県民性の科学:遺伝か環境か?
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はじめに

日本は小さな国であるが、それでも全国47都道府県、様々な地域がある。そしてその地域特有の気質というものがあり、それはしばしば県民性という言葉で語られる。しかし、この県民性というのは何が原因となって生まれるのだろうか。今回の記事では、この県民性に関わる生理学的・心理学的エビデンスについてまとめ、考察してみたい。

県民性と性格特性

その人の性格や気質を図るためには様々な尺度があるが、心理学分野で代表的なものとしてビッグファイブと呼ばれるものがある。これは人間の気質を5つの要因(外向性、開放性、協調性、誠実性、神経症的傾向)で説明するものである。ある研究では、このビッグファイブを用いてそれぞれの都道府県特有の気質について調べている。

ビッグファイブ (心理学) - Wikipedia

 

結果としては、以下に示すように様々な地域差があることが示されている(吉野と小塩, 2021年)。

・外向性は首都圏や沖縄県で高く,中国地方で低い。
・協調性は九州東部や沖縄県で高く,北陸地方で低い。
・勤勉性は東北地方で低い。
・神経症傾向は東北地方や中国地方で高く,沖縄県で低い。
・開放性は九州北部で高い。

吉野と小塩, 2021年, 図1を参考に筆者作成

 

 

 

これだけ見ると東北が性格的にだいぶイケておらず、特に私の出身地である秋田県はあまりにもネガティブ要素が大きい。これはこれで冷涼で生産性が低い土地で順応した結果なのかもしれないが、少々切なくもある。

県民性と遺伝的要因

一般的には性格は遺伝と環境で決まると考えられている。では日本人を対象とした場合、その割合はどの程度なのだろうか。日本人の思春期、青年期の双生児617組を対象にした研究からは、性格に対する遺伝の影響は平均して37%程度であることが報告されている(Ando et al., 2004)。もし遺伝的分布に地域差があれば、それはある程度性格にも反映される可能性もある。

国立国際医療研究センターの竹内らの研究グループは、日本人の遺伝的パターンは大きく9つのクラスターに分けられ、それは地理的分布と一致していることを示している(Takeuchi et al., 2016)。この点だけを見ると、地域によって遺伝的分布が異なり、それが気質の違いに現れるのだろうかと考えたくもなる。しかし、現在のところ、遺伝的分布と気質の違いの関連性について示した研究はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記の議論とは別に、環境に染まりやすい遺伝子があるのではないかとの研究も近年発表されている。これは社会的報酬に関わる遺伝子でDRD-4と呼ばれるものだが、いくつかのサブタイプに分類される。このサブタイプのうち、大多数を占めるタイプのものは文化的影響を受けやすいというのだ。例えば欧米人は個人独立志向で、アジア人は相互依存志向だとされるが、「染まりやすい」遺伝子を持っている人がアジアに生まれれば集団主義志向に、アメリカに生まれれば個人主義志向になることを示した研究もある(Kitayama & Huff, 2015)。その意味では、多くの人は置かれた環境によって気質が方向づけられると考えられなくもない。

Kitayama & Huff, 2015 figure 2を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

県民性と環境要因

秋田県人が無口なのは、冬に口を開いていると雪が口に飛び込んでくるからだ、などという笑い話もあるが、環境的要因は実際、県民性に影響を与えるのだろうか。日本人を対象にした研究からは、日照量、緯度、歩きやすさ、人口密度などが気質に影響することが報告されている。

緯度が異なる5つの地域(札幌(北緯43度)、越ヶ谷(北緯36度)、大分(北緯33度)、高岡(北緯36度)、帯広(北緯42度))の住民189名を対象にした研究からは、緯度が低いほど、また気温が高く年間日照量が多いほど、活発で積極的な気質を持つことが示されている(Inoue et al., 2015)。

また日照量と気質の関係について調査した研究からは、年間を通じた日照量が少ない地域ほど神経症的傾向が高いことも示されている。また人口密度が高いほど、同じく神経症的傾向が低いことも示されている。

