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はじめに:寂しさとは何か?

私達人間は一人では生きていくことができません。

多かれ少なかれ互いに依存しあってその命をつないでいるのですが、

この依存が成り立たなくなるときに人は孤独を感じます。

この孤独という感情は、心理学的、社会学的、生理学的にどのようなものなのでしょうか。

この孤独感について3部に分けて説明しますが、この記事では

・寂しさの総説

・寂しさの生理学

・寂しさの脳機能

について代表的な研究を取り上げ解説します。

寂しさの科学:総説

寂しさ脳

寂しさというのは人の世を彩る上で重要な要素だと思うのですが,果たしてヒトはなぜ寂しさを感じるのでしょうか.

あなたの身体がどんな時,あなたの脳がどうなっている時に,なぜ寂しさを感じるのでしょうか.

寂しさに必然性,必要性というものはあるのでしょうか.

この論文は寂しさに関わる脳科学,生理学についての総説になります.

Toward a neurology of loneliness.

寂しさに関わる様々な研究が取り上げられているのですが

寂しさというのは,進化の過程で獲得した生き延びる知恵なのではないかということが述べられています.

弱肉強食の自然世界では集団でいることが個体の生存率を上げる事に関わっています.

群れからはぐれたか弱い個体はあっという間に強者の餌食になってしまう.

それゆえ集団からはぐれた個体は再び集団につながることができるように,また強者から隠れることができるように

不安感を強めたり,活動性を低めたり,つながりを持とうとする行動に出たり,心拍数を上げたりという変化を起こし

再び群れに戻れるように身体にシグナルを送るそうです.

こうったシグナルは短期的には生存率の向上に有効ですが

長期に渡ると弊害のほうが大きくなるようで

このことから近年発見されたように寂しさが喫煙や肥満以上に健康に悪影響を及ぼすということも起こってくるようです.

なぜ別れた後に恋人の徴に目がいってしまうのか

寂しさというのは扱いに厄介で,特に彼氏や彼女と別れた後というのは気持ちの持って行き方も大変なのですが

こういった時には歌の歌詞でもないのですが,別れた相手の情報というのが嫌でも眼に飛び込んできます.

別れた相手が使っていた歯ブラシ,好きだったお菓子,乗っていた車,よく一緒に行っていたお店など,なんだか必要以上に眼に飛び込んでくることがあると思うのですが,これは進化心理学的にはどのように説明できるのでしょうか.

この論文は寂しさについて進化論的に考察したものですが

この論文によるとヒトというのは誰かとつながらないと生きていけないように設計されており

また寂しさというのは痛みや空腹と同じようにヒトが命をつないでいくために必要な感覚ではないかということが述べられています.

Evolutionary mechanisms for loneliness.

お腹が減っている時には自然と食べ物に気が向くし

痛みを感じている時には痛みを与えうるものに対して敏感になるように

寂しさを感じている時には寂しさを埋め合わせするような社会的シグナルに自然と目が行くのではないかということが述べられています.

そう考えると寂しさというのはココロの空腹なのかなと思ったりしました.

寂しさと鬱の効用

寂しさというのは独りではやってこず

時に鬱という厄介なお友達と手を携えてやってきます.

しかしながらこの寂しさとか鬱というのはなぜ存在するのでしょうか.

もし何かしら役割があるとしたらそれはいったいどういうものなのでしょうか.

この論文は寂しさについての総説になります.

Loneliness across phylogeny and a call for comparative studies and animal models.

この論文によると寂しさというのは群れからはぐれないために必要な感情であることが述べられています.

命を賭けて争い合う自然界では群れからはぐれて一人になることは死と直結し,それゆえ再び誰かとつながるために寂しさという感情が発達したのではないかということ,

また寂しさと抑鬱は一緒にやってくるけれど

この抑鬱感には

・攻撃者と遭遇するリスクを低下させる

・自分が追い出された集団に戻る可能性を低下させる

・あちこち動いて変な病原菌を拾う可能性を低下させる

という役割があるのではないかということが述べられています.

そうすると寂しくなって鬱々して活動性が下がるというのはサバイバル戦略として理にかなっていて

生き物のカラダというのはなかなか良く出来ているなと思いました.

