私達の視線は左側に偏っている?
半側空間無視と呼ばれる病態があります。
これは脳卒中などで右半球を損傷することで生じるものですが、この病態では左側への空間の認知能力が低下し、視覚に問題がないにもかかわらず「見えているのに見えていない」という症状を生じます。
しかしながら普段私達の視線というのは健常者であっても正中を向いているのでしょうか?
様々な視覚認知実験では私達の視線はわずかながら左方向へ偏っていることが報告されています。
左半側空間無視についての様々な研究からは患者の注意力が空間認知能力に影響していることが報告されていますが、これは健常者であっても同じようなことがいえるのでしょうか?
健常者における注意機能と空間認知能力の関係
今日取り上げる論文は、健常者を対象に注意機能と空間認知能力の関係について調べたものです。
実験では48名の学部生を対象に2つの検査を行っています。
一つは持続的注意力を調べるテストで、このテストでは被験者は画面に出てくる1から9の数字に反応してマウスの左クリックをしなければいけないのですが、3の数字が出てくるときはこのクリックをしないように指示されます。
加えて数字が灰色で示されるときは右クリックしなければいけません。
もう一つは空間的注意を調べるテストで、このテストでは被験者は上下に示される左右に白黒のコントラストのある画像を見比べて、どちらが全体的に濃いかを答えなければいけません。
このテストを行うことで空間的注意が左右どちらの方に偏っているかを調べることができます。
健常者を対象にしたこれらのテストの結果を述べると、
持続的注意のテスト結果が良いほど、空間的注意のテストでは注意が左側へ偏っていることが示されており、
また持続的注意のテスト結果が悪いほど、空間的注意のテストでは左側への注意の偏りが減少し、正中よりに注意が向くことが示されています。
つまり持続的注意が低下するほど、右方向へ注意がシフトしてくるということなのですが、
持続的注意を、自ら能動的に注意を向けるトップダウン的注意、
空間的注意を画面から上がってくる情報を受動的に感知するボトムアップ的注意と読み替えると
大事なのはトップダウン的な注意で、このトップダウン的注意が低下するとボトムアップ的注意も右方向へシフトしてくるのかなと思ったり、
このような現象は健常者であっても左半側空間無視であっても同じなのかなと思いました。
参考URL:Attenuation of spatial attentional asymmetries with poor sustained attention.