文化と脳の関係性:文化神経科学
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はじめに

県民性や国民性というものがあります。たしかに地域によって住人の振る舞いや気質に特徴があるとは思いますが、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。一節によると、人間には文化的価値観に適応する遺伝子があり、それゆえ人は置かれた環境に染まりやすいとも言われてます。文化による脳活動の違いを調べる学問領域は文化神経科学と呼ばれていますが、今回の記事では、文化と脳の関係について論じた研究をいくつか紹介したいと思います。

東洋人と西洋人の自己認識

しばしば東洋人と西洋人ではものの見方や感じ方が違うとも言われています。こういったものの感じ方の違いには集団主義や個人主義も影響していると言われていますが、ある研究では中国人と西洋人で母親の顔を見ているときの脳活動の違いについて調べています。

実験では、1)自分の顔を見ているとき、2)他人の顔を見ているとき、3)母親の顔を見ているとき、の3つの条件で脳活動を調べています。すると、中国人は自分の顔を見ているときと母親の顔を見ているときに同じような脳活動(内側前頭前野の活動増加)が見られたのに対し、西洋人はそのような活動が見られなかったことが示されています(Zhuら, 2007年)。

Zhuら, 2007年, fig. 3を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違いが見られた内側前頭前野は「自己」を認識したり考えたりするときに活動する領域になります。この実験の結果から、中国人は、最も身近な他者である母親は自己的なものとして認識されることが反映されているのではないかと論じられています。

社会経済状態と脳活動

社会経済状態(社会的地位の高さや経済状況)もまた、脳に影響を及ぼすことがいくつかの研究から指摘されています。ペンシルバニア大学のファラー博士によると、社会経済状態は以下に示すプロセスにより、脳や行動を変化させることが述べられています。

Furah, 2017年, figure 1を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つは生まれつきの脳の構造や機能が原因となって認知機能などが変わってくるものです。社会経済状態はその影響を調整するものとして働きます。

もう一つは社会経済状態が原因となって認知機能が変わってくると捉えるものです。社会経済状態は脳の構造や機能を変化させ、そのことも認知機能などを変化させる原因となります。

更に一つは社会経済状態が原因となって認知機能が変化するのですが、その仲介要因として、社会経済状態によって引き起こされる様々な生活要因(ストレス、子供へのケア、教育、栄養)があると捉えるものです。

 

また具体的な脳活動の変化としては、社会経済状態が低いものは脅威刺激を見た時の扁桃体の活動が高くなることや、報酬刺激に対する辺縁系の活動が高くなることなどが報告されています。さらに実際の脳の大きさも社会経済状態の違いによって変化するとされています(Farah, 2017)。

Furah, 2017年、figure 2を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個人主義と集団主義

東洋と西洋の大きな文化的価値観の違いとして集団主義と個人主義というものがあります。集団主義では、自分がどの集団に置かれるかによって自己が規定されるとされ(例として、先生の前では礼儀正しい、など)、個人主義では、自分の性格特性はどこであっても大きく変わらない(例として、自分はいつも礼儀正しい、など)ものとして捉えられる傾向があります。しかしこのような態度の違いは脳活動にどのように反映されるのでしょうか。ある研究では、態度が変われば自己意識に関わる脳活動も変化することを示しています。

この研究では、被験者にプライミング刺激として特定の物語を示し、個人主義的態度や集団主義的態度への誘導を行います。その後、集団主義的な自己評価(母親の前では私は良い子だ、など)、もしくは個人主義的自己評価(一般に私は親切である、など)を見せ、その時の脳活動をfMRIで測定し比較しています。

結果としてはプライミング刺激によって自己意識に関わる後帯状皮質や内側前頭前野の活動が変化することが示されています。

Chiaoら, 2010年, Figure 2,3を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

このように私達の脳は文化的状況によって、その形や働きが変化しうるようです。またプライミング刺激だけで変わるところを見ると、その反応は大分柔軟性があることも考えられます。しばしば、自分を変えるには環境を変えるのがいいとも言われますが、このような脳科学の知見と照らし合わせると、あながち間違っていないのかもしれません。置かれた場所で咲くのもいいですが、植物と違い、私達人間は移動することも出来ます。できるだけ好ましい自分でいられるような環境に身を置きたいものです。

 

【参考文献】

Farah M. J. (2017). The Neuroscience of Socioeconomic Status: Correlates, Causes, and Consequences. Neuron, 96(1), 56–71. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2017.08.034

Chiao, J. Y., Harada, T., Komeda, H., Li, Z., Mano, Y., Saito, D., Parrish, T. B., Sadato, N., & Iidaka, T. (2010). Dynamic cultural influences on neural representations of the self. Journal of cognitive neuroscience, 22(1), 1–11. https://doi.org/10.1162/jocn.2009.21192

Zhu, Y., Zhang, L., Fan, J., & Han, S. (2007). Neural basis of cultural influence on self-representation. NeuroImage, 34(3), 1310–1316. https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2006.08.047

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