脳の7大ネットワークとは?
ネットワーク理論によると、世の中のあらゆるものは繋がりで出来ています。人間関係や経済システムはもとより、細胞の仕組みや宇宙の仕組みも同じくネットワークとして説明することが出来ます。人間の脳も無数の神経細胞から構成されるネットワークの集合体ですが、これは大きくは7つに切り分けられることが考えられています。ハーバード大学のYeo博士らの研究グループは1000名のfMRI画像データを元にネットワーク解析を行い、以下の7つのネットワークに分類しうることを示しています(Yeo et al., 2011)。
(Yeo et al., 2011, Fig 11.)
感覚運動ネットワーク(水色):感覚および運動に関わる
視覚ネットワーク(濃紺色):視覚処理に関わる
背側注意ネットワーク(緑色):トップダウン的注意
腹側注意ネットワーク(薄紫色):ボトムアップ的注意
辺縁系ネットワーク(ベージュ色):情動情報の処理に関わる
デフォルトモードネットワーク(ピンク色):安静時の脳活動に関わる
前頭頭頂ネットワーク(オレンジ色):認知的努力を要する課題の遂行に関わる
今回の記事では、この一つ一つのネットワークについて解説します。
感覚運動ネットワーク(水色):感覚および運動に関わる
水色の感覚運動ネットワークは文字通り、身体感覚や運動に関わるネットワークです。前頭葉の後ろの部分(一次運動野)と頭頂葉の前の部分(一次感覚野)を中心に構成されています。
視覚ネットワーク(濃紺色):視覚処理に関わる
濃紺色の視覚ネットワークは後頭部を中心としたネットワークで、その名の通り、視覚処理に関わります。私達の視覚的意識は、実は様々な情報が編集されて構成されています。色や形、大きさ、動きなど異なる種類の情報が頭の中で編集されて一つの「見ている感じ」が作られます。視覚ネットワークは後頭葉を中心にこれらの視覚情報処理を担っています。
背側注意ネットワーク(緑色):トップダウン的注意
緑色の背側注意ネットワークはトップダウン的注意に関わるネットワークです。トップダウン的な注意とは自分から何かを探索するときの注意で、待ち合わせ場所で誰かを探したり、騒がしい場所で相手の声を聞き取ろうとするときに働く注意機能になります。このネットワークは前頭葉の中でも眼を動かす部分や、体の情報が集約される頭頂葉の一部で構成されています。
腹側注意ネットワーク(薄紫色):ボトムアップ的注意
薄紫色の腹側注意ネットワークはボトムアップ的注意に関わるネットワークになります。ボトムアップ的注意とは、周囲の重要な情報に気づくような注意機能です。例えば私達の目の前に急に蜘蛛や蛇、毛虫のようなものが現れれば、私達の意図とは関係なくそれに気づきますし、道を歩いていて魅力的な異性がいれば、無意識のうちに視線が向くこともあります。こういった刺激によって駆動される注意がボトムアップ的注意と呼ばれるのですが、これに関わる腹側注意ネットワークは、頭頂葉や側頭葉、前頭葉、帯状皮質など広範な脳領域が繋がって構成されています。
辺縁系ネットワーク(ベージュ色):情動情報の処理に関わる
ベージュ色の辺縁系ネットワークは、情動的な情報の処理に関わるネットワークです。美しい絵や美味しそうな料理を見ると私達の心が動きますが、これができるのは私達が対象の意味を理解できているからです。そのため、情動に関わる辺縁系ネットワークでは、意味処理に関わる側頭葉の領域が含まれています。
デフォルトモードネットワーク(ピンク色):安静時の脳活動に関わる
ピンク色のデフォルトモードネットワークは内向きの自己意識に関わるものになります。私達の意識は大きく分けると外向きの意識か内向きの自己意識に分けることが出来ます。外向きの自己意識は何かを聞いたり見たりと気持ちが外側に向いているような意識で、内向きの意識は自分の体の具合を意識したり、あるいはぼんやりとした考え事をするような意識になります。デフォルトモードネットワークは、この内向きの意識、コンピュータに例えればネット接続されていないオフラインの情報(脳に蓄えられた記憶情報も含む、体の中の情報)を処理するようなものになります。
前頭頭頂ネットワーク(オレンジ色):認知的努力を要する課題の遂行に関わる
オレンジ色の前頭頭頂ネットワークは実行機能全般に関わるネットワークになります。実行機能というのは文字通り何かを実行する時に必要な機能で、具体的には意思決定や運動の準備や計画、注意の切り替えなどの機能がこれにあたります。脳の中の采配役、マネージャーといった役どころでしょうか。その名の通り、前頭葉と頭頂葉の様々な部分で構成されています。
ネットワーク同士のつながり
このように脳は様々な機能を持つ大きなネットワークによって構成されているが、このネットワーク同士はどのようにしてつながっているのでしょうか。カナダのマギル大学、Spreng博士らの研究グループは、デフォルトネットワークと背側注意ネットワーク、前頭頭頂ネットワークの関係性について調査しています。この研究では、63名の健常成人を対象にfMRIを用いて、複数の認知課題を行わせているときの脳活動を測定し、その情報をもとに、各ネットワーク間の関係性について解析を行っています。結果としては、下の図に示すように、前頭頭頂ネットワーク(黄緑色)が仲立ちとなって、デフォルトモードネットワーク(赤色)と背側注意ネットワーク(青色)を繋いでいることが示されています(Spreng et al., 2013)。
(Spreng et al., 2013, Figure 3.)
先に説明したように、デフォルトモードネットワークというのは内向きの意識に関わるもので、背側注意ネットワークは外向きの意識に関わるものになります。紅茶に浸したマドレーヌを食べて過去の思い出が蘇った話でもないのですが、わたしたちの意識は絶えず外側と内側を行ったり来たりしています。とりわけ何かの作業をするときには、絶えず自分の心と外部の世界と両方の意識を行ったり来たりする必要があります。この意識の切り替えに当たっているのが、前頭頭頂ネットワークで、それゆえネットワーク解析の結果においても、両者をつなぐような関係性にあることが示されたのではないかと論じられています。
このように私達の心の働きは様々なネットワークや、そのネットワーク同士の繋がりによって出来ているようですが、なぜ無数のつながりから一つの心が生じるのかは、よく分かっていないようです。できることなら自分が生きているうちに、その謎が解明されてほしいものです。
【参考文献】
Spreng, R. N., Sepulcre, J., Turner, G. R., Stevens, W. D., & Schacter, D. L. (2013). Intrinsic architecture underlying the relations among the default, dorsal attention, and frontoparietal control networks of the human brain. Journal of cognitive neuroscience, 25(1), 74–86. https://doi.org/10.1162/jocn_a_00281
Yeo, B. T., Krienen, F. M., Sepulcre, J., Sabuncu, M. R., Lashkari, D., Hollinshead, M., Roffman, J. L., Smoller, J. W., Zöllei, L., Polimeni, J. R., Fischl, B., Liu, H., & Buckner, R. L. (2011). The organization of the human cerebral cortex estimated by intrinsic functional connectivity. Journal of neurophysiology, 106(3), 1125–1165. https://doi.org/10.1152/jn.00338.2011