ネットワークの見方:スモールワールドネットワークとはなにか?
私達の住む世界等のはネットワークにあふれています。
身近なところだと親類縁者というのは一つのネットワークですし、
外に出かけようと思って電車などに乗りますが、これも東京駅を基点として大きな駅と小さな駅で構成される一大ネットワークですし、
そのスマートフォンがつながっているSNSというのも、世界中を結んでいるネットワーク構造の一つです。
このSNSのことを考えても、ネットワークの情報伝達というのは非常に早いものですが、これはネットワークのどのような特徴によるものなのでしょうか。
ここでは一例として航空ネットワークを考えてみましょう。
飛行機というのは便利ですが、すべての空港が直接つながっているわけではありません。
羽田や成田、関空と言った大きな空港を中心とした国内航空ネットワークが世界中に無数にあり、この国内航空ネットワークをつないだ国際空港ネットワークが世界をまたいでつながっています。
あるいは職場のことを考えてみましょう。
職場というのは小さなネットワークである様々な組織から成り立っており、
それぞれの組織のボスが連携して一つの大きなネットワークを作っています。
それゆえ直接面識がなくてもボスを通じて様々なスタッフの発言や情報が私達の耳に入ってきます。
つまり効率的なネットワークというのは
・それぞれ小さなネットワークが集まってできており、
・それらのネットワークは小さなネットワークの中心点(国際空港もしくはボス)を介してつながっている
という構造になっています。
ネットワークの特徴の見方
上に示したようにネットワークというのは点と線とそれらがつながった小さなカタマリから成り立っているのですが、この点と線というのはどのように観ることができるのでしょうか。
一つの見方は一つの点からどれくらい線が出ているかという見方です。
すべての点がすべての点につながっているようなネットワークでは、一つの点から出ている線の数も多くなりますが、
スモールワールドネットワークのようなネットワークでは、多くの点はハブを介して間接的につながっているので、一つの点から出る線の数も必然的に少なくなります(地方空港というのは東京、関西、札幌、福岡くらいしか路線がありませんよね)。
この線の数はパス長と呼ばれますが、ネットワークの平均パス長が短いほど、スモールワールド性が高いということが言えます。
もう一つはその点がどれだけ近くの点とつながっているかを示すような指標があります。
古くからあるような集落では、隣近所の付き合いも密ですが、都会のアパートでは隣に住んでいる人とコミュニケーションがあることは稀です。
この隣の点とどれくらい密に繋がっているかとういのはカタマリの凝集性を示す指標になりますが、この指標はクラスタ係数と呼ばれています。
スモールワールドネットワークというのは一つのカタマリがしっかりとつながっていることが大事になってくるので、このクラスタ係数が高いほどスモールワールド性が高いということになります。
さらにもう一つがこのカタマリがどれだけバラけているかという指標もあります。
多くの組織では様々な小さな集まりが機能分化しており、仕事の役割も決まっており、その中である程度の業務が完結してしまいます。
看護科とリハビリテーション科が協働でなにかすることがありますが、それぞれの組織や機能は別物であり、バラけることでその本領を発揮することができます。
つまりスモールワールドネットワークでは上の図に示すように、それぞれのカタマリがバラけている必要があるのですが、このカタマリ同士のバラけ具合はモジュール性という言葉で説明されます。
自閉症スペクトラム障害の脳内ネットワーク
今日取り上げる論文は、自閉症スペクトラム障害の脳内ネットワークについて調べたものです。実験では自閉症スペクトラム障害者と健常者それぞれ10名の安静時の脳波を測定し、電極間の関係性について主にデルタ波を中心にネットワーク解析を行っています。
結果を述べると、やはり自閉症スペクトラム障害では健常者と比べてネットワークのスモールワールド性が低いこと、
具体的には短距離のつながりが多いものの長距離のつながりが少なく、この傾向は自閉症スペクトラム障害の程度が増すほどに強くなること、
また自閉症スペクトラム障害では小さなネットワークのカタマリ具合を示す指標であるクラスタ係数が小さく、またパス長が大きくなっており、健常者のスモールワールドネットワークとは対象的にいわば「ビッグワールドネットワーク」のような構造になっていることが示されています。(上が健常者、下が自閉症スペクトラム障害)
ときに自閉症スペクトラム障害では情報処理の遅さが社会生活のネックになることが多いのですが、これは独特の脳内ネットワーク構造によるものかなと思いました。