ビッグファイブか、MBTIか、HEXACOか――「性格テストの本命」を科学で比べる
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

「あなたは何タイプ?」の前に知っておきたいこと

「あなたは内向的ですね」「リーダータイプですね」——。性格テストの結果を聞いたことがある人は多いはず。就職活動の適性検査、会社の研修、SNSで話題の診断ツールまで、私たちの周りには性格を測る「テスト」があふれている。

でも、ちょっと待って。その結果、本当に信じて大丈夫?

実は性格テストには「当たる」ものと「当たらない」ものがある。科学的な根拠があるテストと、占い程度のものが混在しているのが現状だ。人事評価から自己理解まで、人生を左右する場面で使われることもある性格テスト。「何を」使うかで、わかることも外すことも大きく変わる。

今回は代表的な3つのモデル——ビッグファイブMBTIHEXACOを、科学的エビデンスの観点から比較してみたい。

ビッグファイブ:研究者が太鼓判を押す「王道」

そもそもビッグファイブって何?

ビッグファイブとは、人間の性格を5つの基本的な特性で表現するモデルだ。まるで身長・体重のように、各特性を数値で測定する。

1. 外向性:社交的で活発 ⇔ 内向的で静か
2. 協調性:思いやりがあり協力的 ⇔ 競争的で自己中心的
3. 誠実性:責任感が強く計画的 ⇔ 衝動的で無計画
4. 神経症傾向:不安になりやすい ⇔ 感情が安定している
5. 開放性:新しいことが好き ⇔ 伝統や慣習を重視

たとえば「外向性70点、協調性40点」のように、0-100の連続した数値で表現される。境界線で「外向」「内向」と決めつけないところがポイントだ。

 

 

 

 

 

なぜ科学者に信頼されるのか?

ビッグファイブの最大の強みは圧倒的な再現性にある。

1980年代から世界60か国以上で研究が行われ、文化や言語が違っても同じ5つの因子が見つかる。日本人でもアメリカ人でも、ブラジル人でも、基本的な性格構造は共通しているのだ。

しかも、ただの「性格占い」ではない。実際の行動や人生の成果をよく予測する。

  • 職場での成績:誠実性が高い人ほど、どんな仕事でも成果を上げやすい(相関係数0.27)
  • 人生の満足度:神経症傾向が低く外向性が高い人ほど幸せを感じやすい
  • 健康と寿命:誠実性の高い人は健康的な生活を送り、実際に長生きする傾向

これらは数万人規模の追跡調査で確認された、紛れもない事実だ。

測定の安定性も抜群

同じ人が1か月後に再テストを受けても、結果はほとんど変わらない(信頼性0.85-0.90)。「気分によって結果が変わる」なんてことはない。

MBTI:魅力的だけど科学的には…

16タイプの魅力

一方、最も有名な性格テストといえばMBTIだろう。「INTJ(建築家型)」「ENFP(広報運動家)」といった16のタイプ分類で、自分の性格を表現する。

MBTIの魅力は何といってもわかりやすさだ。「私はINTJなんです」と言えば、なんとなく性格が伝わった気になる。企業研修や自己啓発の場面で絶大な人気を誇るのも納得だ。

実際、MBTIには確かな価値がある:

  • 自己理解のきっかけ:自分の思考パターンを客観視できる
  • チームワーク向上:メンバーの違いを理解し合える
  • コミュニケーション改善:相手のタイプに合わせた接し方ができる

MBTI - Wikipedia

でも、科学的には問題が…

しかし、MBTIには深刻な欠陥がある。最大の問題は**「二分法の罠」**だ。

人間の性格は本来、連続的に分布している。でもMBTIは「外向 vs 内向」のように、きっぱりと二分してしまう。その結果:

  • 結果が不安定:5週間後の再テストで、約半数の人がタイプが変わってしまう
  • 境界線問題:51点と49点の人が、まったく違うタイプに分類される
  • 予測力の限界:将来の行動や成果を予測する力がビッグファイブに劣る

「今日はEタイプだったけど、来月はIタイプになった」では、測定ツールとしては困る。

MBTIの正しい使い方

だからといって、MBTIを全否定する必要はない。用途を間違えなければ十分有用だ。

○ 適している用途

  • チームビルディング研修
  • 自己理解のワークショップ
  • コミュニケーション改善の出発点

× 避けるべき用途

  • 採用選考の判断材料
  • 人事評価の根拠
  • 重要な意思決定の基準

要は「対話のきっかけ」としては優秀だが、「科学的な測定ツール」ではないということだ。

HEXACO:「ダークサイド」も見抜く進化形

ビッグファイブの弱点を補う

最後に紹介するのがHEXACO(ヘキサコ)。これはビッグファイブに「正直さ-謙虚さ(H)」という6番目の因子を加えたモデルだ。

「正直さ-謙虚さ」が低い人の特徴:

  • 他人を操作したがる
  • 不正行為に手を染めやすい
  • 自分の利益のためなら嘘もつく
  • ルールを軽視する

実はビッグファイブだけでは、こうした「ダークな行動」の予測が苦手だった。そこでH因子を追加することで、予測精度が大幅に向上したのだ。

An image showing the six HEXACO traits

 

