目次
サイコパスの性格特性と脳構造とは?
サイコパスというのは良心や不安感、恐怖感に欠如した人間で、犯罪者や政治家、経営者に多いと言われる性格特性ですが、
こういったサイコパスをサイコパス足らしめている脳の構造や脳の機能というのはどのようなものなのでしょうか。
この記事ではサイコパスに関する代表的な脳科学的研究を23本ご紹介します。
サイコパスの性格特性
なぜサイコパスは新しいもの好きなのか?
歴史上にサイコパス傾向を疑われる人は多々いますが、
徹底的な合理主義者で世間の道徳から隔絶した織田信長もその一人なのかなと思うことがあります。
織田信長は極めて革新的で、新しいモノ好きというイメージが有るのですが、果たしてサイコパス的な性格傾向と新しいもの好きという性格の間にはなにか関係があるのでしょうか。
この論文はサイコパスや反社会性人格障害の遺伝的研究についてまとめたものです。
いろいろな研究結果が取り上げられているのですが
その中にサイコパス的な性格傾向と新しい物を求める性格傾向は同じ遺伝子が関与するというものがあり
現代のサイコパスっぽいカリスマ経営者のいろいろを考えても
やはりこの二つの間にはなにかしら関係があるのかなと思いました。
マキャベリ的暴力とは何か
マキャベリズムというのと目的のためには手段を選ばずという非情の哲学のような印象を与えますが、権謀術数渦巻く中世イタリアの外交家マキャベリは果たして暴力をどのように捉えていたのでしょうか。
ヒトの暴力性を評価する方法はいろいろとあるようですが、一般にヒトの暴力というのは二つに分けて考えられるそうです。
一つは反応的暴力というもので、何か怒りに触れてリアクション的に怒りを溢れさせ暴力を振るってしまうパターンです。いわゆる「キレる」といわれるような熱い暴力です。
もう一つは目標志向的暴力、あるいは道具としての暴力というようなもので、これは必ずしも怒りを伴わず
欲しいものがあったり、あるいは自分の望む状況にするために、何かしらの目的を持って確信犯的に暴力を使用するものです。
サイコパスと呼ばれる良心機能に何らかの問題を抱える人々は後者の道具としての暴力を用いる傾向があるそうです。
人を動かすのは恐怖であり
恐怖に一番簡単にアクセスできるのは暴力や脅しであることを考えると
マキャベリ的に考えると暴力がもっともコストパフォーマンスがよいということになるのかなと思ったり
おそらくマキャベリは君主はこのような暴力を使うべしと考えていたのかなと思いました。
Genetics of human aggressive behaviour.
真逆としての鬱とサイコパス
サイコパスというのは平気で人を殺めたり奪ったりして罪の意識にとらわれない特殊な人達のようですが
これの特徴は端的には二つに集約できるそうです.
一つは欲望への抑制低下
もう一つは損失に対する反応性の低下
というものだそうです.
これはつまり目の前に欲しいものがあれば取らずにはいられないということであり
それによって責められようが嫌な目にあおうがそんなことは気にしない
ということだそうです.
これと対照的にうつ病では欲望への衝動が著しく低下し
罰や損失に対する反応が過剰に亢進するそうです.
これはいずれもホルモンバランスが大きく影響しているそうですが
鬱とサイコパスというのは鏡写しのように真逆の関係性になっているのかなと思いました.
Unmasking feigned sanity: a neurobiological model of emotion processing in primary psychopathy.
サイコパスの感情脳
理詰めの感情とサイコパス
サイコパスというと感情的に冷たい人をイメージするのですが,その反面カリスマ的な人が多く,人の心を感情的に熱くすることに長けているイメージがあります.
しかしながらなぜココロの冷たい人間が他人の心を熱くすることができるのでしょうか?
この論文はサイコパスの脳を詳しく調べたものです.
実験では感情的な画像を記憶する課題を行ったのですが,ここでは矛盾した二つの結果が出たそうです.
一つは当初のイメージ通り感情脳(辺縁系)の活動が低いという結果
もう一つは普通の人よりも感情的な画像の記憶に長けていたという結果です.
