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はじめに
「他人に厳しく自分に甘い」という言葉もあるが、あなたは他人に対してどれくらい寛容だろうか。自分自身は寛容だと思っていても、それは単に思い込みである可能性もある。実際、自分の能力を自己評価させると、大多数の人は自分は平均以上だと答えるような話もある。寛容さは社会性の基盤であり、人間を評価する上で大事な物差しになるものである。今回の記事では、あなた自身の寛容さを測る尺度をいくつか紹介したい。
赦し尺度:自分を傷つけた人をどれだけ赦せるか?
まず最初にするのは「赦し尺度(Forgiveness Scale)」である(Rye, 1998年)。世の中には人のことを苦もなく赦せる人もいれば、死ぬまで恨み続けるような人もいる。また人によっては自分を傷つけた人を祈ることが出来る奇特な人もいる。この尺度では、自分を害した人間に対して、どれだけネガティブな感情を持たずにいられるのか(否定的な要素の不存在)、またどれだけポジティブな感情を持てるのか(肯定的な要素の存在)を測るものである。もし自分の寛容さに自身がある人は紙とペンを手にとって、一度回答してほしい。質問項目は15項目で回答と採点はおよそ3-4分である。
採点方法
- 尺度は15項目の質問から構成され、各項目は「全くそう思わない(1点)」から「強くそう思う(5点)」の5件法で回答する。
- 逆転項目(1,3,4,5,8,10,12,14)の得点を逆転させる。
- 否定的な要素の不存在下位尺度の項目(1,3,4,5,8,9,10,11,12,14)の得点を合計する。
- 肯定的な要素の存在下位尺度の項目(2,6,7,13,15)の得点を合計する。
- 下位尺度ごとに高得点ほど赦しが高いことを示す。
質問項目
- 私は自分を傷つけたその人のことを考えるのをやめられない。
- 私は自分を傷つけたその人のために良いことが起こってほしいと思う。
- 私は自分を傷つけたその人への立ち返りの方法を考えるのに時間を費やす。
- 私は自分を傷つけたその人に対して憤慨を感じる。
- 私はその人を思い出させるある人や場所を避ける。
- 私は自分を傷つけたその人のために祈る。
- もしその人に出会ったら、私は平安を感じるだろう。
- その人の不当な行為のために、私は人生を楽しめなくなった。
- 私はその人への怒りを手放すことができた。
- 私はその人に虐待されたことを考えると落ち込む。
- 私はその人の不当な行為に関連した多くの情緒的傷が癒えたと思う。
- 私はその人のことを考えると憎しみを感じる。
- 私はその人への同情を感じる。
- 私はその人の不当な行為のために人生が台無しになったと思う。
- 私はその人が将来他人から公正に扱われることを望む。
平均点
ある研究では、大学生328名(平均年齢19.2歳)を対象にして調査している(Rye ら, 2001年)が、平均点±標準偏差は以下の通りである。
否定的な要素の不存在下位尺度: 36.6±7.8点
肯定的な要素の存在下位尺度: 16.7± 4.4点
ちなみに私は否定的な要素の不存在が29点、肯定的な要素の存在が10点であった。前者はぎりぎり標準偏差内に収まったが、後者については標準偏差外である。ちなみに自分を傷つけた人のために祈ったことがあるのは生涯で一度だけである。標準偏差内に入る人は、より多くの加害者の幸せを祈れる人なのかもしれない。標準偏差がどのようなものかについては以下の図を参考のこと。
赦しの可能性尺度:あなたはどこまで寛容なのか?
もう一つ紹介するのは、「赦しの可能性尺度(Forgiveness Likelihood Scale)」日常的な場面を参考に、いったいあなたがどれくらい寛容に振る舞える可能性があるかを調べる尺度である。これについても10項目程度で回答と採点も2-3分ほどなので、興味のある人は紙に書きなぐってスコアリングしてほしい。
採点方法
- 尺度は10項目のシナリオから構成され、それぞれのシナリオに対する赦しの可能性を5件法(1:全くない – 5:非常に高い)で回答させる。
- 各項目の得点を単純に加算し、総得点を算出する。
- 総得点の範囲は10点~50点で、点数が高いほど赦しの可能性が高いことを意味する。
質問項目
- あなたの秘密を守ると約束した友人が、その約束を破り、他の人にあなたの秘密を話した。あなたはその友人を赦す可能性はどの程度あるか。
- あなたについての噂を流した友人のために、人々はあなたを過去よりひどく扱うようになった。あなたはその友人を赦す可能性はどの程度あるか。
- 付き合っていたパートナーが、あなたの親友と付き合い始めたためにあなたと別れた。あなたはそのパートナーを赦す可能性はどの程度あるか。
- 家族の一員が、あなたの秘密を他人に話してあなたを辱めた。あなたはその家族を赦す可能性はどの程度あるか。
- パートナーが一夜限りの関係を持った。あなたはそのパートナーを赦す可能性はどの程度あるか。
- うそをついている友人を問い詰めると、その友人はうそをついていないと否定した。あなたはその友人を赦す可能性はどの程度あるか。
- 大切な物を借りて紛失した友人が、それを代わりに購入することを拒否した。あなたはその友人を赦す可能性はどの程度あるか。
- 知人があなたの念願の仕事の話を聞き、あなたに知らせずに自分でその仕事を得た。あなたはその知人を赦す可能性はどの程度あるか。
- あなたの家に押し入って多額の金を盗んだ見知らない人がいた。あなたはその見知らない人を赦す可能性はどの程度あるか。
- フォーマルなダンスパーティーに誘ってくれた人が、あなたではなく他の人と行くと約束を破った。あなたはその人を赦す可能性はどの程度あるか。
平均点
さて、これについても先程紹介した大学生を対象にした研究で調査されているのだが、平均点±標準偏差は、27.2±7.2点である(Rye ら, 2001年)。これについては私は14点であり、あまりの点数の低さに驚愕してしまった。一体自分の人生で「優しい」とか「親切」だとか言われてその気になっていたのは何だったんだと思ってしまう。
まとめ
心理評価尺度だけであなたの全てがわかるわけでもないし、それだけであなた自身の人間としての価値が測られるわけではない。とはいえ、世の中を渡っていくには自分自身のことを良く知っておく必要がある。人生はドライブと一緒だ。自分が運転している車の癖を知っておくことで、不要な事故に合うことも減るだろう。生きられる時間は短い。無事故無違反でこのドライブを逃げ切るためにも、自分についての理解は深めたい。
【参考文献】
Rye, M. S. (1998). Evaluation of a secular and a religiously-integrated forgiveness group therapy program for college students who have been wronged by a romantic partner. Bowling Green State University.
Rye, M. S., Loiacono, D. M., Folck, C. D., Olszewski, B. T., Heim, T. A., & Madia, B. P. (2001). Evaluation of the psychometric properties of two forgiveness scales. Current Psychology: A Journal for Diverse Perspectives on Diverse Psychological Issues, 20(3), 260–277. https://doi.org/10.1007/s12144-001-1011-6