕著で更年期前からその後にかけて血圧の急激な上昇が見られるケースが多いようですが,これは認知症の発症と何らかの関係があるのでしょうか.

この論文はスウェーデンに住む中年女性を平均37年間追いかけて,中年期の血圧とその後の変化が認知症の発症にどのように影響を与える化について調べたものです.

認知症の発症機序は複雑でありはっきりとした結果というところまではでなかったようですが

それでも中年期(40代)に血圧の高い女性というのは一般に認知症になるリスクが高まり

さらに大事なことには中年期に血圧がそれほど高くはなくても,中年期以後に毎年血圧がどんどん上がっていくようなケースではやはり認知症発症のリスクが高くなることが示されています.

それゆえ女性の場合は,これくらいの血圧だったらまだ大丈夫という判断ではなく,若い頃と比べて大分上がった,もしくは最近上がり気味というところで気をつけなければいけないのかなと思いました.

参考URL:

Blood pressure trajectories from midlife to late life in relation to dementia in women followed for 37 years.

高血圧はアルツハイマー病になりにくい?

認知症というのは,様々な種類のものがありますが,その中でも代表的なものに脳血管型認知症とアルツハイマー型認知症というものがあります.

前者は大小様々な脳血管が詰まったり破れたりして認知機能の低下が起こってくるもので,これについては高血圧が大きな発症因子になることが知られていますが,

脳の神経細胞そのものが変性してしまうアルツハイマー病については,血圧の高さというのはどのように響いていくるのでしょうか.

この論文は,血圧とアルツハイマー病の発症リスクについて調べられた研究について,その結果をまとめ上げて検討を行ったものになります.

この研究では高血圧とアルツハイマー病の発症リスクについて調べたれた19本の研究を対象にその全体的傾向を調べているのですが

結果を述べると,研究結果はその研究により様々で一貫した傾向が見られなかったこと,

しかしながら中年期(65歳未満)と高齢期(65歳以上)に分けて見てみると

添付図のように中年期においては高血圧がアルツハイマー病の発症リスクを上げる因子になっているのに対して

高齢期においては逆に高血圧がアルツハイマー病の発症リスクを下げる因子になっていることが示されています.

高齢者においてこのような結果が見られた原因については,研究手法のバイアスが関係しているかもしれないといいつつ,どうも歯切れが悪く

高齢者においては多少BMIが高めの方が認知症になりにくいという別の研究があったことも考え合わせると

やはり高齢期というのは中年期と同じようには扱えないのかなと思いました.

参考URL:

The association between blood pressure and incident Alzheimer disease: a systematic review and meta-analysis

認知症発症と肥満

ずんどう体型は認知症になりやすいか?

認知症というのは人生の総決算的な意味合いがあるようで,若いときの教育歴から生まれて間もない時の生育環境,中高年の健康状態,種々ストレス,遺伝,いろんなものが合算されて起きるようですが,中高年期の体型から晩年の認知症というのはどの程度予測できるのでしょうか.

この論文はなんと32年間スウェーデンに住むおよそ1500名の女性を対象に,体型と認知症の関係について探ったものです.

結論を述べると中高年期のウエストとヒップの比率が0.8以上の寸胴体型になると認知症になるリスクが2倍程度に跳ね上がることが報告されています.

いろんな要因はあるとは思いますが中高年期の体型管理も大事なんだろうなと思いました.

参考URL:

Adiposity indicators and dementia over 32 years in Sweden

痩せは認知症になりやすい? Jカーブに見るオーストラリアの認知症事情

一般に肥満体型は認知症につながりやすいということが言われていますが,はたしてこれは本当なのでしょうか.

病院や施設で長生きしているおじいさんおばあさんを見ていると,割にふくよかな人がしゃっきりしながら長生きしているような気がしているのですが,なんだか肥満=認知症というのは,老年期にはいまいち当てはまらないような気がします.

この論文は,老年期の肥満が認知症に関連しているかどうかについて調べたものです.

対象はオーストラリアのパースに住む男性65歳から84歳の12,047名で,肥満の指標としてBMI,ウエスト周径,ウエスト/ヒップ比を用いて,肥満傾向と認知症の発症リスクについて調べています.

結果を述べると,たしかに過度の肥満は認知症になりやすいものの軽度の肥満ではそうでもないこと,

また驚くべきことに痩せ型の老人男性は過度の肥満の老人男性と同じ位認知症のリスクが高くなることが示されています.

