目次
認知症を予防する効果的な方法とは?
年をとっても元気でいたいというのは誰でも願うことだと思うのですが、
それでも年をとってくると物覚えが悪くなってしまい、場合によっては自分や周りの人が生きていく上で大変になってくることがあります。
色々対策をして穏やかに生きていければいいのですが、認知症を予防もしくは治療する方法というのはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は認知症の予防と治療に関わる医学生理学的研究をまとめて紹介していきます。
認知症の予防:運動の効果
なぜ高齢者が運動すると認知機能(cognitive function)が改善するのか?
近年,様様な研究から運動が認知症の予防や認知機能の改善に有効なことが報告されていますが,
こういった現象の背景にはどのようなメカニズムが関わっているのでしょうか.
この論文は,運動が認知機能と脳の構造にどのような影響を与えるかについて調べたものです.
実験では高齢者に有酸素運動(トレッドミルでの歩行エクササイズ)と無酸素運動(ストレッチなど)を1年間行わせ,認知機能と脳構造の変化を調査しています.
結果を述べると運動によって脳構造が変化し,それに伴い認知機能も改善することが示されています.
添付図に示すように,一般に脳の構造は複数のネットワークの集合体として捉えることができ,
年を取ることでこのネットワークの繋がり(connectivity)が弱くなり,認知機能が低下してくるようですが,
運動をすることで,加齢によって弱くなったネットワーク内の繋がりが,あたかも若者のように再度強くなることが示されています.
加齢で減少した神経細胞そのものを増やすことは難しくても,
運動することで神経細胞同士のつながりを強くすることができるということで
脳というのはうまくできているなあと思いました.
参考URL:
Plasticity of Brain Networks in a Randomized Intervention Trial of Exercise Training in Older Adults
運動+αが認知症を予防する?
運動が認知症の予防にいいという話はよく聞きます.
しかしこの運動というのはあまりに漠然としていて果たして何をどれ位やれえばいいのかという所がはっきりしないのですが,果たして運動の種類や頻度というのは認知症の予防にどれ位影響するのでしょうか.
この論文は運動の種類と運動時間,認知症の予防効果について全米の高齢者を対象に詳しく調べたものです.
研究では全米の5280名を対象に運動の種類と頻度を聞き取り,認知機能の調査(MMSE)を行い.5年ないし10年の追跡調査を行っているのですが,
結論を述べると週に複数回20分以上の運動を行っていると認知症の予防効果がある他,
20分未満の運動であっても,2種類以上の運動(ウォーキングと庭仕事など)を行っていると,これまた認知症の予防効果があること
また庭仕事自体が認知症の予防にある程度有効であることが示されています.
これらの理由として認知症の予防というのは運動だけではなく認知的な活動も大事なようで
複数の運動を行うことで様々な人との交流が生まれ,それゆえそれが認知症の予防効果を押し上げるのではないかということが述べられています.
ヒトはカラダのみにて生きる生き物ではないのだろうなと思いました.
参考URL:
Exercise and cognition: Results from the National Long Term Care Survey
超高齢者の認知症対策に運動は効くか
認知機能の予防に運動が効くという話は最近良く聞きますが,この適応年齢というのは何歳くらいまでなのでしょうか.
はたして米寿に近いおじいさんおばあさんであっても認知症に対する運動効果はあるのでしょうか.またあるとしたら果たしてどれ位の運動量なのでしょうか.
この論文は超高齢者(平均年齢88.5歳)を対象に運動が認知機能低下にどれほど影響を与えるかについて調べたものです.
研究では
①アメリカオレゴン州に住む心身健康な66名の超高齢者を対象に日々の運動量(散歩,ジョギング,自転車こぎ,ガーデニング,ダンス,ゴルフ)を聞き取り
②その後の追跡調査で認知症になった人とそうでない人を比較し
③週に4時間以上運動する高齢者は認知機能の低下になるリスクが大幅に低下し,その傾向は女性において顕著である
ということが報告されています.
週に4時間というとざっくり言えば一日小1時間ということで畑をやったり庭いじりをしたりするおじいさんおばあさんというのは,知らず知らずのうちにそれ自体が認知症の予防にもなっているのかなと思いました.
参考URL:
Physical Activity and the Risk of Dementia in Oldest Old
家事はアルツハイマー病を防ぐか?
どうにもこうにもキャッチーなタイトルですが,家事が好きそうなおばあちゃんというのは,草をとったり床を磨いたりあちこち掃除をしたりで一日中チャキチャキ動いていそうな気がします.
こういったチャキチャキ動く生活というのはアルツハイマー病の予防に何かしら影響をあたえるのでしょうか.
この論文は,日常生活の身体活動とアルツハイマー病の発症の関係について探ったものです.
運動が認知症の予防に大事というのはよく言われることですが,運動をするしないといったことや,運動をどれくらいするというのは本人の主観的な評価(アンケート調査)によるものが主で
実際どれくらいカラダを動かしているかという定量的な評価を元にした研究はされていなかったようです.
