なぜランナーズ・ハイが起こるのか?
マラソンをしたことがある人だったらわかると思うのですが、もう走れないという限界を超えると急に体と心に羽が生えたように楽になるような瞬間があります。
こういった現象はランナーズ・ハイとも呼ばれているのですが、なぜこのようなことがおこるのでしょうか。
今日取り上げる論文は、このランナーズ・ハイの生理学的基盤についての総説論文になります。
この論文によると、古典的にはこのランナーズ・ハイに関わる仕組みとして考えられている仮説として
・エンドルフィン仮説
・エンドカンナビノイド仮説
・前頭機能低下仮説
があるそうです。
これらはそれぞれどのようなものなのでしょうか?
脳内伝達物質と多幸感
まずエンドルフィン仮説ですが、これは1970年台から提唱されてきた仮説で、
運動によってモルヒネの数倍の鎮痛作用を持つエンドルフィンと呼ばれる神経伝達物質が分泌され、これが多幸感を生み出すというものです。
しかしながら近年ではこの仮説は疑問視されており、
というのも、確かに運動をすることで末梢血流からのエンドルフィンは増加はしているのですが、
そもそもエンドルフィンは分子量が大きいため、たとえ体の末梢部位で増加が認められたとしても、脳血流関門を通って脳の中に入ることはできなのではないかというのが一つと
実際に脳内のエンドルフィン増加を示した研究がないことがネックになっているようです。
2つ目の仮説であるエンドカンナビノイド仮説ですが、
これは豚や牛の脂に含まれるアラキドン酸に由来するアナンダミドと呼ばれる神経伝達物質があるのですが、
運動をすることで、このアナンダミドレベルが高まり、
さらに分子量が小さいために脳血流関門を通過できること、
さらにこのアナンダミドはカンナビノイド受容体と結びつき、脳内麻薬様の作用を引き起こすというものです。
また3つ目の仮説の前頭機能低下仮説ですが、
これは運動によって意識を統合する前頭機能の低下が引き起こされ、これによってお酒や麻薬、タバコを吸っているときのような特異的な変性意識状態が引き起こされるのではないかという仮説になります。
実際私も本格的に筋力トレーニングを含むエクササイズを始めてから明らかに打たれ強くなったり、仕事が苦にならなくなったりという変化があるのですが、
これは運動によってカンナビノイド受容体の数でも増えたのかなと妄想しているのですが、どうなんでしょう。
参考URL:Peak Performance, the Runner’s High and Flow