目次
はじめに
一匹狼という言葉がありますが、ことにこれは男性的で、めったに一匹狼的な女性を見ることはありません。
私が見る限りどうも女性というのは一人でいることが苦手な生き物のような気がするのですが、これはどうしたわけでしょうか。
この記事では孤独でいることで女性の体と心にどのような変化が生じるのか、
また孤独は免疫系にどのような影響を及ぼすのかについてに調査した論文を17本とりまとめて解説します。
寂しさと女性
孤独に強いのは女性か男性か
独りでいる,群れないでいるというのは時になかなかストレスがかかるものだと思うのですが,
遺伝的に女性と男性ではどちらのほうが孤独に強いのでしょうか.
この論文はネズミを対象に孤独が脳に与える影響について調べたものです.
実験では不安感が強い系統のメスネズミと普通のメスネズミを比べているのですが
7週間群れから離して孤独な環境で育てることで
記憶に関係する海馬の働きを調整するタンパク質が減ってしまうこと,
さらに同じ条件でもメスの遺伝的に不安感が強い系統の方が影響を受けやすかったことが示されています.
ヒトでもよくも悪くも女性のほうが集団の和の中から外れず,見方を変えれば孤独になることをより恐れているようにも思えるのですが
こういったことの背景にはメスのほうが孤独からくる不安感に弱いということもあるのかなと思いました.
女性の社会性と炎症症状
職場の内外で女性を見ていると,どうも女性というのは人間関係がカラダに響きやすいなと思うことがあります.
首が痛かったり腰が痛かったり体がほてったり,その他諸々なのですがどうも男性と比べてちょっとした人間関係のゆがみが体の不調になって表れやすいなと思うのですが,これはどういうわけでしょうか.
この論文は孤独感とカラダの反応について男女差を比べたものです.
Loneliness and stress-related inflammatory and neuroendocrine responses in older men and women.
実験は
①成人病の既往がないイギリスに住む543名の中高年の男女を対象に
②それぞれが抱える孤独感を評価し
③実験室で集中力を強いるような認知課題を行わせ精神的ストレスをかけ体内のストレスホルモンの変化と孤独感の関係を調べ
④加えて血液検査を行ってカラダの炎症反応を制御する体内タンパク質と孤独感との関係を調べる
という内容で行っているのですが
これを男女で比べると
女性のほうが孤独感を強く抱えているほど,体内の炎症症状を促進する体内タンパク質の数値が高く
かつ孤独感が強いほどストレスがかかったときに炎症症状となって響きやすいというような結果が出ていることが示されています.
女性というのは男性と比べて社会性が高いなと思うのですが
これは見方によっては女性というのは孤独感が男性よりもカラダに響きやすく
それゆえ孤独を回避するために社会的になりやすい(輪からはみ出さす集団と同調することに重きをおく)のかなと思いました.
ヒトはなぜ水商売へ足を運ぶのか
水商売というのが何を指すのかは難しいのですが,ヒトがヒトに会いに行くためにお金と手間をかける商売を水商売と定義すると,この経済規模は結構大きい物になるかと思います.
しかしながらヒトはなぜわざわざお金と手間をかけてヒトに会いに出向くのでしょうか.
この論文は孤独感と死亡率の関係について調べたものです.
孤独感や寂しさというと曖昧としてわかるようでわからない感じがあるのですが,ある定義によると孤独感とは複合的な感覚で
自尊心の低下
気分の変調
不安感
怒り
楽天性の低下
否定的な評価への恐れ
内気であること
社会的なスキルの少なさ
社会的支援の少なさ
社交性の少なさ
などから構成されているのではないかということが述べられています.
この研究は
①アムステルダムに住む65歳から84歳の4004人の高齢者男女を対象に孤独感と社会的孤立,その他社会的,健康的要因について調査
②10年間フォローアップを行い死亡率について調査
③孤独感と社会的孤立のどちらが死亡率に大きな影響を与えていたか,また女性と男性ではどちらが孤独感や社会的孤立が死亡率に影響しやすいかについて検討
というように行われているのですが
結論を述べると,社会的に孤立しているだけでは死亡率には大きな影響を及ぼさず,実際に死亡率に響くのは本人がどれだけ孤独を感じているかという点であり,かつ男性の方が女性よりも孤独感が死亡に結びつきやすかったことが述べられています.
