
先日、人生で初めて地上波の番組に出演した。
与えられたテーマは「脳科学的に正しい謝り方」。
こう書くと何やら“正解”がありそうに思えるが、そもそも謝り方に「正しさ」など存在するのだろうか。
文献を調べてみると、驚くことにいくつかの方法論が確立されている。そしてその多くが日本人研究者によるものだった。日本はつくづく“謝罪の研究が進んだ国”なのかもしれない。
比較研究から見えてくるのは、次のようなポイントである。
1.笑顔ではなく、申し訳なさそうな表情を見せたほうが怒りを抑えられる。
これは経験的にもよくわかる。こちらが怒っているときに笑顔を向けられるほど腹立たしいことはない。謝る側としては「場を和ませたい」という防衛的な無意識かもしれないが、相手からすると“状況を軽く扱っている”ように見えるのだ。
2.理由を説明したほうが怒りは小さくなる。
怒りの背景には「なぜこんなことが起きたのか」という不安と混乱がある。
そこで「電車が遅れた」「どうしても友人を助ける必要があった」など、筋の通った理由を提示すると、相手は出来事を理解し直し、気持ちが落ち着きやすくなる。
3.お詫びの品を提示する。
一時期「とらやの羊羹=謝罪の象徴」と話題になったが、人は“身銭を切る行為”に誠意を感じる。言葉は無料だが、羊羹は数千円する。その痛みが「本気で反省している」という判断材料になる。
こうした研究結果を眺めていると、だんだん“謝罪が作用する理由”が見えてくる。
ポイントは、相手があなたの「考え方そのもの」が変わったかどうかを見ているということだ。ここで扱いたいのが「マインドセット」という概念である。
マインドセットとは、その人の世界のルール、価値観の枠組みのことだ。
・人を待たせても別にいい、というマインドセット。
・人を待たせるなんて論外だ、というマインドセット。
・浮気はバレなければセーフ、というマインドセット。
・浮気するくらいなら死んだほうがマシ、という極端なマインドセット。
人が怒るのは、この“自分の世界のルール”が脅かされたと感じるからである。
相手がそのルールを無視するままでは、自分の世界はゆらぎ、生活そのものが不安定になる。だから怒りを通して「あなたのマインドセットを修正してほしい」と訴えているのだ。
つまり、怒りを鎮める最も根本的な方法は、形だけのテクニックではなく、あなた自身のマインドセット(=考え方の枠組み)を変えることにある。
それが変われば、表情も言葉も行動も自然に変わる。逆に、口先だけの謝罪はすぐに見抜かれてしまう。人間の脳は、そうした“微妙なズレ”を驚くほど敏感に捉える。
そこまでして関係を保つ気がないのなら、怒っている相手から距離を置き、自分のマインドセットが摩耗しない環境に移る方が健全だろう。
穏やかに、穏やかに、生きていきたい。
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