半側空間無視とは?
高次脳機能障害という不思議な名前を初めて聞いたのはリハビリの専門学校に入って間もない頃でしたが、
脳卒中になると、手足が麻痺するだけでなく、通常私達ができているいろんな頭を使うあれこれができなくなることがあります。
それは手足は動くのに洋服を着ることやドライヤーを使うことができなくなったり、
理性的で合理的な判断ができなくなってしまったり、
自分の体を自分のものとして認識できなくなってしまったり、
その症状は様々ですが、臨床上頻繁に遭遇する症状に半側空間無視というものがあります。
これは文字通り視界の半分を認識できなくなってしまう病態で、
食事の場面でも左側のものだけを食べ残したり、
歩いていても左側の障害物を認識できないのでぶつかってしまったり、
あるいは左側から話しかけられても気が付かなかったりしてしまうもので、
こういった症状があると、たとえ麻痺の症状が軽く運動学的にはしっかり歩けたりしても日常生活が著しく困難となってしまうことがあります。
注意に関わる2つのネットワーク
半側空間無視は脳が損傷されることが原因で生じるのですが、果たして脳のどこが原因となってこのような症状が出てくるのでしょうか。
脳というのは一般に様々な機能を持つネットワークの集合体として考えられていますが、
その中でも大事なネットワークとして背側注意ネットワークと腹側注意ネットワークというものがあります。
「注意」というと言葉は単純ですが、この注意には大きくは2つの種類があり、
一つはトップダウン的な注意、
もう一つはボトムアップ的な注意になります。
トップダウン的な注意とは待ち合わせ場所で相手を探すように能動的に自ら周囲の空間に注意を向けることです。
これに対しボトムアップ的な注意とは、素敵な異性や厳つい上司が現れた時には、不意に視線がそちらへ向いてしまうように、刺激によってボトムアップ的に駆動されるような注意になります。
脳の中にはこのそれぞれに対応する注意ネットワークがあり、トップダウン的な注意には背側注意ネットワーク、ボトムアップ的な注意には腹側注意ネットワークというものが脳の広範な領域をまたいで関わっています。
またこの2つの注意ネットワークというのは別々で動いているわけではなく、状況に応じて切り替えがなされ、
素敵な異性が目に飛び込んできて、視線がそれを追いかけるけれども、途中で彼氏/彼女の冷たい視線に気づいてやめるというようなときには、腹側注意ネットワーク→背側注意ネットワーク→腹側注意ネットワークというように適宜切り替えることで柔軟に環境に対処しています。
なぜ半側空間無視が起こってしまうのか?
今日取り上げる論文はこの半側空間無視が起こるメカニズムについての総説論文になります。
いくつか大事なところを取り上げると
- 半側空間無視は単に損傷半球の対側が認識できないだけでなく、注意機能に関連する広範な認知機能の障害を伴う。
- 臨床的には右半球の損傷で生じる左半側空間無視が多いが、これは腹側注意ネットワークについては右半球のものが優位であるためであると考えられる。
- 腹側注意ネットワークと背側注意ネットワークはつながっている。そのため、右腹側注意ネットワークの損傷によって右背側注意ネットワークの機能も低下する。そのため、ボトムアップ的な注意だけでなく、トップダウン的な注意も障害を受ける。
- さらに右半球の注意ネットワークが損傷したことを代償する形で左半球の注意ネットワークが過剰に働く、このことで右空間への注意が過剰になり、左空間への注意がより抑制されてしまう。
ということが述べられています。
難しいなと思いました。