女性において孤独感が死亡率に繋がりにくかった要因として,女性の場合は女性ホルモンの一つであるエストロゲンが孤独感からくるストレスを緩和してくれているのではないかということが述べられています.
寂しさの具体的要因(自尊心の低下,気分の変調,不安感,怒り,楽天性の低下,否定的な評価への恐れ,内気であること,社会的なスキルの少なさ,社会的支援の少なさ,社交性の少なさ)を考えると,一見自信満々な経営者が頻繁に水商売に足を運んだりする理由が,上記の要因を解消したいからかなと思ったり
あるいは男性の方が水商売へ行く頻度がかなり多い要因として男性はエストロゲンで寂しさを自分で処理することができないからかななどと妄想しました.
ヒトがヒトであるかぎり,これから時代が変わっても水商売というのは手を変え品を変え生き延び続けるのかなと思いました.
女性の気分変調と孤独とホルモン
PMSという言葉をテレビや何かで頻繁に聞くようになったのはここ最近だと思うのですが
女性というのは生理前になると情緒不安定になってしばしば攻撃的になるようですが,これはなぜなのでしょうか.
この論文は情動調整ホルモンと抗うつ薬の関係についてマウスを対象にして詳しく調べたものです.
気分を安定させる重要な神経伝達物質の一つにチョコレート商品でも有名なGABAというものがあります.
脳内のGABAを増やしたり減らしたり関わっているホルモンにアロプレグナノロンという物質があるのですが,女性の場合生理前にはこのアロプレグナノロンが減り,GABAが減り,気分の調整が難しくなるという流れがあるようです.
アロプレグナノロン減少
↓
GABA減少
↓
気分変調
この論文ではマウスを4週間孤独にさせることで人為的にアロプレグナノロンを減少させて気分の変調を引き起こしているのですが
抗うつ物質の一種である(S)-ノルフルオキセチンを投与することでアロプレグナノロンが大いに増えて気分も安定したことが報告されています.
抗うつ薬
↓
アロプレグナノロン増大
↓
GABA増大
↓
気分改善
この論文を読んで思ったのは生理前の女性というのは一人ぼっちにしないほうがいいかなということと
また同じく生理前に甘いものを食べたがるのは脳内の報酬系を頑張って回して脳の機嫌を取ろうとするためなのかなと思いました.
女性というのは男性以上に自己コントロールが大変なんだろうなと思いました.
なぜ女性は抜け駆けしないのか?
いろんな女性と話していると,彼女たちは平等大好き人間だなあと思うことがあります.
お土産でもプレゼントでも,だれかが突出してもらうことは許されない.帰ることも休むことも誰かが突出することは許さない.
そのかわりに弱いやつは置いてけぼりというようなキツさもなく,弱者を救済する優しさを兼ね備えたこの女性というのは脳科学的にどのような原理で作動しているのでしょうか.
この論文は利他主義的行動に関わる脳活動について女性を対象に調べたものです.
A neural basis for social cooperation.
利他主義というのは文字通り他人を利するのを良しという態度であり,特に互いに持ちつ持たれつ,貰ったからあげる,あげたから貰うという助け合いのような利他主義を互恵的利他主義というようです.
この研究では囚人のジレンマゲームを使って互恵的利他行動が起こっているときの脳活動を調べているのですが
結論を述べると利他的行動を取っているときは脳の中でも報酬系といわれる部分の活動が変化していることが示されています.
つまり他人に何かしてあげるようなときには,気分を良くするような物質が脳の中に流れているということで
著者らはこれらの報酬系の関わりが利己的行動を抑えて,ヒトを利他的行動に向かわせているのではないかということが述べています.
しかしながら互恵的利他主義を研究した他の研究からは,抜け駆けして協力しないことで喰らう罰や制裁,社会的排除が助け合いが成り立つ上で重要と示しているものもあり
その辺の脳活動はでなかったのかなあと思いました.