寂しがり屋はダメ人間か

寂しさというのは時に人間関係や生活環境を破壊しうるものなのですが

この慢性寂しい病を抱えた個人というのはいわゆるリア充とくらべてどれくらい生きるう上でしんどさを抱えているのでしょうか.

この論文はいわゆる寂しがり屋についての研究を調べたものですが

Lonely traits and concomitant physiological processes: the MacArthur social neuroscience studies.

いろんな心理学的な指標でリア充(embedded individuals)と比べた時に

・不安感が強く

・怒りも強く

・悲観的で

・社会性に乏しく

・否定的な評価を恐れ

・自分の意見を述べる勇気に乏しく

・心身の健康状態も悪い

ことが示されています.

こうやって並べてみると,寂しがり屋の性格というのは生きていくうえでなかなか分が悪く,世間のハードルも高いものになってしまうのかなと思いました.

ゴミ屋敷/カルト組織:孤独が深まるメカニズム

「孤独を深める」という日本語がありますが,なぜ孤独は深まってしあうのでしょうか.

孤独にはそれ自体孤独を強化してしまうようなメカニズムがあるのでしょうか

この論文は孤独感が認知や行動にどのような影響を与えるかについてなされた研究の総説になります.

Perceived Social Isolation and Cognition

この論文によるとヒトは孤独感を感じると

・ホルモンの影響で社会的脅威に対し過敏に反応し

・自己防衛的になり

・社会的振る舞いがネガティブで攻撃的なものになり

・それによって社会とうまく関われずなお孤独感を深め

・もっと社会的脅威に対し過敏に反応し・・・・

という悪循環にはまりやすいことが述べられています.

ゴミ屋敷を巡る住人と地域社会とのトラブルや,社会との接点をどんどんなくし先鋭化するカルト組織,

身近なところだと介護系施設に馴染めず,どんどん攻撃性を高めて,どんどん孤立を深めてしまう認知症老人など

孤独

過剰な自己防衛

もっと孤独

というメカニズムはあちこちにあり,それゆえ孤独というのは自律的に深まってしまうのかなと思いました.

寂しさとは何か

とりわけ寂しい思いをさせた思いはないのですが,自分の子供が「さびしいの!」ということばを使い始めたのは3歳に上がってまもなくだった頃かと思います.

彼の言う「さびしい」は結構語義の範囲が広く,どっちかというと欲求が満たされないのでやるせない,切ないという気分まで含んでいたようですが

ともあれ生後36ヶ月で獲得する「さびしい」という感情は果たしてどのようなものなのでしょうか.

この論文はこの寂しさについてなされた心理学的研究についての概説になります.

Loneliness within a nomological net: An evolutionary perspective.

この論文によると

①寂しさは進化の過程で発達してきた感情である.適度にこの感情を持つことで人は適切に社会的つながりを持って生存確率を上げることができる

②寂しさが強すぎる人は不安感や恐怖感,低い社会スキルなど生存に不利になる条件が多い傾向がある

③寂しさと抑うつ感は似ているけど異なる

④寂しさを催眠で変えると性格が変わることから,寂しさは性格全般に影響を与えうる可能性がある.

ということが述べられています.

いろんなことが書かれていますが,寂しさもほどほどであれば社会性を高めて,これが強すぎると社会性を低めるということで,

寂しさも中くらいがいいのかなと思いました.

通所系サービスは何をもたらすことができるか

ウサギは寂しいと死んでしまうという都市伝説がありますが

これは一概に笑い飛ばすこともできず,最近の研究では寂しさというのは煙草や酒,高血圧以上に体に害を及ぼし,いろんな病気を引き起こしては死亡率を挙うることが示されています.

高齢者というのは年をとってカラダが弱くなる上に社会的に孤立しがちで寂しさもまた強くなり,このことがさらなる健康状態の悪化に拍車を欠けるということがありますが,この高齢者の寂しさというのは何らかの介入で改善できるのでしょうか.