職場のリスク管理に威力発揮

HEXACOが特に力を発揮するのは職場の逸脱行動の予測だ。

  • サボり・遅刻の常習
  • 経費の不正使用
  • 同僚への嫌がらせ
  • 企業秘密の漏洩

こうした「困った社員」を採用段階で見抜く精度が、ビッグファイブより高い。金融機関や公的機関など、コンプライアンスが重視される組織では、H因子の測定が注目されている。

使い分けが重要

ただし、HEXACOは万能ではない。一般的な職務成績や適応性の予測では、ビッグファイブと大差ない。H因子は「特定の問題行動」に特化した補助的な指標と考えるのが適切だ。

結局、どれを使えばいいの?

用途別ガイド

基本はビッグファイブ

  • 採用・人事評価
  • 学術研究
  • 一般的な性格理解

リスク管理ならHEXACO

  • 不正防止が重要な職場
  • セキュリティクリアランス
  • 金融・医療など高信頼性業界

対話促進ならMBTI

  • チーム研修
  • 自己啓発
  • コミュニケーション改善

組み合わせも有効

実は、これらを組み合わせることで、さらに精度を高められる。

例えば基本はビッグファイブで測定し、リスクが高い職種にはH因子を追加、チーム運営ではMBTIタイプも参考にする——といった使い分けだ。

また、「グリット(やり抜く力)」や「自己制御力」といった特定の特性を追加測定することで、学業成績や起業成功率などの予測精度を上げることもできる。

「性格だけで人を決めない」が鉄則

効果量の現実

どんなに優秀な性格テストでも、万能ではない。性格特性と行動の関連は、統計的には「中程度」(相関係数0.2-0.3程度)が一般的だ。

これは「そこそこ関係がある」程度で、決して「性格で全てが決まる」わけではない。知能や学歴、経済状況、その場の状況なども同じくらい重要だ。

人間の複雑さを忘れずに

性格テストの結果は、あくまで「参考情報の一つ」として捉えるべきだ。人間はテストの数値に収まりきらない複雑で多面的な存在。

同じ「外向性が高い」人でも、営業で力を発揮する人もいれば、研究職で成果を上げる人もいる。性格は「可能性のヒント」であって、「運命の決定書」ではない。

まとめ:賢い選択と使い方

研究に裏打ちされた「土台」はビッグファイブ。不正・逸脱の懸念があるならHEXACOのH因子を追加。MBTIは会話の潤滑油として活用し、重要な意思決定の根拠にはしない。

科学的な測度を適材適所で組み合わせる——これが現代の性格測定における賢いアプローチだ。

性格テストは人間理解の強力なツールだが、それは「人を数値で割り切る」ためではない。多様性を理解し、より良い関係を築き、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すためのものなのだ。

「あなたは何タイプ?」から始まる対話が、お互いをより深く理解するきっかけになれば、それこそが性格テストの真の価値といえるだろう。

 

 

参考文献

Anglim, J., Horwood, S., Smillie, L. D., Marrero, R. J., & Wood, J. K. (2020). Predicting psychological and subjective well-being from personality: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 146(4), 279–323.
https://doi.org/10.1037/bul0000226

Barrick, M. R., & Mount, M. K. (1991). The Big Five personality dimensions and job performance: A meta-analysis. Personnel Psychology, 44(1), 1–26.
https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.1991.tb00688.x

Lee, K., & Ashton, M. C. (2004). Psychometric properties of the HEXACO Personality Inventory. Multivariate Behavioral Research, 39(2), 329–358.
https://doi.org/10.1207/s15327906mbr3902_8

Ozer, D. J., & Benet-Martínez, V. (2006). Personality and the prediction of consequential outcomes. Annual Review of Psychology, 57, 401–421.
https://doi.org/10.1146/annurev.psych.57.102904.190127

Roberts, B. W., Kuncel, N. R., Shiner, R. L., Caspi, A., & Goldberg, L. R. (2007). The power of personality: The comparative validity of personality traits, socioeconomic status, and cognitive ability for predicting important life outcomes. Perspectives on Psychological Science, 2(4), 313–345.
https://doi.org/10.1111/j.1745-6916.2007.00047.x

Zárate‑Torres, R., & Correa, J. C. (2023). How good is the Myers‑Briggs Type Indicator for predicting leadership‑related behaviors? Frontiers in Psychology, 14, 940961.
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.940961

最新の学術情報をあなたへ!

脳科学コンサルティング・文献調査・レポート作成・研究相談を行います。マーケティング、製品開発、研究支援の経験豊富。納得のいくまでご相談に応じます。ご相談はこちらからどうぞ!

 

詳しくはこちら

 

お気軽にご相談ください

脳科学コンサルティング・リサーチはこちら!

脳科学を中心に、ライフサイエンス全般についてのコンサルティング・リサーチ業務を行っております。信頼性の高い学術論文を厳選し、分かりやすいレポートを作成、対面でのご説明も致します。ご希望の方にはサンプル資料もお渡ししますので、お問い合わせからご連絡くださいませ!