なぜ男は単身赴任先で浮気をするのか
よく聞く話に単身赴任先で不倫がおこって家庭崩壊というものがありますが,なぜ男は単身赴任先で不倫に走りがちになるのでしょうか.
この論文は孤独な環境がつがいの形成とその後の性行動にどのような影響を与えるかについてマーモセットを使って調べたものです.
結果を述べると有意な差までは出なかったようですが,マーモセットを孤独な環境に置くことでツガイ相手と密接な関係を作りやすいこと,
この原因としてストレスホルモンの一種であるコルチゾールが影響していること,さらにはメスの方が実はオキシトシンと呼ばれる社会性ホルモンの影響で関係形成初期にツガイ相手との関係が燃え上がりやすい(密接になりやすい)ことが述べられています.
案外単身赴任中気をつけなければいけないのは旦那の浮気ではなく取り残された妻の浮気なのかなと思いました.
お金のやりくりと脳のやりくり
お金を増やす方法は二つしかないそうです.
一つは収入を上げること,もう一つは支出を減らすことだそうですが,往々にしてオトコはお金の問題に際して収入を増やそうとし,オンナは支出を減らそうとする傾向があるような気がするのですが,
これが脳細胞の話になるとどうなるのでしょうか.
この論文はストレスと脳細胞の関係についてラットを使って男女差を調べたものです.
Chronic stress and social housing differentially affect neurogenesis in male and female rats.
一般にストレスというのは脳にダメージを与え,脳の中でも記憶を司る海馬の神経細胞を減らすことが知られています.
この実験ではラットに電気ショックを与えてストレスをかけているのですが,一匹で孤独でストレスに耐える条件と
仲間と一緒にストレスに耐える条件で比べています.
これでオスメスで何かしら差が出るか調べているのですが
結果を述べるとオスに関しては予想通り,孤独な条件でストレスを受けることでより海馬の神経細胞が減る傾向があったのですが
メスについては予想を裏切り,孤独な条件でストレスを受けても海馬の神経細胞がそれほど減らなかったことが示されています.
こういった違いが出る背景として,メスはストレスが掛かると海馬の神経細胞の生存率が高まる,つまりお金でいうと支出を少なくする傾向があるそうで
このこともあり孤独による脳のダメージがオスよりも少なかったのではないかということが述べられています.
メスは脳の神経細胞の代謝においてもピンチに際し守りに入ることで対応しているのかなと思いました.
寂しさと免疫機能
脳と免疫系
体と心というのはおそらく別々なものではなく,心が病めば体も病みやすくなり,体が病んでいるときは心も病みやすいということがあるのではないかと思います.
近年の研究から中枢神経系と免疫系は様々な分子を介してコミュニケーションをとっていることが示されているようです.
とりわけ副交感神経系の調整に関わる迷走神経は免疫系との関わりが深いそうで
つまりは神経の高ぶり具合や落ち着き具合で免疫系は大きな影響を受けるそうです.
この論文は脳損傷急性期と免疫系の関係についてのものですが,様々な分子を介して脳の状態変化と免疫系の変化が密接にリンクしていることが述べられています.
自分の心を意思の力で整えることは容易では無いのですが
自分の体を整えることは比較的容易であるので,体を整えることで心を整えるという方が現実的なのかなと思いました.
寂しさと鬱はどう違うのか
寂しい時は鬱々してるし,鬱々しているときは寂しがり屋だったりしますが
この2つの感情というのはどういった関係性があるのでしょうか.
この論文はこの寂しさと抑鬱の関係についてシカゴ市内の様々な民族を対象に時間を追って詳しく調べた研究になります.
Perceived social isolation makes me sad: 5-year cross-lagged analyses of loneliness and depressive symptomatology in the Chicago Health, Aging, and Social Relations Study.
結論を述べると,まず寂しさがあって抑鬱症状が出てくるのであって,その逆はないことが述べられています.
具体的にはある年,強い寂しさを抱えていたとしたら,次の年には抑鬱症状が出やすいということで,その逆の関係は見出されなかったことが述べられています.
また寂しさというのは具体的な対象を持つ感情であるのに対して,抑鬱症状というのは全般的なものであり具体的な対象を持たない感情であることが述べられています.
