深まる絆の生理学~長く続く愛情を支えるホルモンの話~
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

はじめに

前回は恋愛初期に起こる胸の高まりや感情の揺れをもたらすホルモンについて話した。ドーパミンによる強い欲求、セロトニン低下が引き起こす不安定さ、そしてアドレナリンによる興奮感――これらは恋愛の初期段階の特徴だ。

しかし、人間関係が長続きするには、こうした熱狂だけでは不十分だ。恋愛の熱が冷め、安定した関係に変わる過程では、また違ったホルモンが作用する。今回は、穏やかで持続的な愛情関係を支えるホルモンについて考えてみたい。

性欲を支えるホルモンの働き

愛情には性的な側面があり、これは自然なことだろう。好きな人を抱きしめたい、触れたいという欲求は、「性ホルモン」が影響している。

男性には「テストステロン」、女性には「エストロゲン」といったホルモンがあり、これらは相手への性的な魅力を高める。女性の性欲が月経周期や季節、年齢によって変化するのも、こうしたホルモンの働きによるものだ。たとえば排卵期に性欲が強まるのは、「子孫を残す」という生物学的な目的があるからだ。

しかし、愛情が単なる性欲だけならば、人間は若くて健康的な相手にしか魅力を感じないはずだ。しかし現実には、年齢を重ねても変わらない深い愛情が存在する。それを支えるのが、次に紹介するホルモンだ。

絆を強めるオキシトシン

「オキシトシン」は「愛情ホルモン」「絆のホルモン」とも呼ばれ、もともとは出産や授乳時に重要な役割を果たす。女性が出産するときには子宮を収縮させ、授乳中には母乳の分泌を促す。

興味深いことに、オキシトシンは恋人同士のふれあいでも増加する。ハグや優しいスキンシップ、性行為などでこのホルモンが分泌されると、相手に対する愛着や信頼感が強まる。

オキシトシンが増えると、次のような効果がある:

・相手への共感力が高まる
・守りたい、支えたいという感情が強くなる
・信頼感が深まる
・ストレスが軽減される

これはまるで母親が子供に感じる愛情に似ている。そのため、オキシトシンを「母性を引き出すホルモン」と呼ぶ人もいるほどだ。つまり、長続きするパートナーシップでは、このホルモンが大きな役割を果たしていることになる。

落ち着きと幸福感をもたらすオピオイド

好きな人と一緒にいるとき、穏やかで幸せな気持ちになる。その感覚を生み出しているのが「オピオイド」だ。

オピオイドは快感を司る脳の部位を刺激し、幸福感や安心感を与える。美味しいものを食べたり、好きな音楽を聴いたりした時にも、このホルモンが分泌されるため、「脳内麻薬」とも呼ばれる。

しかしこの快感には副作用もある。好きな人と離れるとオピオイドの分泌が減り、まるで禁断症状のような辛さを感じることがある。失恋の痛みが身体的な痛みに似ているのは、このためだろう。

つまり、生理学的に見れば、恋愛は一種の「依存症」とも言える。しかし、こうしたホルモンの働きがあるからこそ、人間は深い絆を形成し、家族を作ってきたとも言えるのだ。

おわりに

ここまで、恋愛と愛情にかかわるさまざまなホルモンについて見てきたとおり、こうした仕組みを理解することで、愛情の複雑さや精妙さを改めて実感できるだろう。しかし、それを「ホルモンだけの作用だ」と単純化してしまうのは早計だ。たしかにホルモンは私たちの感情や行動の生物学的土台ではあるが、それだけですべてを説明するにはあまりにも不十分である。

そもそも人間の存在は、生物学的な基盤と社会的な要因が複雑に混ざり合うことで、しばしば不合理な様相を帯びる。そして、そうした矛盾や曖昧さこそが、人間らしさの核心とも言えるだろう。

このように、不合理な部分を合理的な視点で照らしながらも、受け入れ、愛おしみ、そして生きていく――そんな姿勢が、人間の愛情をより深く豊かにするのではないだろうか。

 

【参考文献】

 

 

 

 

最新の学術情報をあなたへ!

脳科学コンサルティング・文献調査・レポート作成・研究相談を行います。マーケティング、製品開発、研究支援の経験豊富。納得のいくまでご相談に応じます。ご相談はこちらからどうぞ!

 

脳科学専門コンサルティング オフィスワンダリングマインド

脳科学コンサルティング・リサーチはこちら!

脳科学を中心に、ライフサイエンス全般についてのコンサルティング・リサーチ業務を行っております。信頼性の高い学術論文を厳選し、分かりやすいレポートを作成、対面でのご説明も致します。ご希望の方にはサンプル資料もお渡ししますので、お問い合わせからご連絡くださいませ!