線分二等分線課題で何が分かるか?
脳卒中になると単に手足が動かなくなるだけでなく、しばしば頻繁に認知機能に重篤な障害を残すことがあります。
これらの認知機能というのは、我慢が効かなくなる、注意力が著しく低下する、言葉が話せなくなる、分からなくなるというものがありますが、その中で頻繁に見られるものに半側空間無視と言われるものがあります。
これは視界に入った情報のうち、左右のいずれか半分(多くの場合は左側)を認知できない、あるいは認知に努力を必要とする状態を指します。
彼らは視力に問題があるわけではなく、視覚情報の脳の入り口に当たる視覚野も損傷されていないのですが、
様々な情報を束ねるような高次の認知機能に関わる脳領域や、それらをつなぐ神経繊維が障害されることで、このような症状が現れます。
この半側空間無視の症状を評価する方法はいろいろとあるのですが、その中の一つに線分二等分線課題というものがあります。
この線分二等分線課題というのは、患者に数十センチの横棒を示してその真中に線を引いてもらう課題なのですが、
半側空間無視患者では正中線がずれてしまうことがおおいことからスクリーニング検査に頻繁に使われることが多い課題です。
線分二等分線課題:上図のD
しかしながらこの線分二等分線課題というのは他の検査と比較して検出率に問題があるとも言われているのですが、
この線分二等分線課題から半側空間無視患者の認知特性を読み取ることはできるのでしょうか。
半側空間無視の2つのタイプ?
今日取り上げる論文は、線分二等分線課題から得られた結果から半側空間無視の2つのタイプについて考察したものです。
この研究では左半側空間無視を示す脳卒中患者12名を対象に20センチ、40センチ、60センチの線分を示して二等分線を引かせる課題を行わせ、
患者が線分の全体の長さをどのように捉えているのか、引かれた正中線から右端までの距離を参考に左端を推定しています。
この課題の結果を見る限り、半側空間無視の2つのタイプがあるのではないかということが述べられています。
その代表例として2症例が示されているのですが、
上図では線分が長くなっても、あたかも注意の焦点が先の右端に磁石のように固定されたように、患者が認知している線分の長さがそれごど変わっていないことが示されています。
これとは対象的に下図では線分が長くなっても切り落とされる左端の長さは左程変わらないことが示されています。
この下図の症例からはどのようなことが考えられるでしょうか。
この論文の中で筆者は、左半側空間無視患者に文章を読ませる課題を行わせた別の研究を例に取り、
※上図は類似の課題である日本語でのカナ拾いテスト、文章の中のどれくらいの左側の空間を認知しているかを評価することができる。
患者によっては文章の横の長さが長くなっても、ほぼ同じ長さだけ左側を見落としている症例があり、あたかもそういった患者は全体の長さを認知した上で、正確に左側の一定の長さを切り落としたかのようであるとのコメントを引き、
半側空間無視というのは2つのタイプがあり、
一つは上図のように注意が問題となっているタイプ、
もう一つは目から脳に入った情報は前意識的段階で左右の視界全体が処理されているものの、それを意識化して視覚的認識として構成する段階で何らかの障害があるようなタイプがあるのではないか、
また視覚的認知というのは脳の中に立ち上げられるホログラフィのようなものではないかとの仮説について紹介しています。
もし視覚的認知が脳の中に立ち上げられるホログラフィならば、私が見ている世界やあなたが見ている世界というのは、果たして同じものなのかなと思いました。
参考URL:Line bisection and cognitive plasticity of unilateral neglect of space.