つまりは
寂しさ→抑鬱
ということでまず寂しさありきでその後鬱々した感情がやってくるそうで
当たり前と言われれば当たり前のような気がしますがなるほどなあと思いました.
ウイルスと細菌と寂しさと
私達のカラダは大分繊細にできているようで
寂しい環境に置かれると風邪を引きやすくなったり血管が詰まりやすくなったりするそうですが,これは進化論的には,また生理学的にはどのように捉えることができるのでしょうか.
この論文は寂しさと血液中の白血球の関係について詳しく調べたものです.
実験では慢性的に寂しい人と普通の人の白血球の内容について比べています.
白血球というのはいろんな種類にわけられるそうですが
その中でもヘルパーT細胞というものがあります.このヘルパーT細胞は免疫に関わるそうですが,さらに二種類にわけられ
一つは対ウイルス用(Th1細胞)
もう一つは対細菌用(Th2細胞)
のようなものがあるそうです.
結論から言うと寂しい人というのは対細菌用が強く,対ウイルス用が弱い.
なぜか?
これを説明する仮説として
ウイルスというのはインフルエンザの流行を考えても,家族や友人,仲間など身近な人を通じて感染する.つまり仲間に囲まれているような状態ではカラダは対ウイルスモードに入って,結果Th1の方が強くなり,Th2は弱くなる.
それに対し細菌というのはアウェイに出た時感染する可能性が高い.
これはなぜかというと,なれない土地の水や食べ物を飲んで細菌感染をしたり
あるいはアウェイで敵に攻撃されて傷ができ,その傷口から細菌が感染したりするためで
そのため,アウェイと感じるような寂しい状況ではカラダは対細菌モードに入ってTh1の働きが弱まって(ウイルスに弱くなって),TH2の働きが強くなる(細菌には強くなる),
また傷がついても傷がすぐに塞がるように血液も粘性を高めるということで
あくまで仮説であり,決して実証的なものいいではないのですが
なんだか説得力があるなあと思いました.
災害とエイズと寂しさと
大きな災害は一次災害、二次災害のみならず三次災害的にその後の住民の健康状態の悪化など時間をおいて様々は影響を及ぼすことが知られています。
しかしながらなぜ大きな災害を被ることで健康状態の悪化という非特殊的な影響が出てくるのでしょうか。
この論文は大型ハリケーンが襲った後、エイズ患者の免疫機能や孤独感、社会的繋がりがどのように変化したかについて調べたものです。
Social Support Mediates Loneliness and Human Herpesvirus Type 6 (HHV-6) Antibody Titers
結論を述べると
①大型ハリケーンで都市機能が甚大な影響を被った後は社会的繋がりが低下する傾向がある。
②同時に孤独感も増す傾向がある。
③災害によって社会的な繋がりが低下し孤独感が増すことでエイズ患者の免疫機能が低下する傾向がある
ということが述べられています。
人が社会的な動物であることを考えるならば、災害が破壊するのは建物や道路などのものだけでなく
人と人との間の関係性、すなわち社会そのものであり
社会から切り離されることで免疫機能が弱くなり健康状態の悪化するということもおこるのかなと思いました。
災害時にはモノやカネとは別種の支援も必要なのかもしれないと思いました。
風邪とストレスと打たれ弱さ
ストレスというのは体に良くないそうですが
同じストレスがかかっても,そんなに身体に響かない人や風邪やインフルエンザ,足腰の痛みという形ですぐに響いいてしまう人などいろいろいます.
こういったストレスの響きにくさ,響きやすさというのは生理学的,心理学的にどのへんで違ってくるのでしょうか.
この論文は寂しさと炎症促進物質の関係について調べたものです.
Loneliness Promotes Inflammation During Acute Stress
第一実験では寂しい人とそうでない人を対象にあるバクテリアからできる毒素を微量注入し,炎症促進因子がどれくらい増えるかどうか
第二実験では肺がんの治療を行った後の寂しい人とそうでない人を対象に,人前で自分の良い点を説明するというストレス課題を与えた後に,同様の毒素を微量注入し,炎症促進因子がどれくらい増えるか見ているのですが
やはり寂しい人というのはそうでない人と比べて炎症を促進する因子がより多く合成されていたようです.