この時の脳活動をもう少し詳しく見てみると,生まれつき弱い感情脳(辺縁系)を代償する形で知性に関わる前頭前野や側頭葉の働きが高くなっており,
こういったことから普通の人よりも感情的な情報をよく処理できたのではないかということが述べられています.
サイコパスの人が他者の感情を操作するのが得意なのは,すべての人ではないにしろ,低い感情と高い知性という一面もあるのかなと思いました.
欲望脳
欲望というのは生きるに欠かせないものだと思うのですが
人間のそれはしばしば度を越しており、お金を持てばもっと欲しくなったり、
偉くなればもっと偉くなりたくなったり
美味しいものを食べるともっと美味しいものを食べたくなったりときりがないのですが
地に生きる他の動物と比べ、ヒトの欲望はなぜこうも際限がないのでしょうか。
この論文はサイコパスの欲望脳について調べたものです。
参考URL: Mesolimbic dopamine reward system hypersensitivity in individuals with psychopathic traits.
一時テレビ広告で「やる気スイッチ」なる言葉を聞きましたが、実際脳の中にもやる気スイッチ的な部位があります。
ここの部分が気持ちを興奮させるドーパミンの代謝に関わっており、時にヒトにやる気を起こさせたりもするそうですが
サイコパスにおいてはこの部分の働きが過剰で、自分の欲求を抑えることが難しいのではないかということが述べられています。
食欲、性欲、睡眠欲というのはほどほどであれば満足できるのに社会的欲求というのにキリがないのはどういうわけなのかなと思いました。
なぜあのヒトは人の頭にバットをフルスイングできるのか
先日アウトローもののマンガをパラパラめくっていたら主人公が相手の頭に向かって何の躊躇もなく金属バットをフルスイングするエピソードを見かけたのですが、こういったヒトは脳のどの辺が普通の人と違うのでしょうか。
一般に罪を犯す事に何の躊躇もなく良心がかけた人間のことをサイコパスと呼ぶようですが
この論文はこのサイコパスの脳について詳しく調べたものです。
The neural correlates of moral decision-making in psychopathy.
実験では何らかの良心的な呵責を伴う判断を迫られた時の脳活動を見ているのですが
サイコパスではこういった判断に際し、恐れや恐怖、不快感といったものを司る扁桃体と呼ばれる部位がしっかり働いていなかったことが述べられています。
この扁桃体は知性の座である前頭前野とつながって、何か悪いことをしようかという時に躊躇感を与えて思いとどまらせる役割があるようですが
サイコパスではこの扁桃体が十分機能しないためこういった抑制が働かないのではないかということが述べられています。
織田信長のような人は即物的で神も仏も知らぬなどと評される人物の扁桃体はいかほどであったのだろうなどと思いました。
サイコパス:懲りない人々
サイコパスというのは良心を持たないヒトという風にも言われますが,人を傷つけることに躊躇せず,繰り返し犯罪行動を行うことが多いそうです.
そしてまた彼らは結構な確率でアルコール依存症や薬物依存症になるヒトが多いそうですが,これはサイコパスの性格傾向とどのように関係しているのでしょうか.
この論文はサイコパスの脳を詳しく調べてみたものです.
Psychopathy and the posterior hippocampus.
結論を述べると何かを学習するために必要な海馬と呼ばれる記憶の中枢が小さいことが示されています.
私たちはいろんなことを学習します.
小さいころストーブに触って熱い思いをすれば,ストーブは危ないと学習しますし
機嫌の悪い上司に話しかけて不用意に怒られたりすると,どんな時話しかけていいのか悪いのかを学習します.
こういった学習は連合学習とも呼ばれ
ベルの音を聞けばよだれを垂らすパブロフの犬のように
ある事象とある事象を結びつけて学習する仕組みになっているのですが
サイコパスというのはこの仕組の肝になっている海馬のある部分が小さいため
痛い目にあって何かを学習する,すなわち懲りるという現象が成り立ちにくいのではないか
それゆえ繰り返し犯罪を行ったり,酒や薬をやめることができないのではないかということが述べられています.
不祥事を起こした政治家や一度失敗した経営者が再度立ち上がったりしますが
ひょっとしたら彼らはサイコパス的傾向があるゆえ政治家や経営者として大成し
ひょっとしたらサイコパス的傾向があるゆえに懲りずに立ち上がるのかなと思いました.