こういった現象は添付図を見て頂ければ分かるようにJカーブ現象と呼ばれ,

過小であることが過大と同じような効果を示す現象が体型と認知症の間でも起こるようです.

研究の問題点として,被験者が全員男性であったこと,また対象は全員65歳以上で非認知症の高齢者なのですが,中年期で肥満であった人たちが認知症になったり死亡したりして,対象から除外された可能性があるといった点はあるようですが

健やかに歳を取るというのもなかなか容易でないなと思いました.

参考URL:

Body Adiposity in Later Life and the Incidence of Dementia: The Health in Men Study

中年期の体重はどこまでOKか?

認知症というのは,年をとって急になるようなものではなく,目に見えないところで中年期から潜伏的に症状が進行し,いよいよという時になって物忘れが目立つという形で顔を出すようなのです.

こういったことから認知症を予防するためには中年期からのしっかりとした健康管理が大事とは言われているのですが,果たして体重の面で言えばどのへんまでがOKでどの辺からがNGっぽくなるのでしょうか.

こういった線引は一概には言えないとは思いますが,今日取り上げる論文は中年期のスリム体型(BMI=21)とやや太(BMI=25)で年をとった時に認知機能に差がでるかどうかについて数十年追跡調査を行って調べたものです.

結論を述べると,極度の肥満体型でなくても太め体型のBMIが25程度(身長160で64キロ,身長170で72キロ)でも年をとった時の認知機能がスリム体型に比べて大分落ちるということで

脳を健康に保つというのは食いしん坊にとってはけっこう大変なんだろうなと思いました.

参考URL:

Being Overweight in Midlife Is Associated With Lower Cognitive Ability and Steeper Cognitive Decline in Late Life

認知症発症と生活習慣

なぜあの人は飲酒喫煙でも元気なのか?

世の中というのは大分不平等にできていて

いくらお酒を飲んでもタバコを吸っても歳をとっても元気な人というのがいますが,これはいったいなぜなのでしょうか.

この論文は,認知症の進行とC反応性タンパク質(CRP),遺伝子の関係について調べたものです.

CRPというのは体内の炎症や細胞破壊を反映する指標で,これが高い人ほど認知症になりやすいというのが従来の定説でしたが,この論文では必ずしもそうとは限らないのではないかということが述べられています.

研究ではスコットランドとアイルランド,オランダに住む70歳から82歳の高齢者男女5804名を対象に,平均3.2年の追跡期間で認知機能とその低下率について調べているのですが,

研究の結果,認知症の進行とCRPというのは従来言われているような因果関係を示さず,それよりもCRPの代謝に関わる遺伝子のタイプや,アルツハイマー病の発症遺伝子と言われるApoE ε4の影響のほうがよほど強かったことが示されています.

なぜこのような結果になったかという理由として

C反応性タンパク質(CRP)の濃度というのはあくまで副次的な指標であり,

大事なのはC反応性タンパク質(CRP)がどれだけ血管の中で凝固しているかであり,

この凝固のしやすさというのはCRPに関わる遺伝子に影響されるからではないかということが述べられています.

生活習慣も大事だけど,生まれつきの身体の頑強さのようなものもあるのかなあと思いました.

参考URL:

C-Reactive Protein and Genetic Variants and Cognitive Decline in Old Age: The PROSPER Study

ヒトは平等にあらず:認知症と健康習慣

タバコがからだに悪いことは知っていますが,私たちはまた,だれもかれにも悪いわけではないということも知っています.

タバコを吸っても酒を飲んでもピンピンしているヒトはピンピンしており,それゆえ必ず体に悪いわけじゃないからいいじゃないかと思ってしまうのが人の性だと思うのですが,これは認知症が絡んできた場合どうなるのでしょうか.

この論文は,不健康な生活習慣や体質が遺伝と絡んで,どのように認知機能に影響するかについて調べたものです.

遺伝というのは結構な力を持っていて,いろんな病気の確率を高めたり低めたりするのですが,

その中でもアルツハイマー病の発症に大きく影響すると言われるAPOEε4遺伝子があります.この遺伝子の塩梅でヒトはアルツハイマー病の発症確率が大分上がってしまうそうなのですが

今日取り上げる研究では,心臓に害を与えるような不摂生な生活状態(喫煙,高コレステロール,高血圧,糖尿病)がAPOEε4遺伝子を持っている人といない人ではどう違うかについて調べています.

結論を述べると,同じようにタバコを吸って血糖値や血圧が高くても

アルツハイマー病の遺伝因子であるAPOEε4遺伝子を持っている人は認知機能の低下がより著明になることが示されています.

