感情は本当に普遍的か?脳と感情の新たな神経生理学的パラダイム
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あなたの喜びとは何か?悲しみとはなにか?

私達は日々、様々な感情を体験しますが、この感情とはどのようなものなのでしょうか?

心理学の授業や本でよくあたるものに感情は普遍的であるというテーゼがあります。

これは典型的な喜びの顔や怒りの顔、悲しみの顔というのは世界中どの文化圏であっても(ニューヨークであってもアフリカの奥地の部族でも)同様に認知されることから、

喜怒哀楽の感情は文化を超えて普遍的であるというものです。

こういった知見はミラーニューロン仮説など神経生理学的な分野へも取り入れられ、ほぼ定説化していたのですが、近年はこの元になった実験手法の根本的な問題などが示されています。

具体的には、通常、上記の写真を見せ、感情を判定させる課題では、喜び、怒り、悲しみといった選択肢を提示するのですが、選択肢を排除した場合、判定率は急激に低下することから、選択肢の提示そのものが強い選択バイアスを導いている可能性が示されており

「感情は普遍的である」というテーゼに疑問が持たれています。

しかし本当に感情は普遍的なのでしょうか?

あなたの感じる「悲しみ」と私の感じる「悲しみ」はイコールの等号符で繋げられるようなものなのでしょうか?

今回取り上げるのは、ヒトが感じる感情とは概念であって生得的なものではないという新たな主張について書かれた論文になります。

The theory of constructed emotion: an active inference account of interoception and categorization.

なんだか分かるようなわからないような話なのですが、そもそも概念とはどのようなものなのでしょうか。

さて私達は日々いろんなものを認識します。

ポチを見れば犬だと認識し、お皿を見れば食器だと認識します。

しかしながら犬や食器というのは概念であり、事前に何の知識も持っていない赤ちゃんや宇宙人には認識できないものです。

つまり概念というのは学習を通じて後天的に作られたものであり、生まれながらに判別できるなにかではありません。

このように私達は色んなものをそれぞれ異なるように認識しますが、この認識を行うためには、私達は概念というものを一度頭の中で組み立てる必要があります。

ではなぜ私達の脳は概念を必要とするのでしょうか?

生存装置としての脳

なぜ私達の脳が概念を必要とするかについてこの著者は、「エネルギー使用を最適化するため」と考えます。

人間を始め、生物全体が根本的になさねばならないのは生き延びることです。

食物を見つけ、生殖し、戦い、生き延びることが日々求められます。

どこに注意を向けるのか、休むのか、動くのか、限られたエネルギーをうまい具合にその瞬間瞬間で振り分けなければいけません。

世界の莫大な物理的情報(光学的エネルギーや音響のような空気の振動)を、脳の中でうまく加工してモデル化する必要があります。

世界はあなたが見たまんま、感じたまんまではありません。

あなたとコウモリが同じ時間に同じ場所にいたとしても、あなたが知覚する世界像とコウモリが知覚する世界像は全く異なるはずです。。

私達の脳は概念というものを使って、この莫大な物理情報を整理して効率的に分かりやすい形で世界像を組み立てます。

不意に体が上下左右に揺られる感覚にさらされると「地震」だと認識し、空に見える灰色の色調を見れば「雲」だと認識します。

私達の脳はこのように様々な物理的情報を概念としてとりまとめることで、効率よく世界を認識できるように調整しています。

ここでまた感情の話に戻るのですが、この筆者の主張というのは、私達が日々感じる怒りや悲しみといった感情もまた「概念」であるというものです。

そしてこの感情「概念」は、あなたが置かれた状況によって、随時適切に「構築」されるとされています。

これはあなたが、自分から進んでジェットコースターに乗った時のことを考えてみればわかるかと思います。ジェットコースターが落下して急激にGがかかり、あなたの胸は高まりますが、あなたの脳はこの胸の高鳴りをスリルや喜びといった感情として捉えるでしょう。

しかし同じ物理的な状態が異なる文脈で体験されたとしたらどうでしょうか?例えば先に上げたジェットコースターと同じGを墜落しそうな飛行機の中で感じ、同じ胸の高鳴りが生じたとしたら、生じる感情は同じものでしょうか?ほぼ確実時それは恐怖に近い感情になるのではないかと思います。

このように私達の脳は物理的情報と置かれた文脈の療法を使って、適宜感情を「構築」します。

これは私達が普段認識する方法と全く一緒であって、

白い肌のマイケル・デイビスさんを「アメリカ人」とも認識できますし、「我ら人類」と認識するかもしれません。

胸の高鳴りを「喜び」と捉えることもありますし、「恐怖」と捉えることもあります。

このように筆者は感情もまた他の概念と経験を通じて同様に学ばれて、状況に応じて構築されるものであり、その目的は私達の生存確率を高めるためだとしているのですが、

私達の脳はどのようにしてこういった構築作業を行っているのでしょうか。

 

私達の脳は感じて反応するのではない。予測して修正をするのだ。

では考えてみましょう。

私達の脳は網膜に入るすべての光学的情報や鼓膜を打ち鳴らす莫大な空気の振動情報を、一つ一つ脳の中でその都度概念に変換しているのでしょうか?

いくら脳の性能が高くてもさすがにそれは難しいような気がします。

古典的な考え方では、何かを認識するに当たり

入力→認識→出力

のようなモデルで考えられることが多いのですが、

むしろ

予測→修正→再予測

として考えたほうが自然ではないでしょうか?

世界に向かい合うにあたって、私達は常に予測しながらものを見ています。

セラピストであれば患者の動きや触知される筋の感覚を予測しながら知覚しますし、

営業職であれば、これから話をするであろうヒトの人となりを無意識のうちに予測しながら話をします。

本を読むときには、つぎに出てきそうな文章を予測しながら読みますし、車の運転をするときには次の瞬間がどうなっているのかを

無意識下で予測しながら運転をします。

このように私達は事前に予測して、つまり当たりをつけて世界を認識しています。

その昔私にとって、全くの異界である大阪にでかけたときに鏡で見た自分の顔が西川のりお風の顔になっていてびっくりしたことがありましたが、

私達の脳は偏見なしに物事を見るのは難しく、絶えず事前に文脈の沿って予測を立てながら世界を捉え、予測が間違えば、その予測システムを修正するという形で世界に関わっていると考えるほうが自然ではないでしょうか。

いろいろと話しが散らばりましたが、筆者の意見を要約すると

・脳は生存のために、体が持つエネルギーの配分を最適化する装置である。

・置かれた状況・文脈に最適に対応できるように私達の脳は世界を認識する。

・世界は複雑なのでできるだけ分かりやすい形で認識をする。そのために脳は概念をその都度構築し、世界を縮約する。

・この認識の仕方は予測的なものである。予測が間違っていた場合は修正されて予測モデルが精緻化される。

・喜怒哀楽といった様々な感情も経験によって構築される概念である。

・私達の脳はこの感情概念を用いることで世界を効率的に知覚する。

というものです。

なるほどなあと思ったのですが、これから少しずつ、この論文に関わる様々な論文を取り上げていきますのでよろしくお願いします。
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