あなたの隣の爬虫類
テレビを見ていると時に悲惨な犯罪事件が報道されることがありますが、こういった犯罪を犯す人たちの脳というのは果たしてどのようなものなのでしょうか。
この論文はサイコパスの脳を詳しく調べたものです。
Deficient fear conditioning in psychopathy: a functional magnetic resonance imaging study.
このサイコパスというのは良心が欠如し、他人に対する共感能力が特異的に低い人達なのですが、こういった人たちは時に目も当てられない様な犯罪を犯すことがあるそうです。
結果を述べるとサイコパスでは恐怖反応が成立しづらいことが示されています。
優しいと思ってた上司にある日ひどく怒鳴りつけられたら、暫くの間はビクビクするでしょうし
パラグライダーなんかをやってそれが墜落して大けがをするようなことがあればしばらくは二の足を踏むでしょう。
しかしながらサイコパスというのは良くも悪くも”懲りる”という能力が低く、
結果、どんな目にあっても上司もパラグライダーも怖くないという状態になるようです。
何かをするにあたって躊躇する、ためらうというのは恐怖反応に導かれる大事な反応だと思うのですが
何の躊躇もなく人を殺傷するような人というのは、やはりこういった恐怖反応が成立しづらいのかなと思いました。
臆病者が集中できないのはなぜか?
近年超大国の長に選ばれたある経営者はイギリスの心理学者の調査からヒトラー以上のサイコパスではないかとの報告が上がったそうです.
サイコパスというのはいろんな定義がされるそうですが,その不思議な能力の一つに恐怖心の欠如というものがあります.
人間というのは基本的に臆病者の遺伝子を受け継いだ子孫であり,大抵の場合は恐怖にまみれた状況下では注意・決断力も低下する傾向があるのですが,なぜヒトはビビると注意力が低下してしまうのでしょうか.
この論文は視覚機能と注意機能の関係について調べたものです.
視覚機能を司どる領域として視床枕とよばれる神経核があります.
ここは目から入った視覚情報を大脳皮質に流すような役割があるのですが
恐怖刺激に敏感な人とそうでない人ではその反応が異なることが示されています.
サイコパスというのは視床枕の活動も異なることがあるのだろうかと考えました.
社会不安障害とサイコパス
あまり耳にすることは少ないのですが,実はよくある気分障害の一つに社会不安障害(social anxiety disorder:SAD)というものがあります(国内推定有病率300万人).
これはごくごく端的にいうと自意識過剰が行き過ぎた状態なのですが
常に自分がどう見られているかという意識にとらわれてしまって身動きが取れなくなるような状態になってしまいます.
この論文はサイコパスと社会不安障害者の脳を較べたものになります.
この研究によるとサイコパスでは感情脳(扁桃体)と理性脳(前頭眼窩野)の結びつきが弱く
それゆえ恐怖や不安といった感覚から離れて判断を行うことができるのではないかということが述べられています.
のに対し
社会不安障害では感情脳と理性脳のつながりが過剰に強く
それゆえ何かを判断するにあたって恐怖や不安の影響を強く受ける自分の感情を拾うことができなければ非人間的な振る舞いになってしまうし
自分の感情を拾いすぎると人間社会で生きていくのが難しくなり
ちょうどいい塩梅というのは難しいのかなと思いました.
海馬:脳の中のプレイングマネージャー
脳というと何となくあの表面のシワシワだけをイメージしてしまうのですが
脳というのは存外広く、表面から見えないところにいろいろと重要なところがあります。
その中でもとりわけ重要なのが脳の内側で、場所で言えば添付図のように右脳と左脳がくっつき合っているその表面になります。
ここには、記憶機能のキモになる海馬と呼ばれるところがあるのですが(添付図の黄色の部分:Hippocampus)
この海馬というのは単に記憶をするだけの場所ではなく
脳の中のプレイングマネジャーよろしく
自分本来の仕事もしつつ(記憶処理)
前頭葉や側頭葉などのいろんな領域に枝を伸ばし、これらの領域の管理(マネージング)のような仕事もしています。
そのため認知症などで海馬の変性が進むと、海馬が脳の中でマネージャーとしてしっかり働けなくなってしまい、物忘れ以外にも脳機能の様々な症状が出てくることが知られています。
この論文はサイコパスと海馬の関係について詳細に調べたものです。
Abnormal hippocampal shape in offenders with psychopathy.
