哲学における愛:エロスとアガペー
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

はじめに

人間はもともと愛を抱く存在である。古代ギリシアでは、愛を指す言葉がいくつもあった。代表的なものとしては、エロス、アガペー、フィリア、ストルゲーなどがある。フィリアは「友愛」、ストルゲーは「家族愛」と訳されることが多いが、ここでは現代でもたびたび語られるエロスとアガペーに注目して話を進める。

エロスとは?

エロスとアガペーの違いは何だろうか?簡単に言えば、エロスは「求める愛」、アガペーは「与える愛」と言える。

エロスについて、プラトンは著書『饗宴』でソクラテスに語らせている。その中で、ソクラテスはエロスの起源についてこんな話をしている。太古の昔、人間は男女に分かれていなかった。しかしゼウスの怒りを買い、男と女に分けられてしまった。それ以来、男女は元の完全な状態に戻りたいと互いを求め合っているのだと。

つまりエロスとは、「失われた完全性を取り戻したい」という欲求から生まれる愛なのだ。本来一つだった完全な姿を取り戻そうとする、根源的な欠乏感から生じる愛である。

エロスの根底にあるのはこの「欠乏感」である。お金、権力、恋愛関係への渇望も、すべて「本来あるべき完全な状態が失われている」という感覚から生まれる。この欠乏感が大きいほど、エロスも強くなる。赤ちゃんが母乳を求めて泣くのも、芸術家が完璧な美を求めて創作に打ち込むのも、すべてエロスの表れと言える。エロスは「失われた完全性を目指して上昇しようとする衝動」なのだ。

アガペーとは?

一方、アガペーはキリスト教から生まれた概念である。エロスが「上へ向かう欲求」なら、アガペーは「神から人間へと下る慈愛」である。

キリスト教では「隣人を愛しなさい」と教えるが、これは「神があなたを愛しているから、あなたも他者を愛すべきだ」という考えに基づいている。つまり、条件なしに他者を愛することがアガペーである。

アガペーがどんなものかを具体的に理解するために、結婚式でよく引用される聖書の言葉を見てみよう。この「愛」は原語ではアガペーである:

「愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。不義を喜ばず、真実を喜ぶ。すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える。」(コリント信徒への手紙 一 13章4-7節)

また、聖書にはこんな言葉もある:

「あなたたちへの災いを願う人のために祝福を求め、侮辱する人のために祈り続けなさい」(ルカ書 6章28節)

教師が問題児に根気強く向き合う姿勢にもアガペーが見られるし、ガンジーの非暴力運動の根底にもアガペーがあったと言えるだろう。

まとめ

このようにエロスが求める愛であればアガペーは与える愛であるとも言える。あるいは、自己の完全性を求めんとするのがエロス、他者の完全性の回復を祈るのがアガペーだとも言えるだろう。

次節では、この愛が進化心理学的にはどのようなものかについて論じてみたい。

参考文献

石川 明人. (2002). 愛の概念と「相関」の方法――ティリッヒ神学におけるアガペーとエロース. 『哲学』, 38, 77–94. https://hdl.handle.net/2115/48025

遠藤 徹. (2017). ニーグレン『アガペーとエロース』再批判. 『Religion and Civilization』, 33, 7–49. https://u-sacred-heart.repo.nii.ac.jp/records/864

ハビエル ガラルダ. (1995). 『アガペーの愛・エロスの愛―愛の実践を考える』. 講談社.

プラトン. (2008). 『饗宴』 (久保 勉 訳). 岩波書店.

 

最新の学術情報をあなたへ!

脳科学コンサルティング・文献調査・レポート作成・研究相談を行います。マーケティング、製品開発、研究支援の経験豊富。納得のいくまでご相談に応じます。ご相談はこちらからどうぞ!

 

脳科学専門コンサルティング オフィスワンダリングマインド

脳科学コンサルティング・リサーチはこちら!

脳科学を中心に、ライフサイエンス全般についてのコンサルティング・リサーチ業務を行っております。信頼性の高い学術論文を厳選し、分かりやすいレポートを作成、対面でのご説明も致します。ご希望の方にはサンプル資料もお渡ししますので、お問い合わせからご連絡くださいませ!