この論文は寂しさの生理学についての総説ですが

社会的な寂しさ介入が効果を上げうる研究報告が取り上げげられており

その研究では75歳以上の235名の男女の高齢者を二群に分け

介入群では週に1回3ヶ月間,7-8人を1グループとしてプロのファシリテーターがアートや体操などを皆で一緒に行い,

対照群では特別な介入を行わなかったのですが

こういった介入を行うことで介入群は社会的に活発になり自尊感情も高まり,こういった傾向は2年後のフォローアップでも継続しており生存率を押し上げたことが報告されているようです.

Loneliness Matters: A Theoretical and Empirical Review of Consequences and Mechanisms

通所系サービスで働いていると,目一杯長生きしてピンピンコロリを地で行くケースをよく見るのですが

派手さはない通所系のサービスですが,寂しさへの介入とそれに伴う健康状態の改善という面では何がしかの効果があるのかなと思いました.

寂しさの脳機能

せつなさ脳科学

「ココロの痛み」ということばがありますが果たして我々人の心は本当にチクチクと痛むことというのあるのでしょうか.

こういったことを検証した有名な実験の一つにサイバーボール課題というものがあります.

これはコンピュータスクリーン上でキャッチボールゲームをするのですが,仲間はずれ設定では自分にボールが回ってこないという状況を体験させます.

こういった状態の時の脳活動を取ってみると,あたかも実際にカラダに痛みを与えられているような脳活動が見られることから,心の痛みも体の痛みも同じようなメカニズムで動いているのではないかということが示唆された有名な研究なのですが

この論文はこの研究が実はそうでもないんじゃないかということを検証したものになります.

A Quantitative Meta-Analysis of Functional Imaging Studies of Social Rejection

この研究では過去に行われたサイバーボール課題を再解析しているのですが,よくよく調べてみると必ずしも身体的な痛みとは同一の脳活動ではないこと

加えて行った研究では被験者に最近別れた恋人の写真を画面上で見せながら別れた時のことを思い出した時の脳活動を図ってみると,こちらの方は身体的な痛みとより似た脳活動のパターンを示していたことが述べられています.

つまりココロがシクシクと痛むためにはリアルタイムでハブられるだけではなく,何かを想起するという記憶系の働きが重要なのではないかということが述べられています.

別れた相手の画像を見せて実験するというのも,そこまでやるかという気もしないでもないのですが,研究者というのはやはりそこまでやらずにはいられない生き物なのかなあと思いました.

フロイト先生は正しかったのか

20世紀の心理学の大御所の本を読んでいると

なんだかどの人も宗教がかっているなあと思うことがあるのですが

心理学の先生といえば大御所中の大御所,フロイト先生が控えています.

この先生は様々な精神病理は全て親子関係,なかんずく母子関係に由来すると言い切っていますが,21世紀初頭現在,どのように捉えることができるのでしょうか.

この論文は母子関係と脳の発達についての動物研究について詳しく述べたものです.

Early life stress as a risk factor for mental health: Role of neurotrophins from rodents to non-human primates

脳が発達する上で重要なものとして脳由来神経栄養因子(BDNF)というものがあります.このBDNFは文字通り脳に栄養を与えて脳が維持発達するために大事な働きをするのですが

動物実験で示されているところでは,生まれてまもない時期に母親から引き離されるような経験をすると,このBDNFがうまく作られなくなってしまい

脳の発達が阻害されたり情緒不安定になってしまったりするそうです.

つまり

母子関係不全→脳の栄養低下→脳の発達阻害→ストレスに弱い脳

というような流れがあるようで

言い切りすぎた難はありますが,心の病と母子関係というフロイト先生の仮説はそこそこ外れていなかったのかなあと思いました.

寂しさの生理学

HPA軸とは何か

ストレスが体に与える影響に関わる本や論文を読んでいると必ずと言っていいほど出てくる言葉にHPA軸というものがあります.

これはhypothalamic(視床下部)ーpituitary(脳下垂体)ーadrenocortical(副腎皮質)からなる一つのシステムのようですが,果たしてこれはどういった仕組みでどのような影響を体に与えるのでしょうか.