つまり同じように不摂生な生活をしていたとしてもアルツハイマー病遺伝子を持っている人はてきめんに脳に悪影響が出やすいということで

ヒトのカラダというのは相当不平等にできているなあと思いました.

参考URL:

Cerebrovascular risk factors and preclinical memory decline in healthy APOE ε4 homozygotes

喫煙は認知症を予防する?

普通に考えれば喫煙は認知症の発症に良くない影響を与えそうな気がするのですが,幾つかの研究では喫煙が認知機能の低下を防ぐのではないかということも報告されているそうです.

この論文は,近年行われた喫煙と認知症の関係についての複数の大規模研究を元に,参考に実際のところ,喫煙は認知症に良いのか悪いのかを探ったものですが,はたして軍配はどちらの方に上がるのでしょうか.

この研究では1996年から2007年にかけて発表された65歳以上を対象にした28本の疫学的研究論文を対象に喫煙と認知症の関係について調べているのですが

結論を述べると

①喫煙はアルツハイマー病の発症率を有意に高める

②有意ではないが脳血管型認知症とその他の認知症(レビー小体型など)の発症率を高める傾向がある

③過去に喫煙していた人(現在禁煙し続けている人)と現在喫煙している人では認知症の発症率に大きな差が見られる

④一般に言われている喫煙が認知機能の低下を予防するというのは,ニコチンの薬理効果による一時的な認知機能(注意機能,記憶機能)の高まりのためであって長期的に見れば,認知機能の低下を引き起こすのではないか

ということが述べられています.

具体的には現在65歳以上で現在喫煙中であれば,一度もタバコを吸ったことがない人と比べてアルツハイマー病の発症率は1.59倍,脳血管型認知症は1.35倍,認知機能の低下は1.20倍なのですが

興味深いことに,過去に喫煙していたけど禁煙を続けられている人は,一度もタバコを吸ったことがない人と較べてアルツハイマー病で0.99倍,脳血管型認知症で1.02倍,認知機能の低下だけでみれば0.9倍と比較的低くなっていることで

禁煙を続けられる人というのは他の生活習慣にも気を配ったり,あるいはいろんなことを抑制できたりするため,認知機能を保ちやすいのかなと思ったり

これらの人がひとまとめに喫煙歴があるということで一緒に計算されるために,喫煙と認知機能の関係結果(喫煙は認知症の予防に良い?)に偏りが生じたのかなと思いました.

参考URL:

Smoking, dementia and cognitive decline in the elderly, a systematic review

アルツハイマー病方程式

アルツハイマー病というのは中々に複雑な病気で

骨折や火傷のように単純な原因で発生するわけではなく,

発症に至るには遺伝子やら生活歴,教育,体型いろんな要因が絡んでいるようですが,これらをひとまとめにして一つの計算式として発症リスクを計算することはできるのでしょうか.

この論文は,アルツハイマー病の発症リスクについて各要因の重み付けを行ったものです.

この研究ではニューヨークに住む65歳以上の高齢者4182名を対象に,平均4年の追跡期間を経て,各要因のアルツハイマー病発症リスクについて重み付けを行っています.

要因として取り上げたのは

年齢、性別、教育、民族性、APOEε4遺伝子型、糖尿病歴、高血圧、喫煙、高密度リポタンパク質レベル、および腰部/腰部比ですが,

もっとも重み付けが重いのが年齢で,これは85歳以上で跳ね上がり,

次いでヒップとウエストの比率が高かったり,

あるいは教育歴が小学生レベルであったり

喫煙していたりというのが比較的リスクを上げやすいことが示されています.

喫煙とヒップ/ウエスト比が、アルツハイマー病関連遺伝子であるAPOEε4遺伝子型よりも,リスク寄与率が高いようで

年齢リスクはいかんともしがたいけれど,生活習慣で大分アルツハイマー病のリスクを軽減できるのかなと思いました.

参考URL:

A Summary Risk Score for the Prediction of Alzheimer Disease in Elderly Persons

認知症発症と環境の影響

メキシコの認知症調査に見る教育の重要性

認知症というのは年を取ってある日突然になるようなものではなく,若い頃からの生活の積み重ねで出て来る一生ものの病気とも言われるのですが

果たして若い頃の勉強,学歴というのは認知症の発症にどの程度影響を与えるものなのでしょうか.

この論文はメキシコに住む7000人の高齢者を対象にした大規模調査についてのものです.

