流動性知能とはなにか?
私達人間に知能というのは様々で頭の切れる人からそうでないヒトまで様々ですが、こういった「頭の良さ」というのはどのような概念で図ることができるものなのでしょうか。
一般に知能というのは「結晶性知能」と「流動性知能」の2つに分けられることが知られています。
結晶性知能というのは、いわば経験知のようなものです。
医療職で考えてみれば、同じ疾患を100例経験していれば、まず最初に何を見て、どこを評価し、どのように進めていけばいいということが経験上分かってきます。
営業職であれば、新人研修の名刺を100枚渡してこいという課題でもないのですが、数をこなしていけば間のとり方やアポ取り、クロージングなども上手になってきます。
こういった経験によって積み上がってくるような知能は結晶性知能と呼ばれています。
では、流動性知能とはどのようなものなのでしょうか?
この流動性知能というのは、いわば生まれながらもっているような頭の良さです。
臨床研修や新人研修のような見知らぬ場にポイと放り込まれて、どのように問題を解決していけるか。
経験のない中で手持ちのリソースを使って、いかにスマートに問題に対処していけるか、
あるタスクを処理するのに、もっとも効率的でもっとも正確な方法を自らのアタマで考え出せるか、
こういった知能がいわゆる流動性知能に当たります。
しかしながらこの流動性知能というのは脳のどのような場所によって司られているのでしょうか?
流動性知能と背外側前頭前野
今日取り上げる論文は、流動性知能と脳活動の関係について調べたものです。
実験では48名の被験者に一般的な知能検査を行った後、3バック課題を行わせ、その時の脳活動について機能的MRIを用いて調べています。
3バック課題というのは一般にNバック課題とよばれている認知課題のひとつなのですが、
これは被験者に次々と視覚もしくは聴覚で刺激を提示し、それが3つ前のものと同じがどうかを判別させるような課題になります。
例えば、順々に
T L H C H S C C Q L C K L H C Q T R R K C H R
のようなアルファベットを被験者に読み上げるような課題では、被験者は3つ前のアルファベットと同じである太字の部分に反応しなければいけません。
この研究で行われている実験では、これを少し難易度調整して(引掛け課題として2つ後、もしくは4つ後に同じ文字を提示する)
難易度の高いとき(引掛け課題)と低いとき(引掛けなし)での脳活動の違いを一般的知能検査で求めた流動性知能との関係で比べています。
結果を述べると難易度の高いときの脳活動を見ると、流動性知能の高い人ほど前頭前野の一部である背外側前頭前野の活動が高まっていることが示されています。
※背外側前頭前野:上図紫色(dorsolateral)部分
このことから流動性知能は背外側前頭前野との関連が最も深いのではないかということが述べられています。
流動性知能は鍛えることができるのか?
さてこの地頭の良さを示すような指標である流動性知能ですが、これは果たして鍛えることができるのでしょうか?
様々な議論があるものの、多くの研究で上記のNバック課題を行わせることで流動性知能を数カ月に渡って改善させることができること、
さらに5週間14時間の訓練で前頭前野のドーパミン受容体1を増加させることができたことなどが報告されています。
計算問題というのは流動性知能が用いられる代表的な課題なのですが、
昔さんざんやらされた100マス計算なんかは知らず知らずのうちに流動性知能を強化させられていたのかなと思いました。
流動性知能は遅かれ早かれ人工知能に持っていかれると思うので、さて最新の科学で道徳的能力を強化させるような方法を編み出してほしいと思うのですが、
果たして私の幸せ、あるいはあなたの幸せというのはどこにあるのかなと思ったりする今日このごろです。
参考URL:Neural mechanisms of general fluid intelligence.