左半球を損傷していない無視患者の頭頂葉ー運動野の機能的連結における過剰興奮性
経頭蓋磁気刺激というのは磁気刺激を通して脳に刺激を与え、その活動を促したりあるいは抑制したりするものなのですが、
これは果たして半側空間無視の治療として使えるものなのでしょうか。
今日取り上げる論文は、この経頭蓋磁気刺激を用いて左半側空間無視患者の機能特性を明らかにし、そこからさらに症状の緩和しうることを示したものになります。
一般に左半側空間無視では意識や注意が過剰に右半分の視野に偏ってしまうのですが、この症状の背景として
右半球の機能低下だけではなく、右半球の抑制機能が低下して左半球が過剰に活動してしまうことが関係していると考えられているのですが、
この実験では右半球損傷患者で左半球に損傷のない12名の半側空間無視患者を対象に、左の後部頭頂葉に促通性の磁気刺激を加え、それによって引き起こされる左一次運動野の活動を測定しているのですが、
半側空間無視患者は健常者と比べて一次運動野の活動がより引き起こされやすいことが示されています。
その後、半側空間無視患者の左後部頭頂葉に抑制性の磁気刺激を加えることで、上記の一次運動野の活動の引き起こされやすさは正常化し、
さらに半側空間無視症状も緩和したことが示されています。
つまり半側空間無視患者では左半球の活動(左後部頭頂葉ー左一次運動野の機能的連結)が過剰に活発になっており、
これを磁気刺激で抑制することで、半側空間無視症状を抑えられるということなのですが
臨床場面では、患者さんの歩行練習後に無視症状が少し軽くなったり、あるいは麻痺側を日常生活でいろいろ使う機会が増えてくると無視症状もそれに連れて軽くなってくるような印象があるのですが、
こういったことは右半球の活動性が増加し、左半球への抑制が機能し始めることと関係があるのかなと思いました。
【要旨】
半側空間無視は半側の脳損傷後に生じる症状で、特に右半球のシルビウス裂周囲の構造の損傷に特異的に生じるものである。この障害では行動や意識が病巣の反対側空間から病巣側空間へ偏りが生じてしまう。この半球間の対立は理論的には、右半球損傷後に損傷を負っていない左半球が過剰に活動すること、その原因は損傷半球の抑制が低下することであると考えられている。我々はツインコイルによるTMS(経頭蓋磁気刺激)を用いて無視患者の左半球の興奮性の測定を行った。これは左(PPC)後頭頂葉にTMSによる条件付パルスを与え、それに引き続き生じる一次運動野のMEP(運動誘発電位)の測定を行った。12名の右半球損傷患者と10名の健常者を対象に行なった。左PPCーM1回路の興奮性は無視患者において健常者群より有意に高く、この傾向は臨床的消去テストの成績と関連していた。その後左PPCに1Hzの反復刺激を与えることでこの過剰な興奮性は正常化し、半側空間無視症状も緩和した。これらの結果から無視症状における左半球の病的な過剰な興奮性があることが、左半球の一次運動野に対する後部頭頂葉の影響として直接的に示された。この治験は臨床へ応用できるものと思われる。
コメント
体が弱いので必然的に健康マニアになり、あれこれと自分の体を正そうとエクササイズをすることが多い。
首肩胸郭のあたりの歪みを取るようなエクササイズをしたあとというのは、肩甲骨のポジションがいい感じになり、
右顎の噛みあわせが整い、右眼の奥のどこかがくわっと開くような不思議な感じがある。
こんな感じになると、頭の中のノイズが止み、視界がスッと広がり、周囲の音をいい感じで感受し、意識がクリアになる感じがある。
どんな仕組みになっているのかはわからないけど、右視野の情報が入りやすいような体の状態というのがあり、そうするとデフォルトの意識状態もいい感じになるような気がする。
個人的な体験なので一般化はできないけれど、体からの働きかけで意識や感情の偏りにアプローチができそうな気がするのですが、どうなんでしょう。