この研究で面白いと思った点が二つあるのですが,一つは評価方法に実行機能の程度を強く盛り込んでいるところです.

認知症というのは単に物忘れが進むだけでなく,日常生活に付随するいろんなことをやり行う能力が低くなってしまいます.

家事というのは結構な認知機能を動員すると思うのですが,例えば台所に立って違う料理を3品同時進行で作るのは認知機能が落ちてくると難しいですし,洋裁ができたとしても,布を選んで買って計画して仕上げるというのは,単に手を動かす以上に認知機能が求められます.

こういった何かを計画立ててやり遂げる力のことを実行機能というのですが,この研究ではこの実行機能がどれ位障害されているかをきちんと調べている点が興味深く,

またもう一つ興味深かったのはメキシコにおける教育歴が認知症に与える程度で,

メキシコでは経済格差が大きく貧困による教育格差が高齢者ほど大きいようで

教育歴に乏しい高齢者はそうでないものと比べて1.5倍認知症になりやすいことが示されています.

若い頃の教育で認知症になりにくくなる背景として,若い頃の脳への負担で神経回路がより頑強なものになるからではないかということが仮説的に言われていますが

若い頃の脳への負荷は色んな形で一生涯影響してくるのかなあと思いました.

参考URL:

Prevalence and Incidence Rates of Dementia and Cognitive Impairment No Dementia in the Mexican Population

 

寂しさがアルツハイマー病に与える影響

ヒトは社会的な動物と言われています.

それゆえ社会で不適合を起こすと心身ともに様々な変調が現れてきますが,これは果たしてアルツハイマー病の可能性をどれだけ押し上げるのでしょうか.

この論文は孤独感とアルツハイマー病発症の関係について探ったものです.

研究ではイリノイ州シカゴの高齢者施設に住む老人(平均80.7歳),857名を4年間追跡して孤独感とアルツハイマー病発症の関係について時間を追って調べているのですが

結果を述べると孤独感が強い高齢者はそうでない高齢者と較べて2倍近くアルツハイマー病発症のリスクが高まることが示されています.

このような減少が起こる背景として,齧歯類を使った研究では孤独な環境に置くことで脳由来神経栄養因子(BDNF)が低下し,海馬の神経細胞の可塑性も低下し,様々な認知機能が低下することから

孤独によって記憶関連領域が脆弱になり

それゆえアルツハイマー病の素因に対しても脆弱になるのではないかということが述べられています.

高齢者の孤独を包摂できるようなシステムが大事になってくるだろうなと思いました.

参考URL:

Loneliness and risk of Alzheimer disease.

認知症発症と内科疾患

アルツハイマー病はアミロイド沈着だけではない

認知症には様々な種類がありますが,その中でも有名なものにアルツハイマー型認知症があります.

これは脳の中にアミロイド蛋白が沈着して脳が変性萎縮してしまう病態で,

脳の血管の問題で引き起こされる脳血管型認知症とは発症機序が異なるのですが,果たしてアルツハイマー病には脳の血管病変は関与しないのでしょうか.

この論文は,大脳白質病変とアルツハイマー病の関係について調べたものです.

大脳白質というのは脳の神経細胞をつなぐ神経線維なのですが,この神経線維が脳の中の微小血管の変性により変化してしまうことがあるそうです.

この研究ではあるデータベースからアミロイド沈着量と大脳白質病変の量がどの程度アルツハイマー病発症を引き起こす可能性がある化について調べているのですが

アミロイド沈着も大脳白質病変もともにアルツハイマー病発症を説明できる要因になること

またこの二つが合わさることで発症確率が上がることが示されています.

アルツハイマー病というのはやはり多因子疾患なのだなあと思いました.

参考URL:

White matter hyperintensities and cerebral amyloidosis: Necessary and sufficient for clinical expression of Alzheimer’s disease?

糖尿病と老年症候群

年をとると忘れっぽくなったり,歩き方がおぼつかなくなったり,尿もれがでてきたりと,いろんな不都合が出てきますが,

英語圏ではこういった加齢に伴う症状をまとめて「老年症候群(geriatric conditions)」と呼ぶそうです.

この論文は,糖尿病がこの老年症候群のそれぞれの症状にどのような影響を与えるかについて過去の研究を取りまとめて調べたものになります.