この研究では
・被験者は716名の認知症を発症していない高齢者
・身体活動量は手首に巻いたリストバンドのような特殊機器で定量的に測定
・測定期間は24時間×10日
・平均追跡期間は4年でアルツハイマー病の発症するかどうかで評価
という方法で日常的な身体活動量とアルツハイマー病の発症の関係について探っています.
ちなみに日常的な身体運動量というのは高齢者を対象にしたこの研究では女性のほうが男性よりも高かったようですが
結論を述べるとやはり日常的な身体運動量が高いとアルツハイマー病になりにくく
最も身体活動量が高い人と最も低い人を比べた場合,発症率は約2倍違うということで
日常的にいろいろと体を動かすとは大事なのかなと思ったり
仕事をリタイアして毎日ゴロゴロというのも楽しそうな気もしますが,やはり脳にはあんまり良くないのかなと思ったりしました.
参考URL:
Total daily physical activity and the risk of AD and cognitive decline in older adults
血糖値が減ればそれでよいのか?
糖尿病というのはいろんな病気を引き起こすやっかいな病気なのですが,その一つに認知症というものがあります.
認知症と糖尿病の関係はだいぶ昔から言われてはいるのですが,果たして認知症を予防するためには血糖値を下げるだけで大丈夫なのでしょうか.
この論文は血糖値と認知機能の関係について調べたものです.
糖尿病について一つおさらいをすると,糖尿病というのは血糖値の調整が難しくなる病気です.
ごはんを食べると血液中の血糖値が上がり,それを感知した膵臓のランゲルハンス島から,血糖値を下げるホルモンであるインシュリンが分泌されます.
このインシュリンが分泌されることで血糖値が落ち着くのですが,ストレスや運動不足,暴飲暴食といった生活習慣でこのインシュリンの効きが悪くなり,結果インシュリンがドバドバ出続ける状態になり,血液中のインシュリン濃度が高い,高インシュリン血症というような状態が引き起こされます.
砂糖がたっぷりはいったドロっとしたコーヒーを思い出せば,なんとなくイメージが付くのですが,血糖たっぷりの血液というのは血管壁にあんまりよい影響を与えません.
それに加えて血糖を調整するインシュリンそれ自体も,これが濃すぎると血管を傷めることがあるようで
糖尿病による血管の痛み=高血糖+高インシュリン血症
ということがいえるそうです.
今日取り上げる論文は血糖値(HbA1c:過去2-3ヶ月の血糖値の指標になるもの)と6年間で認知機能の変化の関係性を追ったものですが
血糖値だけではこの認知機能の低下がはっきりと説明できず,この高インシュリン血症という状態も含めて考えなければいけないのではないかということが示唆されています.
一般に糖尿病の治療は高血糖と高インシュリン血症への対処の両方を考えなければいけないそうですが
高血糖には食事療法,
高インシュリン血症には運動療法が有効ということで
やはり認知機能の維持というところでは運動が大事なんだろうなと思いました.
参考URL:
Glycated haemoglobin and cognitive decline: the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) study
ダンスは認知症を予防できるか?
世の中には割りに早く老けこむ人とそうでない人がいると思うのですが,年をとっても割りに元気な人というのはどういった特徴があるのでしょうか.
全部が全部とはいえないのですが,職場にボランティアでくる元気なおじいさんおばあさんをみていると何かしら趣味を持っている人,なかでも舞踊やダンスに通じた人というのは年をとっても肌のハリもしっかりしていて心身ともに年齢を感じさせないひとが多いような気がします.
こういったことから踊りやダンスというのは何がしか心身に好ましい効果があるのかなと思うのですが,実際のところこれを検証した研究はあるのでしょうか.
この論文は高齢者に対するダンスエクササイズの効果について検討したものです.
研究ではAgilando™と呼ばれるダンスエクササイズを1回1時間を週に1回,6ヶ月行っているのですが,これを行った結果バランス能力や反応時間という身体機能のみならず,認知機能や幸福感も押し上げたことが示されています.
またこのような改善効果は心血管機能には有意な変化がなかったことからダンスに含まれる情動性,社会性,協調性などの様々な要素が影響して認知機能や幸福感の改善を押し上げたのではないかということが述べられています.
心血管系に強い負荷をかけずに認知機能,身体機能を改善できるのであれば高齢者の認知症予防にダンスというのは活用できるのかなと思いました.
参考URL:
アマチュアはプロに勝る:認知機能改善におけるアマチュアダンスの効用
アマチュアというのは一般的にプロに劣ると思われていますが,もしアマチュアにプロに勝る点があるとしたらそれは一体どういった要素でしょうか.
この論文は高齢者の運動機能を比較したものですが,この研究では社交ダンスの専門家(高齢者)とそうでない高齢者を比較しています.
一般にダンスというのは認知症予防効果が高く,高齢者がダンスの練習を行うことで,身体機能はもとより触覚,認知機能が改善されることが知られています.
こういったことから,この研究ではダンスの練習をすればするほど,さらに改善するのではないかという仮説のもと,プロフェッショナル級のダンス歴がある高齢者の身体機能,認知機能を調べてるのですが
以外なことにダンスと関連する運動機能は確かに良かったものの,そうでない触覚や認知機能については普通の高齢者と大きな違いがなかったことが示されています.
