半側空間無視と臨床評価
半側空間無視というのは、脳卒中で頻繁に見られる高次脳機能障害で、臨床場面ではこれに対する治療や評価が頻繁になされています。
しかしながら半側空間無視の病態は複雑で、評価方法も簡単なものから複雑なものまで様々です。
臨床場面で使える時間というのは限られており、できるだけ短時間で正確な検査を行うことが求められますが、果たして半側空間無視の評価方法として最も鋭敏性が高いのはどのようなものなのでしょうか。
今日取り上げる論文は、この評価方法について実際に様々な検査方法を同一の右半球損傷患者に行い、その鋭敏性について検討したものになります。
半側空間無視の評価の評価
今回取り上げる研究で対象になったのは亜急性期の右半球損傷患者206名(男性60.7%、平均年齢55.9歳)で、これらの患者を対象に以下の評価を行っています。
・覚醒レベル(なぜあなたはこの病院にいるのですか?との質問に対する反応)
・視覚消去と半盲検査(視線を正面中央に固定させて検者の両指を左右に離していくもの)
・自発的な視線と頭部の向いている方向(なにもしていない状態でどの程度左方向を向いているかで評価)
・身体無視(閉眼、開眼条件で被験者の右手で被験者の左手を触らせて、その反応で評価)
・ベルテスト(A4用紙に記載された35個のベルを280個の惑わし刺激と区別して見つけ出し、鉛筆で消去する課題)
・図形模写(木や家やフェンスを模写させる課題)
・時計描写課題(丸時計を上に自発的に描かせる課題)
・線分二等分課題(2本の5cmの線分と2本の20cmの線分を二等分させ、中央からのズレを見る課題)
・重複図形課題(左右中央で重複する図形をどの程度判別できるかを評価する課題)
・文章読み課題(水平に示された短い文章を読む課題)
・筆記課題(縦のA4用紙に示された3行の線上に名前と住所、職業をそれぞれ筆記する課題、左側からの最大の隙間距離を評価)
・ADL評価(Catherine Bergego Scale:作業療法士による日常生活で見られる半側空間無視および病態失認評価)
これらの評価を行った上で、果たしてどの評価が最も半側空間無視の検出に優れていたかについて統計的に調査を行っています。
最も鋭敏性が高い半側空間無視の評価方法とは?
結果を述べると上記すべての検査を行うことで亜急性期の右半球損傷患者の85%に何らかの無視症状を検出できることが示されています。
さらに上記の評価の中で最も鋭敏性が高い机上の評価としてはベルテストを用紙のどこから始めるかというのがもっとも半側空間無視症状を捉えやすいこと、
また最も信頼性が低いのが、短い距離の線分二等分課題であること、
さらに机上の評価以外では作業療法士による日常生活上での評価が有効性が高いことが示されています。
半側空間無視は無意識のうちに注意が右方向へ偏ってしまう特徴があるため、上記のベルテストにおける患者の最初の反応した場所というのが、半側空間無視症状を捉えやすいのではないかということが述べられています。
経時的変化を細かく捉える上で有効に使える検査方法なのかなと思いました。
参考URL:Sensitivity of clinical and behavioural tests of spatial neglect after right hemisphere stroke.