この論文で取り上げられている老年症候群の症状は

・認知症(アルツハイマー型・脳血管型)

・運動機能の低下

・うつ病

・尿失禁

なのですが,糖尿病があることで認知症の発症リスクはおよそ1.5倍(脳血管型だけであれば2.4倍)になること,

認知機能の低下ということであれば,糖尿病患者は実行機能の低下が顕著であるということ

※実行機能:
目的を達成するために,段取り良くしっかりと計画を立てて何かをするための統括的な能力,イメージとしては,緊張や不安で本番に弱いという,一時的に実行機能が低下している状態を考えてもらえればと思います.

加えて運動機能の低下というところでは転倒リスクが高まるようで,糖尿病患者の女性の転倒リスクはおよそ1.2倍になること,

うつ病は有意差は示されなかったものの,合併症がある場合なりやすくなること,

さらに尿失禁のリスクもおよそ1.2倍になることが示されています.

一つだけでも大変なのに,いろんなものが積み重なってくる老年というのは,中々に大変なのだろうなあと思いました.

参考URL:

Diabetes and the Risk of Multi-System Aging Phenotypes: A Systematic Review and Meta-Analysis

なぜ糖尿病でアルツハイマー病になりやすくなるのか?

アルツハイマー病というのは年々罹患人口が増加しており、アメリカ合衆国で言えば2047年には現在の4倍に増加するのではないかとも目されています。

アルツハイマー病を誘発する要因についてが数多く挙げられているのですが、そのうちの一つに糖尿病があります。しかしながらなぜ糖尿病が脳の病気であるアルツハイマー病を誘発してしまうのでしょうか。

今日取り上げる論文は2型糖尿病と後発性アルツハイマー病の関係について探ったものです。

結論を述べると2型糖尿病を罹患しているヒトは約1.7倍後発性のアルツハイマー病になりやすいのですが,なぜこうなるかの理由として

2型糖尿病

(微小)脳梗塞

脳内でのアミロイドが生成しやすくなる(生成閾値低下)

アミロイド集積

アルツハイマー病発症

というような流れがあり

間に脳梗塞が介在することで脳内でアルツハイマー病の原因となるアミロイドが集積しやすくなり,その結果アルツハイマー病になりやすくなるのではないかということが述べられています.

この流れは仮説レベルで実証まではされていないようですが

糖尿病

脳梗塞

アルツハイマー病

ということで3つの病気がつながっているのかなあと思いました.

参考URL:

Type 2 diabetes and late-onset Alzheimer’s disease.

心房細動と認知症

認知症というのは脳の病気なのですが、不思議な事にいろんな内臓の異常と関係して起こってくるそうです。

今日取り上げる論文は心房細動と認知症の関係についてものです。

心房細動というのは心房がけいれんするように細かく動いてしまう病気なのですが

この心房細動というのがどうも認知症のリスクを高めてしまうそうです.

ちなみに認知症というのは,脳の血管が詰まったり破れたりして脳が傷んで脳血管型認知症や

脳の神経細胞にゴミ(タウタンパク質)が溜まって変性を起こしてしまうアルツハイマー型認知症などがあるのですが,

この論文のポイントを拾い上げると

①心房細動というのは脳血管型とアルツハイマー型の両方の確率も高める.

②どちらかというとアルツハイマー型への影響のほうが大きい

③75歳以上の女性で心房細動がある場合で認知症の発症率は2倍になる

④女性のほうがなりやすい背景として,男性に比べて心房細動の投薬治療を受けていない人が多いからではないか

ということが述べられています.

心房細動というと血栓が飛んで脳血管型認知症なのかなとおもいきや,必ずしもそうではないみたいで,体の仕組みはいろいろと複雑だなあと思いました.

参考URL:

Atrial fibrillation and dementia in a population-based study. The Rotterdam Study.

 

認知症の予防に関する研究はこちらにまとめてあります。

ぜひどうぞ!

疲労もまた認知症の遠因になりますが、疲労についての生理学的研究は以下のものをご参考ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最新の学術情報をあなたへ!

脳科学コンサルティング・文献調査・レポート作成・研究相談を行います。マーケティング、製品開発、研究支援の経験豊富。納得のいくまでご相談に応じます。ご相談はこちらからどうぞ!

 

脳科学専門コンサルティング オフィスワンダリングマインド

脳科学コンサルティング・リサーチはこちら!

脳科学を中心に、ライフサイエンス全般についてのコンサルティング・リサーチ業務を行っております。信頼性の高い学術論文を厳選し、分かりやすいレポートを作成、対面でのご説明も致します。ご希望の方にはサンプル資料もお渡ししますので、お問い合わせからご連絡くださいませ!