生きていると時に小さい我が子やかわいいペットを抱きしめたくなるときもありますが
こういった衝動は寂しさを減らしてストレスに対抗しようとする自然の働きなのかなと思ったりしました.
ストレス加速因子としての寂しさ
ドイツの詩人,シラーの言葉に『友情は喜びを二倍にし、悲しみを半分にする』というものがあります.
友情にかぎらず,家族やペットあるいは何かしらの信仰を持つ人というのは割合とストレス耐性が強いような印象を受けるのですが,これはどこまで本当なのでしょうか.
この論文は孤独感とストレス感受性,免疫機能について触れた最初期の研究になります.
Urinary cortisol levels, cellular immunocompetency, and loneliness in psychiatric inpatients.
実験では33名の精神科受診者(非統合失調症)を対象に孤独感とストレス感受性,性格,免疫機能について調べているのですが,やはり孤独感が強いほど免疫機能が低く,日々の生活でストレスを受ける程度も高いことが報告されています.
悲しみを半分とは言わないまでも,孤独感から逃れることで免疫機能が上がったり,ストレス耐性をあげることができるのかなと思いました.
インフルエンザと寂しさと新人と
社会人デビューというのは結構大変で
慣れない場所で新しい生活を設計したり,人間関係も一から作り直したり,覚えなければいけない業務や慣習も非常に多く
それはあたかも独立して群れから離れたオスザルが他の群れに入り込んでいくくらい難しいタスクだと思うのですが
このような時,人の体はどのように反応するのでしょうか.
この論文は大学の新入生を対象に寂しさや人付き合いの広さとインフルエンザワクチンへの反応の関係について調べたものです.
Loneliness, social network size, and immune response to influenza vaccination in college freshmen.
結論を述べると寂しさが強かったり人付き合いが広くなかったりするとインフルエンザに対する抗体反応も弱くなることが示されており,社会的なストレスが孤独感と免疫機能の低下の中継ぎをすることが示されています.
孤独感というのは老人だけでなく若者の健康状態にも結構響くものなのだなあと思いました.
寂しさの社会学
孤独死,貧困,鬱のネットワーク解析
扱うにはどうにも重いテーマですが,なぜ孤独や貧困,病というのは普遍的であるにもかかわらず普段生活している中で見かけることがないのでしょうか.
孤独や貧困,病というものにはどうにも寂しさがついてまわると考えれば寂しさを持った人達というのはなぜ社会の見えない場所へ追いやられてしまうのでしょうか.
この論文は社会と寂しさのネットワーク解析を数十年のスパンで行ったものです.
Alone in the Crowd: The Structure and Spread of Loneliness in a Large Social Network
結論を述べると
・寂しさを抱えた人たちは社会の末端へ追いやられる
・寂しい人は年令を重ねるごとにもっと寂しくなる(人間関係が細くなっていく)
・寂しさには感染性があり,寂しい人と付き合うと段々自分も寂しい人になる
・結果,社会はその健全性を保つために寂しい人を排斥して社会の片隅に追いやる傾向がある
ということが述べられています.
寂しさの強い人というのは昨日の論文から言えば社会的能力が充分でなく,かつ健康状態も不良になりやすく
また社会というのは寂しさを持った人たちをその感情の伝染性ゆえに排斥する傾向があり
結果的に心身ともに疲弊した寂しい人達は社会の片隅に追いやられ
孤独死や貧困といったことが起こりうるのかなと思いました.
ヒトはなぜ群れたがるのか
ヒトは社会的な動物と言われているように,どんな民族であっても多かれ少なかれ群れては同じ行動を取る傾向があると思うのですが,なぜ私達人間は群れて協調するという行動をとってしまうのでしょうか.
この論文は魚の群れを人工的に作り出し,どういった群れが襲われやすく,どういった群れが襲われにくいかについてバーチャル小魚群れとリアル捕食魚を使って調べたものです.
Predatory fish select for coordinated collective motion in virtual prey.
