歌の理解は先天的なものなのか?
子供の胎教などではお腹の中の赤ちゃんは6ヶ月を過ぎてくると聴覚もしっかりしてくるので、お母さんが歌いかけることで脳の発達が促されるというような嘘か本当かわからないような話を聞きますが、
お腹の中の赤ちゃんは定かでないにしても、私の経験上言葉も何も知らない赤ちゃんであっても子守唄のようなものには反応しますし、バブバブも言えないような赤ちゃんであっても車の中では子供向けの音楽を流すとごきげんだったりします。
こういった経験から、どうも人間というのは生まれながら様々な音響情報の中から「歌」のようなものを選択的に理解できるような仕組みがあるような気がするのですが、果たして歌に特化したような脳システムというものはあるのでしょうか。またあるとしたら他の音響処理とはどのように違うものなのでしょうか。
キンカチョウにおける歌の理解
歌というのは何も人間の専売特許ではなく、歌を一定の周波数でのリズムとメロディで繰り返される構造を持った鳴き声と定義すると、地球上には様々に歌を歌う動物がいます。
今日取り上げる論文はその中でもキンカチョウを対象に自分の仲間の歌を聞いているときにどのような脳活動をしているかについて、実際に聴覚処理に関わる神経細胞から電極を取り調べたものになります。
実験では、キンカチョウに対して、
①キンカチョウが歌っている歌と、
②その歌をサンプリング処理して基本的な音響成分はそのままに歌の構造を変えてしまった歌もどきのようなものと、
③ホワイトノイズで歌が持つ音響特性を消したもの
の3種を聞かせ、そのときに神経細胞の発火の仕方について、音響情報処理の入り口に当たる中脳の神経細胞、そこからより上位の処理に当たる一次前脳神経細胞、さらにより上位の処理に当たる二次前脳神経細胞を対象に調べています。
結果を述べると音響情報処理の入り口から上位の処理過程に上がっていくに従って③のノイズ音響に対する神経細胞の反応が減少し、①の自然の歌に対する反応が高まることが示されています。
歌というのは一定の幅の周波数の音響が一定のばらつきの中で構造化された形で組み立てられるものですが、
上位になればなるほど、この歌のような特性を持つ音響情報に強く反応する神経細胞があるということで
この実験はトリを対象にしたものですが、人間にも人間特有のメロディアスな鳴き声に特化して反応するような神経細胞があるのかなと思ったり、
そう考えると歌というのは生物学的にだいぶ古いシステムに基づいたなにかなのかなと思いました。
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