一般にヒトがストレスを感じるとそれは情動脳である大脳辺縁系を通じて視床下部に刺激が届きます.この刺激を感知した視床下部はCRH(コルチコロトピン放出ホルモン)を分泌し,それが脳下垂体に伝わると今度はそこからACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌させます。さらにそれを受けた副腎皮質はコルチゾールを分泌します。

つまり

ストレス

視床下部(hypothalamic)
↓ CRH(コルチコロトピン放出ホルモン)
脳下垂体(pituitary)
↓ ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)
副腎皮質 (adrenocortical)
↓ コルチゾール
全身諸機能(心臓,生殖,神経,糖代謝,炎症など)

という一連の流れ,システムがあり,このシステムによって全身に様々な影響(心機能や生殖機能,神経細胞,糖代謝,炎症症状)が及ぼされるそうです.

この論文は孤独感がこのHPA軸にどのように関係してくるか概説を行ったものですが

やはり孤独感を感じることでこのHPA軸の働きが高まり短期的にも長期的にも上記の様々な機能(心機能や生殖機能,神経細胞,糖代謝,炎症症状)によくない影響が及ぼされることが述べられています.

Effects of Social Isolation on Glucocorticoid Regulation in Social Mammals

HPA軸はストレスに反応するシステムなのですが,やはりヒトにとって孤独というのは相当なストレスになるのだなあと思いました.

今日の寂しさと明日の気分

いろんな心理実験の生理学的指標として使われるものにコルチゾール値というものがあります.

これは身体の調整に関わるホルモンの一種なのですが,その人が感じているストレスと強い相関を示すもののようですが,このコルチゾール値の高い低いというのはどのように決まってくるのでしょうか.

この論文はストレス指標のコルチゾールと日々の感情との関係について調べたものです.

Day-to-day dynamics of experience–cortisol associations in a population-based sample of older adults

結論を述べると,ある日のコルチゾール値(起床時)の高い低いというのは前日何があったかで決まってくるそうです.

もし前日に寂しさを感じていたり,悲しかったり,手におえないことがあったとしたら

その気分は翌日に響き,高いコルチゾール値となって現れるそうです.

自分の調子を見ていても外来の患者さんを見ていても

たしかにその日の調子は前日のイベントに左右されることがあり

もし今日の寂しさ,悲しさが翌日の気分に影響するのなら

その日のストレスというのはできればその日の内に消化できればよいのかなと思いました.

集団暴動ホルモン

人というのはひとりひとりはおとなしくても,何かをきっかけに集まりまとまることで時に人が変わって攻撃的になることがあります.

こういった現象は良くも悪くも時代や政治を動かしていったと思うのですが,なぜ人は集まることで人が変わるようなことがあるのでしょうか.

この論文はイナゴを対象にした研究で,なぜイナゴが凶暴になるかについて調べたものです.

The endocrine control of phase transition: some new aspects

イナゴというのは実はなんでもない時というのは一匹で行動するようなおとなしい昆虫のようです.

しかしながら食べるものが少なくなって,お互いに接触する頻度が増え,互いのフェロモンに影響される頻度が増えると,ある内分泌物質が増加して,結果凶暴なイナゴに心身ともに変化することが示されています.

むろんヒトとイナゴというのは生物学的なつながりとしては隔絶しているのですが,

それでも独りではおとなしいニンゲンが,互いに生存を求めて狭い場所に集まることで攻撃的になるとしたら,イナゴ同様,互いの身体接触によるホルモンの変化からくる性格変化ということも起こりえるのかなと妄想しました.

寂しさと夜と人生

ウサギは寂しいと死んでしまうという嘘か本当かわからない話がありますが

ヒトを対象にした研究では確かに寂しさというのは健康を大きく阻害し,その悪影響の度合は肥満や喫煙,飲酒をも凌ぐことが知られています.

しかしながらなぜ寂しいという感情がここまで健康に悪影響を与えてしまうのでしょうか.

この論文は寂しさと睡眠の関係について調べたものです.

Do lonely days invade the nights? Potential social modulation of sleep efficiency.

結論を述べると慢性的に寂しい人というのはそうでない人と比べて眠りの質が悪く,また入眠時間も長いことが示されています.

睡眠というのは心身機能の調整に大きく関わっており,これが阻害されることで心身機能の調整が悪化し,さまざまな不調につながっていくのではないかということが述べられています.