結論を述べるとサイコパスの海馬というのは普通のものと形が異なっており
このことがサイコパス特有の罪悪感のなさや懲りる能力のなさ、薬物乱用癖と関係しているのではないかということが述べられています。
直接的な論証はされていないものの、海馬機能と自己管理能力というのはどこかでつながっているのかなと妄想しました。
脳の中の高速道路とサイコパス
脳というのは様々な機能を持ったいろんな部分がつながって働いています.
これは例えばリンゴを見れば,後頭葉にある視覚に関わる部分や側頭葉にある記憶に関わる部分が共に働くということになるでしょうし,
カッと怒って,振り上げた拳をぐっと我慢しているようなときには,脳の深いところにある不安や怒りに関わる部分と理性を司る前頭前野の部分が共に働いているかもしれません.
こういったように脳の中の色んな部分は協調して働いているようですが,こういった協調はどのような仕組みでうまくいっているのでしょうか.
脳の中には神経細胞同士をつなぐ高速道路のようなところがあり,これは大脳白質と呼ばれています.
この大脳白質があるおかげで,遠く離れた部分同士の情報の受け渡しがスムーズにできるようですが,果たしてこれはしばしば犯罪行動につながるサイコパスでは,どのような形をしているのでしょうか.
この論文は,サイコパスの大脳白質の構造について詳しく調べたものになります.
Altered connections on the road to psychopathy.
この研究では殺人やレイプなどで収監されている犯罪者でサイコパス的傾向を強いものを選び出し,拡散テンソル画像と呼ばれる脳の白質線維を可視化できる方法で調べているのですが,
結果を述べると,サイコパスにおいては不安や怒りを司る扁桃体と,価値判断や意思決定に関わる前頭眼窩野を結ぶ神経線維の密度が低下していることが示されています.
不安や怒りを制御するのが得意な脳もあれば苦手な脳もあるのかなと思いました.
サイコパス国家の脳科学
近年様々な企業の不祥事が報道されますが,
果たしてうまくいく会社とうまくいかない会社の違いとうのはどういったところにあるのでしょうか.
少々強引な話のようですが,会社をピアノを弾く少年に例えて考えてみましょう.
この少年はどうすればうまくピアノを弾くことができるでしょうか.
一つは「こう動かすぞ」というトップダウン的な機能が大事でしょう.
もう一つは「こう聞こえたぞ」というボトムアップ的な機能が大事でしょう.
弾きっぱなしでも良くないし,聞こえっぱなしでも良くない.
弾く (トップダウン)
⇅
聞く(ボトムアップ)
の両方がうまくピアノを弾くために大事になるのではないでしょうか.
うまくいく会社は風通しがよいそうですがそういった会社は
指示する(トップダウン)
⇅
上に上げる(ボトムアップ)
というふうにトップダウンとボトムアップが良好に機能しているのかなと思います.
大分話が長くなりましたが今日取り上げる論文はサイコパスの脳機能についてのものです.
結論を述べると通常脳は何かを感じるにあたって
理性(トップダウン)
⇅
感情(ボトムアップ)
という仕組みになっているそうですが,サイコパスでは情報経路において感情のボトムアップ機能が十分に働いていないのではないかということが述べられています.
理性(トップダウン)
↑(✕) ↓(◯)
感情(ボトムアップ)
脳や会社にかぎらず組織がうまく機能するにはトップダウンとボトムアップのバランスが取れていることが大事なようで
上の情報が隠蔽されやすいような国家システムや
下の情報が上にフィードバックされづらい国家システムというのはおそらくサイコパスの脳や不祥事企業に見られるような情報の非対称を産むとおもうのですが
サイコパスや不祥事企業のような国家にならなければよいなと思いました.