バーチャル小魚の行動はいろいろと調整でき
①となりの魚とどれくらいくっつくか(または離れるか)
②進行方向をどれほど一緒にできるか
③どれくらいの数で群れるか
④どれくらいウネウネ動くか
という変数をいろいろと変えてシミュレーションしているのですが
結果を述べると,お隣さんとはつかず離れずの距離を取り,大体同じような方向に進んで,できるだけ群れの数が大きくとり,できるだけウネウネと動いた時にもっとも捕食者に襲われにくいことが示されています.
これがお隣さんと近すぎたり遠すぎたり,バラバラの方向に進んだり,群れの数が小さかったり,まっすぐ進むような群れだと捕食者にパクリと食べられてしまうようで
ヒトの群れというのも,これを観察していると寄らば大樹の陰,赤信号みんなで渡れば怖くないといったように小さなお魚の群れと似たような行動をとりがちですが
これはヒトが大型肉食獣に捕食されていたか弱い動物だった頃の名残なのかなと妄想しました.
孤独感とは何か
寂しさというのはつむじ風のように不意にやってきて時と場所を選ばないものですが
果たして寂しさの原因となるのはどういったものなのでしょうか.
この論文は寂しさと身体機能や死亡率との関連について米国居住の高齢者を対象に調べたものです.
Loneliness in Older Persons: A predictor of functional decline and death
研究では6年間の追跡調査を行って,孤独感を抱える高齢者が身体機能が落ちやすかったり,死亡率が高まったりすることが示されているのですが
その孤独感の原因は様々で
目立つところでは障害を持つことで孤独感が強まったりということがあるようです.
孤独感というのは,おそらくisolated(隔離された,切り離された)という言葉の通り,世界から切り離された感覚で
障害を持つことで,今まで身体的・精神的にアクセスできていた環境から切り離されたり,慣れ親しんでいたものを使えなくなったりで,自分が世界から切り離された感覚を感じやすく
それゆえ孤独感も強くなるのかなと思いました.
子供と妻と死亡率
単身赴任をはじめてからカラダが弱くなったような気がします.
以前と同じだけ寝ているのに疲れが抜けにくかったり,ちょっと無理しただけでも風邪をひきやすかったり,どうにもこうにもパッとしません.
果たして一人暮らしと健康状態の間には何かしらの関係はあるのでしょうか.
この論文は独身もしくは子ども不在の状態が健康行動に与える影響について調べたものです.
Family Status and Health Behaviors: Social Control as a Dimension of Social Integration
論文そのものは1987年と少し古いのですが全米の2246名の男女(婚姻歴のあるもの)を対象に婚姻状態(離婚,婚姻,死別)と養育状態(子どもあり/なし),健康行動(生活習慣と薬物(アルコール,マリファナなど))の関係について調べています.
結論を述べると離婚や死別状態にある人やこどもがいない人は良くない健康行動をとる傾向があり
このことが死亡率の上昇に関係しているのではないか
家庭の機能として自分の健康を守る誘引になるという役割があるのではないかということが述べられています.
私自身,自分の生活習慣を見直してみようかなと思いました.
まとめ
わたしが好きな言葉に「地図は現地ではない」というものがあります。
過度に一般化され平均化され抽象化されたデータ(地図)というのは必ずしもあなたが目の前にしている現実(現地)ではありません。
孤独に強い女性もいれば孤独に弱い男性もおり、
科学というのは悪く言えば十把一絡げにして物事を捉えるようなところもあり
何事も過度に一般化できないとは思います。
とはいえ、基本的にはヒトは、とりわけ女性は独りでいることが得意ではないようで、
孤独な状態を脱すべく、心と体が最適化されるようなシステムがあるようです。
私達の心は自由で、なにもかも自分の意志で決めているような気がするのですが、
大本のところでは進化の歴史という軛に繋がれているのかなと思ったりです。
脳科学に関するリサーチ・コンサルティングを承っております。
子育てや家事、臨床業務で時間のない研究者の方、
マーケティングや製品開発に必要な脳科学に関する論文を探している方、
数万円からの価格で資料収集・レポート作成をいたします!
ご興味のある方は以下よりどうぞ!