一概に言えることではないのですが,独身者は既婚者と比べて平均寿命が10年以上短いという報告もあり,これは一生涯での睡眠の質が積もり積もってというところもあるのかなと思ったりしました.

その寂しさが血管を傷める

老化に関するいろんな話を聞いていると,つまるところ老化というのは血管がどれだけ痛むかということなのかなと思うことがあるのですが

寂しい人は老けこむのも早いと思うことがありますが,寂しさと血管の間には何かしらの関係があるのでしょうか.

この論文は寂しさと健康因子の関係について調べたものです.

Loneliness and health: potential mechanisms.

実験では若い人と高齢者を対象に,健康習慣や心血管機能,睡眠,ストレス状態が寂しさとどう関係してくるのかについて調べているのですが

結論を述べると

①寂しいと心血管機能と睡眠の質が低下する

②この傾向は高齢者ほど強くなる

③これはストレスホルモンが血管の老化を押しすすすめるためであると考えられる

ということが述べられています.

これは

強い寂しさ

ストレスホルモンの増加

血管老化

老けこみの加速

のような流れになるのかなあと思いました.

寂しい子どもは20年後どうなるのか

寂しさというのは結構な毒になるようで

中年期や老年期の寂しさが健康状態にダイレクトに与えることについてはいろいろな研究から示されています(寂しさの悪影響というのはタバコや酒や高血圧に全く引けをとらないそうです)

しかしながら寂しさが悪さするのは何も年をとってからではなく

子どもの時の寂しさというのが大人になってからの健康状態に悪さをするということがあるそうです.

この論文は,子供時代の寂しさと成人期の健康状態について詳しく調べたものです.

Socially isolated children 20 years later: risk of cardiovascular disease.

この研究ではニュージーランドのある地方に住む約1000人の子ども達を20年間にわたって追いかけて,寂しさが青年期のカラダにどう影響したかについて調べているのですが,結論を述べると

①子供時代に寂しい思いをした人たちというのは青年期になると健康状態が悪い

②具体的には心臓病になりやすい体になっており,体重,血圧,コレステロール値,善玉コレステロール値,グリコヘモグロビン値,最大酸素摂取量などが不良

③こういった傾向は子供時代の寂しさ要因に関係しており,子供時代の生まれや育ち,もしくは成人してからの生活習慣の影響とは関係しない.

④少年時代だけではなく,思春期,青年期も寂しい場合には累積的に健康状態が悪くなっていく

ということが述べられています.

どういった機序で寂しいという感情がカラダを蝕んでいくかはわかりませんが,いずれにしろ子供の頃の寂しさはカラダの設計図を変えてしまうような力があるのかなと思いました.

愛と脳卒中

医療機関で働き出してずいぶん長い期間が経ちましたが

入院患者さんを見ていると家族との関係性が病気の成り行きに結構な影を落とすなあと思うことがあります.

全部が全部というわけではありませんが

頻繁に家族が見舞いに来る人というのはわずかばかりに予後がよく(回復曲線の立ち上がりも急で)

また急変で亡くなることも少なく

感染症にもなりにくかったり,

脳卒中などで相当シビアな状態になっても,その後長生きするような印象があります.

しかしながらなぜ家族の見舞いが病気のその後に影響してくるのでしょうか.

この論文は,ネズミを対象に愛が脳卒中に与える影響について調べたものです.

Social interaction improves experimental stroke outcome.

愛というのは大げさですが,ネズミを人工的に脳卒中にし,その前後でパートナーと過ごさせたり,引き離したりで脳卒中がどのように変わってくるかについて調べています.

結論を述べると,パートナーと過ごさせたネズミは引き離されたネズミと比べて

①体の中の炎症値(CRP)が低下し

②脳損傷が小さくなり

③麻痺の回復も良好になる

ということが報告されています.

ネズミの脳と人間の脳を較べるわけにはいきませんが,家族が頻繁に見舞いに来るような患者がわりと予後がよいのとどこかで関係するのかなあと思いました.

孤児と老人

第二次大戦後間もないころ発表された研究で耳目を引いたものにスキンシップが子どもの健康に与える影響というものがあります.

