貧困によって脳が変わる?
ヒトという生き物は、数ある生物の中でも特殊な生き物ですが、未成熟な状態で生まれてくるという点でもずいぶん変わっています。
イヌやネコであれば産まれて間もなく歩き始めて自立するのも早いのですが、
ヒトは未熟な脳を持って生まれてきて、長い時間養育されることで脳を発達させていきます。
それゆえ遺伝的因子のみならず環境的な因子の影響を受け易いのですが、貧困というのは果たして脳にどのような影響を与えるのでしょうか。
また何かしらの影響があるとしたら、貧困に関連するどのような因子が脳の発達に影響を与えているのでしょうか。
学歴、養育態度、ストレスの関係
今日取り上げる論文は、貧困が脳の発達にどのような影響を与えるかについて詳しく調べたものです。
対象となったのはワシントン州セントルイスの145名の児童(黒人56%、白人32%、その他12%)で
貧困については所得/ニーズ比(生活に必要なニーズの何倍の所得を得られているかの指標)を
また貧困と関連する指標としては
・親の学歴
・養育態度における援助的/冷淡的態度の割合(※)
(※)実験室で児童に対して手の届く場所に置かれたきれいにラッピングされた贈り物の箱を、親がある課題を終えるまで開けないように支持される。その時、親が子供に箱を開けないようにどのような態度を取ったか(説明するのか、脅すのかなど)で評価。
・児童期のストレスフルな出来事
を用いて調べています。
また脳については、大脳灰白質および連絡繊維、左右の海馬の体積についてMRIを用いて調べています。
結果を示すと
・貧困度が高いほど子供の大脳灰白質、連絡繊維、左右の海馬の体積が少ない
・貧困の度合いが高いほど、学歴は低く、養育態度は不良で、児童期のストレスフルな出来事も多い
・親の学歴は子供の脳の体積に影響しない
・脳の体積変化に影響する因子としては親の養育態度と児童期のストレスフルな出来事である
とういことが示されています。
つまり貧困によって親の養育態度が悪化し、ストレスフルな出来事(離婚、虐待など)が増え、
これが児童の脳の発達に影響を与えて体積の減少につながっているのではないか、
それゆえ貧困家庭に対して親の養育をサポートするような支援が大事ではないかということが述べられています。
家族をサポートするような支援が結果として児童のサポートにつながるのかなと思いました。