サイコパスの知性脳
人間らしさのアタマとココロ
前頭葉の働き、なかんずく前頭葉の前の方、前頭前野の働きというのは長らく謎だったようですが、ここ数十年でいろんなことが分かってきたそうです。
おそらくこの前頭前野というのは”人間らしさ”に関わるとは言われてきたのですが、果たしてこの”人間らしさ”というのはどういったものなのでしょうか。
いろんな切り取り方はあるとは思うのですが、一つは”アタマ”としての人間らしさでしょう。
計算機のように何かを論理づけて考える力、IQテストの結果にでてくるような”アタマ”の力に前頭前野は絡んでいるようです。
さらにもう一つは”ココロ”としての人間らしさでしょう。
この”ココロ”がないと、しばしば”ひとでなし”とか”人間らしさのかけらもない”というように批難されるように、
こう言った機能も人間らしさが成り立つ上で重要なものなのではないかと思います。
ちなみに”アタマ”の人間らしさに関わる領域としては添付図の紫色のあたりのところ(dorsolateral prefrontal cortex:背外側前頭前野)、
”ココロ”の人間らしさに関わる領域としては青色のあたりのところ(ventromedial prefrontal cortex:腹内側前頭前野)が大事ではないかということが近年の研究から示されているそうです。
この論文はサイコパスの脳機能について論じたものですが
The amygdala and ventromedial prefrontal cortex in morality and psychopathy.
この論文によるとサイコパスではこの”ココロ”の前頭前野がうまく働いていないのではないかということが述べられています。
とはいえ、サイコパスならずとも私たち普通の人間が”ひとでなし”になることはしばしばあることで
こういうのは置かれた状況によってこの腹内側前頭前野の働きがオンになったりオフになったりするせいなのかなと思いました。
女性のサイコパスの脳は男性サイコパスとどのように違うのか?
サイコパスというのは国や地域によって異なるものの一定の確率で存在するようで
他者の身体的,精神的な痛みに対して冷淡であり,場合によっては犯罪行動を起こしてしまうこともあるようです.
このサイコパスというのは女性と男性の間ではなにかしら脳活動の違いがあるものなのでしょうか.
この論文は,女性のサイコパスを対象に,道徳的判断を行っている時の脳活動について調べたものです.
Neural correlates of moral and non-moral emotion in female psychopathy
実験では犯罪を犯して収監されている女性と収監されていない女性を対象にサイコパスの程度について評価し,その後道徳的な判断を行っている時の脳活動について調べています.
結果を述べると男性サイコパスと同様に,道徳的に不快な画像を見ても,不安や驚きに関連する右扁桃体の活動が通常被験者と比べて低下しており,
また男性サイコパスと異なる点として,自己意識や運動主体感(sense of agency)に関わる右側頭頭頂接合部の活動が低下していることが示されています.
古今東西,毒殺で世を賑わすのは女性というイメージがありますが,何かしら関係があるのかなと妄想しました.
なぜサイコパスはひるまないのか?
勇猛果敢といえば響きはいいのですが
人間が生き延びるためには驚いたり怯んだり逃げたりすることが大事になることがあります.
これは私の個人的なイメージですが
サイコパスというのは恐れを知らない,怯まない,ためらわないという印象があるのですが,これは脳科学的にはどのように説明できるのでしょうか.
この論文はサイコパスの脳機能について詳しく調べたものです.
Neuroticism and psychopathy predict brain activation during moral and nonmoral emotion regulation.
実験ではサイコパスに不快な画像を示した時脳がどのように活動するかを調べたものですが,やはり通常とは異なることが示されています.
普通の人間は蜘蛛や死体の写真を見せられたらビクッとします.カラダはどちらかと言うと後ろに退け,逃げるモードにはいるのですが
これには以下の様な仕組みがあるようです.
蜘蛛の写真→網膜→原始脳→運動準備脳→運動脳→逃げろ!
ところがサイコパスでは途中の運動準備脳に対して他の部分がチャチャ入れをして
蜘蛛の写真→網膜→原始脳→運動準備脳A→運動脳→逃げろ!
↑
運動準備脳B
というようにカラダが逃げるモードに入らないように情報の流れを調整しているようです.
サイコパスが恐れるものを知らない,怯まないというのはこのへんの仕組にもあるのかなと思いました.
愛や正義が分かるということ
サイコパスというのは良心の呵責なくいろいろとひどいことができる生き物のようですが,なぜ彼らには良心がないのでしょうか.
この論文はサイコパスの脳機能と言語機能についての関係について調べたものです.
結論から述べるとサイコパスというのは抽象的な言葉をうまく処理できないことが示されています.
