怒り表情、逃避反応およびテストステロン
ヒトは威嚇する生き物です。
いやむしろこれはヒトにだけ見られるものではなく、サルやイヌ、エリマキトカゲまで動物社会で広く見られる現象なのですが、
生き残るためにはこの威嚇表情を認知できなければいけません。
目の前の相手が攻撃モードに入っているのかどうか察知できなければ、生存競争の厳しい大自然の中では容易に命を落としてしまうでしょう。
それゆえヒトを始め様々な動物は扁桃体などの不安や恐怖に関わる神経システムを発達させてきたのですが、
個体によって威嚇表情に威嚇されず、むしろ敢然としているものもあります。
こういった個体は果たしてどういった特徴があるのでしょうか。
今日取り上げる論文は、テストステロンと威嚇(怒り)表情への反応について調べたものです。
実験では被験者にサブリミナル的にごく短時間怒り表情を含んだ画像を見せて認知課題を行わせ、その時の反応時間をもとに
どれだけ怒り表情が認知課題に影響を与えるかについて調べているのですが、
唾液中のテストステロンの濃度が高い被験者ほど、認知課題において怒り表情の影響を受けないことが示されています。
また午前と午後で同じ実験を行うと、この傾向は午前中のほうが強いことも示されています。
一般に筋力トレーニングでテストステロンが放出されることが知られていますが、
タフな交渉が必要とされる場面では、朝筋力トレーニングで一汗流して、その後午前中に勝負をかけることで強面の相手ともクールに交渉できるのかなと思いました。
ポイント
テストステロンの濃度と怒り表情への反応について調査した。
唾液中のテストステロンの濃度が高い被験者ほど怒り表情に対する逃避反応は少なかった。
午前と午後では午前の方がテストステロンの濃度が高い被験者ほど、逃避反応が少ない傾向が見られた。
参考URL: Basal testosterone moderates responses to anger faces in humans
補足コメント
本当のことを言えば、朝筋トレをしなければ勝てないような勝負は最初からすべきじゃないのかなとも思う。
個体それぞれにあった自然の摂理のようなものがあって、そこから無理にはみ出ようとするとどこかでしっぺ返しのようなものを食らうような気がする。
とはいえ、勝負をかけずにはいられないのがヒトの性でもあり、わかっちゃいるけどやめられないのもヒトの性だろう。
立川談志のことばに「落語というのは業(ごう)の肯定である」というものがある。
酒を飲んじゃだめとわかっていても飲んでしまう、
博打がだめとわかってもしてしまう、
無理とわかっていても勝負せずにはいられない、
そう考えるならば、人の人生というのはすべからく落語なんだろうなと思ったりもします。
今日も一席打とうかなと思います。