これは孤児院の乳児死亡率を調べたものですが,それなりに健康状態や衣食住が管理されていても死亡率が高いのはなぜかというところから始まっているそうです.

ある研究では戦争で孤児になった乳児にスキンシップを行わないとどのようになるのかという実験が行われ,その結果多くの乳児が命を落とす結果になったそうです.

つまり乳児が健康に育つためには衛生状態や栄養管理だけではだめで,誰かに抱かれるという要素が大事なのではないかということなのですが,こういったことは大人になったかつての子どもではどのようになるのでしょうか.

この論文は社会的関係性の質や量が死亡率や疾病率に与える影響について膨大な研究論文をもとに詳しく調べたものです.

Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review

結論を述べると,社会的関係性が質量ともに満たされていた場合,生存率を約50%引き上げるということだったのですが

このような値は喫煙や糖尿病と比べうるほど健康状態への影響が大きいということで

健康状態を考える上で社会的関係性をもっと重要視していいのではないかということが述べられています.

乳児にしても老人にしても,ヒトとつながりがない状態というのはとても体に良くないということで,ヒトは人工知能のような何かとは隔絶した存在なのかなあと思いました.

なぜあのヒトは徹夜に強いのか

徹夜をする事態というのはできれば避けたいものですが,仕事を複数抱えていると年に一度か二度やらなければならない場面も出てきます.

世の中には徹夜が続いていても割りに元気な人というのもいますが,この徹夜に強い弱いということにはどういったことが影響しているのでしょうか.

この論文は睡眠不足と孤独感の関係について調べたものです.

Socially isolated mice exhibit a blunted homeostatic sleep response to acute sleep deprivation compared to socially paired mice.

実験ではマウスを使って6時間の睡眠妨害とその後の睡眠パターンおよび不安感,行動変化について調べているのですが

二匹一緒に過ごさせたマウスと一匹孤独に過ごさせたマウスを同じ条件で比べてみると

やはり孤独なマウスのほうが睡眠の質も低下し,睡眠パターンの回復も遅く,寝不足後の不安感も強くなっていることが示されています.

こういったことから孤独な生活というのは,睡眠ストレスがかかった時にその後の睡眠の質量ともに悪影響を与えるのではないかということが述べられています.

むろんネズミを対象にした実験なので,ヒトにそのまま当てはめることはできないとは思いますが,それでも徹夜に強いようなヒトというのは,プライベートにおいて心の支えになるような人がいる人か,もしくは孤独感そのものに対する耐性の強い人なのかなと妄想しました.

睡眠,コミュニティ,孤独感

一般に孤独感が強いほど健康状態も不良になり

動脈硬化に由来する様々な疾患を呼び寄せる(脳卒中,認知症,心疾患など)と言われていますが,なぜ孤独感がここまでヒトの体を傷つけるのでしょうか.

近年仮説として提示されているのが孤独感と健康不良の間に睡眠の質の低下が関与するというもので

孤独感→睡眠不良→体のメンテナンス能力低下→健康不良

というものが提唱されています.

この論文は孤独感と睡眠の質について客観的なデータを取り調べたものです.

Loneliness Is Associated with Sleep Fragmentation in a Communal Society

対象になったのは伝統的な生活スタイルを固持するアメリカ中西部になるフッタライト派のコミュニティの住人なのですが

実験では彼らの孤独感と睡眠の質の関係についてリストバンド式の体動感知装置を用いて評価しています.

結果を述べるとやはり孤独感が強いほど眠りも断片的になってしまう傾向があり,孤独感→睡眠の質の低下ということがあることが示されています.

なおこのコミュニティの孤独感というのは全国的な平均と比べてもずいぶん低いようでそれもまた興味深いなと思いました.

まとめ

寂しさという感覚は多面的で

生理学的にも心理学的にも様々なところから切り取れるようですが、

基本的には哺乳類が生存確率を上げる過程で生じた感覚で

寂しさに付随する不快な感情は痛みや苦しさ同様、個体を適切に動かすためのものなのかなと思ったり、

あるいはこれが過度になると生存そのものを害することもあるのかなと思いました。

寂しさを人生のスパイスとして、上手に嗜みたいものです。

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