あんまりサイコパスではない私たちは愛や共感といったものを持っていますが,こういったものはよくよく考えると非常に抽象的な概念です.
サイコパスはトラックや注射器といった具体的なことばの処理は普通の人と同じくできるのですが,自由や愛,民主的といった抽象的なことばの処理には難儀をするようで,それを裏付けるように意味処理に関わる側頭葉の活動が低下していることが示さされています.
愛に生きる,善に生きるというのはおそらく目に見えない抽象的な世界を生きるということで
愛を知り善を知る私達ニンゲンというのは生まれついての哲学者なのかなと思いました.
あなたに「それは違う!」と叫ばせるのは脳の中のどこなのか
「それは違うだろ!」というツッコミがあります.
それはテレビの中の犯罪者に対してや
あるいはソソウをしてぽかんとしている若手や
あるいはムチャな判断をする経営者や政治家に向けられるのですが
こういったフレーズが何を含むかというと
「それは(道徳的に)NGでしょ!」という意味だと思うのですが
果たして私たちはなぜ「違う」というコトバを使うのでしょうか?
この論文はサイコパスの脳機能についてのものです.
Aberrant neural processing of moral violations in criminal psychopaths.
結論を述べるとサイコパスが善悪の判断をしている時には脳の中の「意味」を処理する部分がしっかりと働いていないことが示されています.
場所は添付図のように側頭葉の前の方になるのですが,この領域は脳の色んな所から情報をもらって,それが何を「意味」するかという処理に関わっています.
この領域が認知症などで働かなくなってくると,トイレを前にしてもそれがなんのためのものか分からなくなったり,目の前のドライヤーがなんのためのものかわからなくなる意味認知症という症状を呈してきます.
私たちニンゲンはいろんな意味の中で生きています.
その「意味」からはみ出したものにたいして
「それは違う」
という判断します.
こういった意味処理に前部側頭葉が関係しているのですが
サイコパスというのは善悪の次元において
トイレをトイレと認知できない意味認知症患者のように
悪を悪と認知できない倫理的な意味認知症で
やはりその根っこは神経生理学的なところにあるのかなと思いました.
意味の世界の脳活動
最近はロボットが本格的に社会に導入されているようですが
現時点で私たちニンゲンとロボットを隔てているものは果たしてなんなのでしょうか。
いろいろあるとは思うのですが、一つはニンゲンは意味の世界に住んでいるということがあるのではないかと思います。
これはどういうことかというと、今あなたが見つめている画面から視線を外して周りを見てみると、膨大な量の「意味」に囲まれて生きているということで
「アツアツの魅力的な」コーヒーがそこにあり、
「おっかないけど頼れる」上司がそこにいて
「緊張感溢れる一触即発の」人間関係がそこにあるという点で
目の前に広がる世界のありとあらゆるものが何かしらの意味を持ってあなたに迫ってくる、
そんな世界に住んでいるという点で、ニンゲンとロボットは住んでいる世界が違うのかなと思います。
いいかえればロボットは「モノ」の世界に住んでいるのに対し、ヒトは「コト」の世界に住んでいるという点で、ヒトとロボットは現時点では決定的に違うのではないかと思います。
しかしながら脳科学的にはこの「意味」というのはどこで処理されるのでしょうか。
この論文はサイコパスの脳について詳しく調べたものです。
結論を述べるとサイコパスの脳というのは脳の形がやはり普通の人と少し違うようなのですが
とりわけ本来「意味」の世界を生きるために重要な側頭葉の体積が小さいことが示されています。
サイコパスというのはロボットのようにヒトやそれにまつわるいろいろな「コト」ではなく「モノ」として扱うのかなと妄想しました。
サイコパスその他
サイコパスを育てるには
サイコパスというのは良心や善意というものを大きく欠き、
人を傷つけたり盗んだり嘘をついたりということに躊躇を持たない人だ相ですが、一説によると欧米では25人に1人がサイコパスではないかということが言われているそうです(サイコパスの解釈にもよるのでしょうけれど)
しかしながらこのサイコパスというのは教育や環境で育成できるものなのでしょうか、それとも先天的な素因によって勝手になってしまうものなのでしょうか。
この論文はサイコパス犯罪者と非サイコパス犯罪者の違いについていろいろな指標から調べてみたものです。
結論を述べると
1 サイコパス犯罪者は恒常的にコルチゾール値が低い。つまり基本的にクールで落ち着いている
2 サイコパス犯罪者は幼少期にトラウマになるような環境にいた経験が多い
という結果が示されたようです。
幼少期の影響も多少はあるようですが
サイコパスをサイコパスたらしめているのは暴力や犯罪そのものでなく
淡々とストレスなく暴力や犯罪をつつがなく行うその姿勢なのかなと思いました。
生まれついての悪:先天性サイコパス
サイコパスというと何の良心の呵責も感じずに平気で人を傷つけたりするような人を言うそうですが,
サイコパスというのは生まれつきサイコパスなのでしょうか,それともなんらかの教育・環境によってサイコパスになるのでしょうか.
