半側空間無視と心的表象
半側空間無視は臨床場面で頻繁に遭遇する病態ですが、その多くは脳卒中に起因し、左右いずれかの半側(多くの場合は左)の空間認知能力が著しく低下する症状を示します。
視覚処理の入り口である網膜も、また脳の中の視覚処理の入り口である視覚野も損傷されていないにもかかわらず、
情報を統合する頭頂葉やそれに連絡する神経繊維が障害されることで、左右いずれか半分が見えているのに見えない、気づかない、分らないという症状を示すのですが、
患者が目を閉じた時の心的表象ではどのようなイメージが構成されるのでしょうか。
今日取り上げる論文は、イタリアはミラノに長年住む半側空間無視患者に、街のシンボルである大聖堂を思い出してもらい
・大聖堂の入り口から街を見たときに見える建物やお店、建造物
・大聖堂前の広場から大聖堂に向かって街を見たときに見える建物やお店、建造物
・長年仕事をした自分のオフィスを椅子に座って見える家具や置物
・そのオフィスの椅子の向かい側に向かった位置から見える家具や置物
といった条件で、患者らに何が見えるか思い出してもらいます。
すると興味深いことに、直接見えない情景を思い出したときも左半側空間無視の症状のように、左半分が十分に想起されないこと、
これは忘れたわけではなく、反対側のポジションからイメージすることで、残りの左半分(つまり反対側から見た右側)が想起されることが示されています。
普段私達が見ていると信じている、この視覚的経験というのも本当はアタマの中で翻訳されたイメージなのかなと思ったり、
今見ていることと思い出していることの違いというのは、実はそれほど大きなものではないのだろうかと思いました。
参考URL:Unilateral neglect of representational space.
【要旨】
左半側空間無視を示す2人の患者に、身近な環境の想像された見方を説明するよう依頼した。 患者らの説明では左側の視界ほとんど省略されていた。本稿では 表現空間における一方的な無視の発生のいくつかの理論的意義について簡単に考察する。