視覚情報処理システムと半側空間無視
脳というのは昔の人が考えたように単独の領域がそれぞれ独立して働くようなものではなく、
いろんな領域が繋がり合うことでいろいろな機能が現れ出てきます。
それは何かを見たり聞いたり動いたり考えたりですが、こういった機能を生み出すつながりにはいくつか種類があります。
一つは解剖学的連結と言われるもので、これは文字通り神経線維で繋がり合っているような関係になります。
もう一つは機能的連結と言われるもので、何かを行うときにともに活動するようなつながりになります。これは例えばサッカーで言えば攻めるときと守るときでは異なるプレイヤーが異なる連携を取ると思うのですが、置かれた状況や課題で機能的に繋がり合うような関係になります。
もう一つは実行的連結と言われるもので、これはサッカーでいえばボールがどのような順番でパスされていくかを示したようなものになります。
今日取り上げる論文は半側空間無視患者を対象に解剖学的連結と注意課題を行っているときの機能的連結を調べ、どのような連結の損傷が半側空間無視の重症度や経過と関係しているかについて調べています。
対象になった経路は背側視覚経路と腹側視覚経路なのですが、
これは前者は後頭葉から頭頂葉へ向かう空間情報の処理に関わる経路で
後者は後頭葉から側頭葉へ向かう意味情報の処理に関わる経路になります。
実験では右前頭頭頂領域の損傷により左半側空間無視を示した脳卒中患者11名(平均年齢59歳)で
機能的MRIを用いて解剖学的連結と注意課題(ポズナー課題)を行っているときの機能的連結について急性期(4週未満)と慢性期(6ヶ月以上)で調べています。
結果を述べると腹側経路が解剖学的に損傷されていた場合、やはり機能的連結も低下しており半側空間無視症状の予後も不良であったこと
また背側視覚経路は解剖学的には損傷されていなかったものの、急性期では機能的連結が低下していること、また慢性期では機能的連結が回復していたことが示されています。
更に予後不良要因として前頭領域と頭頂領域をつなぐ白質繊維が損傷されていることが大きいことが述べられています。
臨床現場で機能的連結を調べることは難しいものの、前頭領域と頭頂領域にかかる皮質下損傷が予後不良要因であることは予後予測に活かせるのかなと思いました。
【要旨】
空間無視は損傷側と反対側の空間の刺激に対する気づきや反応といった注意に障害をきたす脳卒中後に起こる症状である。今回我々は無視症状をきたした患者を対象に脳内の機能的連結性について機能的MRIを用いて調査を行った。大きく別れた背側と腹側の2つの注意ネットワークの連結性について急性期と回復期の両方で評価を行った。一部直接的に損傷されていた腹側ネットワークの機能的連結性については散在的に損傷されており、その後の回復を示さなかった。構造的には損傷を受けていない背側ネットワークについては後部頭頂葉の半球間の連結性は阻害されていたもののその後完全な回復を示した。この急性期における損傷と腹側ネットワークの特定の経路の連結性の障害はいずれの患者においても注意機能の回復の阻害に関係していた。また前頭葉と後頭葉を連結する白質繊維の損傷は更に重篤な無視症状と機能的連結性の阻害に関連していた。これらの知見は無視症状とネットワークの関係を理解する上で有用であると思われる。