吉野ら, 2020年, Figure 1を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにその土地の歩きやすさが、外向性と関連することも報告されている。この研究では日本全国の5320人を対象に、その居住地の歩きやすさ(公園や商業地への徒歩でのアクセスのしやすさ、人口密度、交差点密度などを用いた指標)と外向性および協調性の関係について調査している。結果として、歩きやすい土地に住んでいる人は外向性が高いことが示されている(Goetz et al., 2020)。その理由として、歩きやすい土地であれば、人との交流がしやすくなり、結果として外向性が促されるのではないかと論じられている。

文化的フィッテイングと幸福度

自分にあう土地や合わない土地というのがある。実際、スイスで行われた研究によると、住んでいる土地の気質と自分の気質が合っているとほど、幸福度が高いことが報告されている。

対象になったのはスイスの各連邦州で、それぞれの連邦州の平均的な気質(開放性、協調性、誠実性、外向性、神経症的傾向をビッグファイブで測定)を求め、個人の気質と居住地の平均的な気質との合致度が個人の主観的幸福度にどの程度影響を与えているかについて調べている。

結果を示すと、言語圏によって比較的明瞭な土地柄(気質の違い)があり、個人の幸福度もどの程度土地柄と合致しているかに影響されることが示されている(Götz et al., 2018)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

このように地域性、県民性というのは確かに存在し、その多くは環境的要因によって影響されているようである。具体的には、日照時間が年間を通じて多く、気温が高く、人口密度が高く、徒歩移動で事が足りる土地はポジティブな性格要因に関連する。47都道府県を見ても、たしかに東京、大阪、福岡など人が集まり、日照量が多そうな地域はポジティブな気質であるようにも思われる。

とはいえ、スイスで行われた研究が示すように、ポジティブな気質な土地に住めば幸せになれるというわけではない。むしろ幸せかどうかは、自分の気質に合う土地かどうかで決まるのかもしれない。どこで住んでも暮らしても一生である。幸せになれる土地を探すのも悪くはないと思うのだが、どうだろう。

 

 

【参考文献】

Ando, J., Suzuki, A., Yamagata, S., Kijima, N., Maekawa, H., Ono, Y., & Jang, K. L. (2004). Genetic and environmental structure of Cloninger’s temperament and character dimensions. Journal of personality disorders, 18(4), 379–393. https://doi.org/10.1521/pedi.18.4.379.40345

Götz, F. M., Ebert, T., & Rentfrow, P. J. (2018). Regional cultures and the psychological geography of Switzerland: Person–environment–fit in personality predicts subjective wellbeing. Frontiers in Psychology, 9, Article 517. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.00517

Götz, F. M., Yoshino, S., & Oshio, A. (2020). The association between walkability and personality: Evidence from a large socioecological study in Japan. Journal of Environmental Psychology, 69, Article 101438. https://doi.org/10.1016/j.jenvp.2020.101438

Inoue, T., Kohno, K., Baba, H., Takeshima, M., Honma, H., Nakai, Y., Suzuki, T., Hatano, K., Arai, H., Matsubara, S., Kusumi, I., & Terao, T. (2015). Does temperature or sunshine mediate the effect of latitude on affective temperaments? A study of 5 regions in Japan. Journal of affective disorders, 172, 141–145. https://doi.org/10.1016/j.jad.2014.09.049

Kitayama, S., & Huff, S. (2015). Cultural neuroscience: Connecting culture, brain, and genes. Emerging trends in the social and behavioral sciences, 1-16. https://doi.org/10.1002/9781118900772.etrds0062

Takeuchi, F., Katsuya, T., Kimura, R., Nabika, T., Isomura, M., Ohkubo, T., Tabara, Y., Yamamoto, K., Yokota, M., Liu, X., Saw, W. Y., Mamatyusupu, D., Yang, W., Xu, S., Japanese Genome Variation Consortium, Teo, Y. Y., & Kato, N. (2017). The fine-scale genetic structure and evolution of the Japanese population. PloS one, 12(11), e0185487. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0185487

吉野伸哉, & 小塩真司. (2021). 日本における Big Five パーソナリティの地域差の検討 3 つの大規模調査のデータセットを用いて. 環境心理学研究, 9(1), 19-33. https://doi.org/10.20703/jenvpsy.9.1_19

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