この論文は2種類のサイコパスについて調べたものです.
Cortisol, callous-unemotional traits, and pathways to antisocial behavior.
結論から言うと反社会的な人格というのは先天的なものと後天的なものがあるそうです.
前者は何をどう育てても,やはりそうなってしまうようなもので,性格は冷血,不安や怒りに対してもそれほど敏感に反応しないという特徴があるそうです.
それに対して後者の後天的なタイプは劣悪な生育環境でそうなってしまうことがあり,性格は必ずしも冷血ではなく,不安や怒りに敏感に反応してしまうという特徴があるそうです.
本当にひどいことをしてしまうのはどうやら前者の先天性のタイプのようですが,それなりの知性があれば,こういったタイプは表の社会で案外成功したりしてしまうのかななどと思いました.
【自分の心に聞いてみろ(ask your heart)】は脳科学的にどの程度妥当か?
私達ニンゲンは道徳の生き物です.
よほどのサイコパスでなければ,ある程度の良心があり,あることを行うにあたって胸がいたんだり,痛まなかったりする,心優しい生き物です.
それゆえ道徳的に正しいか否かを判断する時に「自分の胸に聞いてみる」という方法があると思うのですが,この方法は脳科学的にどれほど妥当なものなのでしょうか.
この論文は,道徳的判断や道徳的知覚に関わる脳活動について調べた研究データをひとまとめにして,道徳に関わる脳活動について調べ直したものです.
結果を述べると,道徳的判断や道徳的知覚に関わる脳領域として,「ココロ」の活動全般に関わるデフォルトモードネットワークの活動が高くなることが示されています.
このデフォルトモードネットワークとは,右脳と左脳が接する脳の内側面にあり,自己意識の成立に重要な役割を果たしていると考えられている領域になります.
こういった結果を考えれば道徳的判断を巡って,「自分の心に聞いてみろ」という表現は正しいのかなと思いました.
負け組サイコパスと勝ち組サイコパス
サイコパスというのと良心の呵責なくヒトを傷つけられる性格のようですが
こういったサイコパスにも勝ち組と負け組があるようです.
負け組というのは社会適応できず自らの欲望に赴くままに行動してしまい重篤な犯罪を犯してしまうようなケースで
勝ち組というのはヒトを傷つけても良心の呵責を感じないのだけれども,ケースバイケースで自分の攻撃性をうまく用いて経済的社会的に成功するようなケースのようです.
実際政治家や経営者にはサイコパス的傾向が強い人間が多いことを示した研究もありますが,この論文はサイコパスの脳について詳しく調べたものです.
Structural brain abnormalities in psychopaths-a review.
この論文によると勝ち組サイコパスと負け組サイコパスの解剖学的特徴は主に前頭葉の大きさと海馬の対称性にあるそうです.
つまり負け組サイコパスは勝ち組サイコパスに比べて比較的前頭前野が小さく,また海馬の非対称性も大きいことが示されています.
不幸にしか生きられないとしたら(負け組)サイコパスというのもまた不憫だなと思いました.
まとめ
以上にまとめたようにサイコパスは良心や恐怖心が足りていないのですが、これには先天的な要因による脳構造の違いも絡んでいるようです。
良心や不安感がない世界というのは果たしてどのような景色に見えるのか個人的には興味がありますが、
こういった知見はより人間に近い人工知能の設計にも役立つことがあるのかなと思いました。
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