マゾヒストの脳科学:なぜ痛みの感じ方が違うのか?
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はじめに

マゾヒストは状況によっては好んで痛みを引き受けますが、いったい彼らは痛みをどのように感じているのでしょうか?また脳の中や体の中では何が起こっているのでしょうか。今回の記事ではマゾヒストを対象に痛みを与えたときの脳活動やホルモンの変化を調べた研究を紹介します。

マゾヒストの脳活動(Kamping et al., 2016)

方法

この研究ではマゾヒストを対象に痛みを与えて脳活動がどのように変化するかを知らべています。対象になったのはマゾヒスト16名と非マゾヒスト16名で、レーザー光線で痛みを与えられ、その時の脳活動をfMRIで測定しています。

また痛みについては以下の条件で与えられ、主観的評価と脳活動の違いが調べられました。

・マゾヒスティックな画像を見ながら受ける。

・中立、ポジティブ、ネガティブな感情を引き起こす画像を見ながら受ける。

・画像を見ないで受ける。

加えて、痛みを与えられずに、マゾヒスティックな画像を見ているときの主観的感覚(覚醒度の高さと快感情の高さ)と脳活動についても調べられました。

結果

結果としては、マゾヒストはマゾヒスティックな画像を見ているときには痛みを少なく感じましたが、それ以外の条件では非マゾヒストと同じように痛みを感じることが示されました。

また脳活動の変化としては、マゾヒストはマゾヒスティックな画像を見ながら痛みを受けているときには、中心弁蓋部(CO)と頭頂弁蓋部(PO)の活動が高まったこと、また頭頂弁蓋部と情動的知覚領域(島皮質など)のつながり(機能的連結)が低下したことが示されています。

Kamping et al., 2016, figure 3

ちなみに弁蓋部というのは、島皮質を蓋をするような場所にある脳領域で、中心弁蓋部は様々な情報を集約して情動的知覚をコントロールする働きがあり、頭頂弁蓋部は体性感覚情報と記憶情報を集約して、情動的知覚を調整する働きがあります。

つまりマゾヒストでは情動的知覚のコントロールに関わる部分の活動が変化し、同じ刺激であっても感じ方が変化したのではないかと論じられています。

弁蓋部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マゾヒストの内分泌 (Wuyts et al., 2020)

方法

この研究ではマゾヒストを対象に実際にSMプレイをさせ、その前後で血液中のホルモンがどのように変化するかについて調べています。被験者は35組のサディストとマゾヒストのペアおよび27名の非SM愛好者です。実験ではサディストとマゾヒストには実験者立ち会いのもとSMプレイを行わせ、その前後で、ストレスホルモン(コルチゾール)と各種脳内麻薬(βエンドルフィン、アナンダミド(AEA)、2-AG)を測定し、どのような違いがあるかを調べています。ちなみに非SM愛好者には、痛みなどを伴わないコミュニケーション課題を行わせています。

結果

結果としてはマゾヒストはサディストや非SM愛好者と同様にSMプレイ後にストレスホルモン(コルチゾール)が増えるのですが、同時に脳内麻薬も増えることが示されています。

 

 

 

 

 

マゾヒストはSMプレイ中に痛みを通常よりも低く感じることがありますが、これには脳内麻薬が関係しているのではないかと論じられています。

おわりに

このようにマゾヒストは特定の状況では脳活動やホルモンの分泌が変化し、痛みの感じ方が変わることが示されています。脳活動を見る限り、このような痛みの変化には記憶や認知に関わる領域が関わっており、ある意味、知的な活動とも捉えることができます。痛みや苦しみというのは文脈によって調整できるという点については、一般生活上のコミュニケーションにも応用できるのかなと思いました。

 

【参考文献】

Kamping, S., Andoh, J., Bomba, I. C., Diers, M., Diesch, E., & Flor, H. (2016). Contextual modulation of pain in masochists: involvement of the parietal operculum and insula. Pain157(2), 445–455. https://doi.org/10.1097/j.pain.0000000000000390

Wuyts, E., MD, De Neef, N., MD, Coppens, V., Fransen, E., PhD, Schellens, E., Van Der Pol, M., & Morrens, M., PhD (2020). Between Pleasure and Pain: A Pilot Study on the Biological Mechanisms Associated With BDSM Interactions in Dominants and Submissives. The journal of sexual medicine, 17(4), 784–792. https://doi.org/10.1016/j.jsxm.2020.01.001

 

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