半側空間無視における空間的ワーキングメモリの容量
半側空間無視の病態は複雑で、その要因としては様々なものが考えられています。
今日取り上げる論文は、空間的ワーキングメモリが果たして半側空間無視と関係あるかについて調べたものです。
空間的ワーキングメモリというと、すぐにはイメージが浮いてこないかもしれませんが、
トランプのゲームで神経衰弱というものがあり、これは場に並んだカードの裏がどういったものかを覚える必要があります。
すなわちぱっと見て、どこに何があるかを頭の中に留めるような機能が空間的ワーキングメモリになると思うのですが、
この研究では、右半球損傷患者を半側空間無視のあるもの10名とないもの10名に分け、
垂直線上の丸印の場所を覚える課題を行わせ、半側空間無視患者が果たして空間的ワーキングメモリに障害があるかどうかについて調べています。
これは画面の中央にあるため、理論的には半側空間無視患者の左無視の影響を受けず、純粋に空間的ワーキングメモリを調べることが出来ます。
神経衰弱でもカードが多いと難しく、それが減ってくると覚えるのも簡単になってきますが、
この課題でも丸印の数を多くしたり少なくしたりして、ワーキングメモリの容量との関係を調べています。
結果を述べると、やはり半側空間無視の症状が強いほど空間的ワーキングメモリも低下しており、
MRIから得られた画像で比較すると、右頭頂葉の白質繊維や島皮質の損傷と関係していることが示されています。
様々なケースがあるので一概には言えないとは思いますが、
ワーキングメモリからのアプローチというのも可能なのかなと思いました。
参考URL :Spatial working memory capacity in unilateral neglect
【要旨】
近年、右半球脳卒中患者の一部において、空間的位置の追跡の欠陥が片側無視の重症度の一因となる可能性が提唱されている。しかしながら、従来の空間作業記憶(SWM)タスク(例えば、Corsiブロック)の性能は、SWM内の位置を維持する真の欠陥ではなく、左向きの位置を符号化できないことによって交絡される可能性がある。ここでは、無視におけるSWM容量を測定するために、これを回避するための新しい手順を紹介した。最初の実験では、20名の右半球脳卒中患者(無視の10名と無視の10名)を、Corsi課題のコンピュータ化された垂直変形で試験した。垂直列の空間位置のシーケンスが表示され、参加者はタッチスクリーン上の記憶されたシーケンスをタップしなければならなかった。左側無視の患者は、全対照群と比較して、この垂直SWM課題で障害を受けた。しかし、この課題の成績不良(コルシブロックと同様)は、SWM能力そのものが低下するのではなく、刺激シーケンスの記憶障害、または手動応答の視覚運動制御不良を伴う可能性がある。そこで、2回目の実験では純粋なものを用いた。垂直SWMの尺度表示されたシーケンスの後、単一の位置を視覚的に調査し、観察者は、それが前のシーケンスにあったかどうかを口頭(はい/いいえ)で判断した。そのため、順序はもはや重要ではなく、空間運動反応は必要とされなかった。ここでも、ネグレクト群は他のすべての患者と比較して障害を受けていたが、現在では、対照群の個々のネグレクト群と比較して、個々のネグレクト群の成績の重複は非常に少なかった。SWM容量の純粋な尺度を提供する2番目のタスクのパフォーマンス不良は、キャンセルタスクの左側の無視の重大さと相関しており(ただしオンライン二分法ではない)、SWM欠損が視覚探索タスクの左側の無視を悪化させる可能性があるという最近の提案と一致している。病変の解剖学的構造は、SWM欠損のある患者を無視すると、頭頂部白質、さらに第2の実験では島にも損傷を与える可能性が最も高いことを示した。これらの所見は、SWM能力の障害が右頭頂葉および島の領域に浸潤した脳卒中患者における無視症候群の一因となり得ることを示す。
コメント
空間的ワーキングメモリが関係しているのであれば、極力生活動線上の視界に入るものはスッキリさせておいたほうがいいのかなと思いました。