青斑核の働き:やる気とパフォーマンスは脳の中でどのように調整されるのか?
世の中には経営者が山ほどいますが、ある種の経営者は次々と新規事業を開発・発展させては、そこにとどまることなくどんどんと事業を拡大していったりします。
こういった事ができるためには事業に集中する力と、そこから離れて周りを俯瞰する力の両方が求められますが、こういった能力は脳のどのような仕組みに基づいているのでしょうか。
脳の中でも一般にやる気や集中力に関わる神経伝達物質としてドーパミン(ノルエピネフリン)というものがあります。
このドーパミンの分泌に関わる領域として青斑核という神経細胞の集合体があり、その大きさは小さいながらも脳の広い領域に枝を伸ばし、脳の全体的な活動を調整しています。
動物を対象にした実験からは、この青斑核というのは、大事な場面、ここぞという場面で活動が瞬間的に活発になることが知られています。
これは例えば空腹のサルにバナナを見せたときや、のどが渇いたネズミに水飲みレバーを見せた時に瞬間的に青斑核の活動が高まり、その結果、上手にバナナを取ることができたり、上手にレバーを押すことができたりします。
つまり瞬間的に青斑核の活動が増大することでパフォーマンスを押し上げる効果があることが知られています。人でいえば、おそらくテニスのラリーが続くような時というのは、タイミングに応じて青斑核が瞬間的に活動増加しているような状態です。
しかしながらテニスにしてもバナナにしてもいつか飽きてしまうときというのがあります。
それは面白みがなかったり、頑張る割には効果が上がらなかったりするときですが、こういった時青斑核の活動はどのように変化するのでしょうか。
注意の転換機能としての青斑核の役割
テニスのラリーにしろ、バナナにしろ集中するのは大事ですが、いつまでも同じことに夢中になっているのは必ずしも生産的とは限りません。
事業が先細りしたり、一緒にいても楽しくないなと思ったら、人はしばしばよそ見をして、他に面白い事業はないか、素敵な異性はいないかなと探してしまいます。
こういったことを裏付けるように、動物を対象にした実験からは課題が難しかったり、課題から得られる報酬が少なくなったり、つまり費用対効果が落ちてくると、それと伴うように青斑核の活動パターンが変わることが示されています。
具体的には、費用対効果が高いときには、タイミングに応じた青斑核の一瞬の活動増加が見られていたのに対し、費用対効果が低くなると青斑核はタイミングに関係なく常に活動が増加した状態になってしまいます。
こういった状態になるとパフォーマンスだけを見ると、どんどん低下してしまいますが、これは決して悪いことではありません。この状態になることで、ネズミもサルも私達も費用対効果の低い課題から離れて、新たなフィールドを開拓しようという気分になることができます。
しかしながらこういった青斑核の活動というのはどのように調整されているのでしょうか。
前帯状皮質と前頭眼窩野の働き
今日取り上げる論文は、この青斑核とその働きについての総説論文ですが、この論文によると青斑核の活動パターンの変化(状況に応じて瞬間的に高くなる/状況に関わらず常に高くなる)というのは大脳皮質による調整がされていること、
具体的には脳の中でも感情と知性のつなぎ目に当たる前帯状皮質と前頭眼窩野が青斑核の活動パターンを調整しているのではないかといことが伸べられています。
具体的には以下の図を参考にしてもらえればと思うのですが
青斑核は前頭前野に働きかけて、認知活動や実際にパフォーマンスを変えていくのですが、さらにその上位中枢として前頭帯状皮質や前頭眼窩野があり、長い目で見た時に費用対効果をモニターして、その場に留まって集中させるか、それともよそ見させてその場から離れさせるかを青斑核の活動パターンを変えることで調整することが伸べられています。
高次脳機能障害や発達障害では注意の切り替え能力がしばしば問題になることがありますが、
やり手の事業家というのは、破綻しないギリギリのところで、前帯状皮質/前頭眼窩野ー青斑核のシステムがうまい具合に回っているのかなと思いました。