社会性 笑いの進化史 ――チンパンジーから現代人まで はじめに 日曜の動物園でのことだ。チンパンジーの子どもがほうきを奪って逃げる。追いかける飼育員、響く「ククク…」という低い息づかい。ガラスのこちら側で吹き出した私たちと、向こうで揺れる黒い肩。進化の歳月は、この笑い声を分け隔てたのか、それとも繋いだのか。 仕事帰りに動画サイトを開けば、人間も同じように笑いに転げ回る。「... 2025年7月4日 佐藤洋平
社会性 神経生理学から見るナッジ――二重過程モデルと脳内メカニズム はじめに 朝の通勤電車で、ふと目にしたポスターに描かれた「多くの人がすでに始めています」という文言。気がつけば自分も同じ行動を取ろうとしている。こうしたちょっとした誘導、いわゆる「ナッジ」は、私たちの日常にどれほど入り込んでいるのだろうか。 前回までのエッセイで紹介したように、ナッジは行動経済学や心理学の知見に基づき、... 2025年6月28日 佐藤洋平
社会性 深まる絆の生理学~長く続く愛情を支えるホルモンの話~ はじめに 前回は恋愛初期に起こる胸の高まりや感情の揺れをもたらすホルモンについて話した。ドーパミンによる強い欲求、セロトニン低下が引き起こす不安定さ、そしてアドレナリンによる興奮感――これらは恋愛の初期段階の特徴だ。 しかし、人間関係が長続きするには、こうした熱狂だけでは不十分だ。恋愛の熱が冷め、安定した関係に変わる過... 2025年5月24日 佐藤洋平
社会性 恋愛感情の生理学~感情を揺さぶるホルモンの話~ はじめに 恋に落ちた経験はあるだろうか。胸がドキドキして、つい相手のことばかり考えてしまう。こうした感覚には実はちゃんとした生理学的な理由がある。生理学とは人間の身体の仕組みを研究する学問だ。例えば血圧が上がる理由、お腹が空く理由、そして恋をすると少し冷静でいられなくなる理由まで説明できる。 私たちの身体では、「ホルモ... 2025年5月17日 佐藤洋平
社会性 恋する本能:進化論で読み解く愛の三重奏 はじめに 愛というものは、古くは神話や文学のなかで神秘的かつドラマチックに描かれてきた。しかし、長い進化の歴史を踏まえると、愛には「生き延びて子孫を残す」という目的に沿った合理的なしくみが隠されていると考えられる。本稿では、進化論の基本である「適者生存」を出発点に、進化心理学の視点から愛の成り立ちを探ってみたい。 進化... 2025年5月10日 佐藤洋平
社会性 脳科学が解き明かす幸福の地図:いまここと死生観の交差点 はじめに 「幸福は測れるのか?」という問いは、昔から多くの人の興味を引いてきました。最近では、さまざまな生理指標(心拍数やホルモンなど)を使って幸福度を“数値化”しようとする試みが盛んですが、その中心にあるのが「脳」の研究です。脳は感情や思考を生み出す司令塔であり、「幸せを感じるとき、脳の中ではどんな変化が起こっている... 2025年4月25日 佐藤洋平
脳科学 シナプスとアイデンティティ――ドーパミンが創り出す私たちの“世界観” はじめに もし誰かに「あなたはなぜ自分の信念を信じているのですか?」と尋ねられたら、なんと答えるでしょう。「それは本当だから?」あるいは「ずっとそう思っているから」――。でも、本当にそれだけで十分でしょうか。実は脳科学によれば、“信じる”という行為は、目に見えないレベルでの激しい神経活動に支えられています。そこには、ニ... 2025年3月13日 佐藤洋平
脳科学 予測する脳と“信じる心”――私たちはなぜ誤信念を抱くのか? はじめに 私たちは日常の中で、さまざまな信念を当たり前に抱きながら暮らしています。「あの人はきっと自分の味方だろう」「この方法なら成功できそうだ」――こうした大小の信念は、人生を進める上で必要不可欠な羅針盤です。けれども、その信念が誤った方向へ傾いてしまうことは珍しくありません。ときに人は、ありもしない陰謀を疑い、偶然... 2025年3月13日 佐藤洋平
脳科学 予測する脳と誤信念──なぜ私たちは「信じたいもの」を信じてしまうのか?── はじめに 私たちの脳は、まるで「未来を予測する機械」のように働いている──。近年の脳科学や認知科学では、そんな議論が盛んに行われています。その中心となるのが、予測符号化理論と呼ばれる枠組みです。この理論によれば、脳は外部から入ってくる感覚情報を受け身に処理するだけでなく、「自分はこうなるはずだ」という“予測”をあらかじ... 2025年3月8日 佐藤洋平
社会性 思考の罠:私たちが知らず知らずに陥る「確証バイアス」の心理学 「確証バイアス」とは? 私たちは日々、膨大な情報の洪水の中を泳ぎながら生活しています。ニュースやSNS、友人との会話、学術論文など、知りたいと思ったことはすぐに検索して得られる時代です。しかし、こうした「情報過多」の環境で、常に冷静で客観的な判断ができるかといえば、なかなかそうはいきません。その一因となっているのが、認... 2025年3月1日 佐藤洋平