このようなことになった背景として,一般に脳は慣れない活動に対しては大きく反応するものの,慣れてくると,その反応も乏しくなることが知られており,
プロフェッショナル級のダンサーでは,ダンスが新奇な刺激とはならず,それゆえ認知機能への波及効果も乏しかったのではないかということが述べられています.
認知機能の維持という面では,何かが特別効果的というよりは,刺激量が多く,かつ新奇であることが重要で
一般人の多くの場合,それがダンスに当たるのかなあと思いました.
参考URL:
Balance, Sensorimotor, and Cognitive Performance in Long-Year Expert Senior Ballroom Dancers
認知症の予防:食事の効果
地中海食はなぜ脳に良いのか
最近良く聞くものに地中海食というものがあります.
これは地中海沿岸の人々が比較的高齢になっても健康なことから調査が始まったようですが,トマトや赤ワイン,ナッツに果物,魚介類という食生活スタイルが体に良いのではないかという話のようです.
この地中海食というのは認知症予防にも効果があるようですが,はたしてこれはどういったメカニズムで認知症の予防につながっているのでしょうか.
この論文は地中海食とアルツハイマー病発症リスクの関係について調べたものです.
研究では65歳以上の認知症ではない男女約1200人を4年間追いかけて調査しているのですが,やはり地中海食を取っているとアルツハイマー病になりにくいこと
しかしながら同時にデータを取った炎症や代謝の指標とは関連を示さなかったことから,それ以外の要素を仲介して地中海食はアルツハイマー病を防いでいるのではないかということが述べられています.
今回の研究では測定できなかったものの,著者らは地中海食が持つ抗酸化作用がアルツハイマー病の発症を防いでいるのではないかということを述べており
日々食べるものが大事なんだろうなと思いました.
参考URL:
Mediterranean Diet, Inflammatory and Metabolic Biomarkers, and Risk of Alzheimer’s Disease
なぜ地中海食は脳に良いのか?
最近よく聞く言葉に地中海食と言うものがありますが,これは果たしてどのような食事なのでしょうか.
これは地中海沿岸の人たちの食生活のスタイルによるもので,
毎日,たくさんの野菜や果物,ナッツにハーブ,豆類,穀類,オリーブオイルを摂り,
週に2回以上で魚介類をしっかり食べ
週に1,2回は鶏肉や卵やヨーグルトを食べ,
それよりも少ない頻度で豚肉,牛肉,スイーツを食べるというものだそうですが
こういった食事は様々な疾患を予防し,とりわけ認知症の予防効果が高いことがいろいろと報告されています.
しかしながら地中海食の何が脳に良い影響を与えているのでしょうか.
この論文は,地中海食が認知機能の変化に与える影響について,様々な研究を元に総合的に調べたものになります.
結論を述べると,地中海食は脳血管型認知症やアルツハイマー型認知症の発症リスクを下げること,
またその原因として地中海食で頻繁に摂取する野菜や果物,オリーブオイルやワインにはビタミンCやビタミンEをはじめとする抗酸化物質が多量に含まれており,これが血管の老化を防ぎ,脳血管型認知症の予防につながっているのではないか,
また機序までは説明されていませんでしたが,地中海食の摂取によって脳の神経細胞を保護するBDNF(脳由来神経栄養因子)が増え,アルツハイマー病の予防につながるのではないかということが述べられています.
食べるもので大分身体も違ってくるのかなと思いました.
参考URL:
Mediterranean diet, cognitive function, and dementia: a systematic review.
老人の飲酒は是か非か?
酒は百薬の長とは言いますが,実際70,80のおじいちゃんから臨床場面で「まだちょこちょこ飲んでるんだよね」と言われると正直答えに窮することがあります.
この微妙な立ち位置にある老人の飲酒というのは統計学上はたして是とされるのでしょうか,それとも非とされるのでしょうか.
この論文は,認知症発症リスクと飲酒の関係について調べたものです.
結論を述べると軽度もしくは適量の飲酒では認知症の発生率を約3割ないし4割下げうること(ただし一般に適量は日本酒1合,ビール500缶一本相当のアルコールです!)
また人生後期,歳をとってからの飲酒はこの認知症予防効果が高いことが報告されています.
万人に言えることとは思いませんが
適度なところで満足できる晩酌力があれば(私にはありません)
多少ガソリンを入れたほうが脳にはよいのかなと思いました.
参考URL:
脳と魚と油のいろいろ
認知症の予防には魚が良いという話を聞きますが,これは果たしてどのような理由によるものなのでしょうか.
この論文は魚の摂取とオメガ3脂肪酸,認知症の予防効果について調べたものです.
研究ではアメリカはイリノイ州シカゴに住む65歳から94歳までの合計815人の住民を対象に食事のアンケート調査とアルツハイマー病の発症について追跡調査を行っています.
結果を述べると最低週1回以上魚を食べるとアルツハイマー病の発症率が60%低下すること,
一般的に体に良い油脂成分として広告などでも見かけるオメガ3不飽和脂肪酸があるのですが,
このオメガ3不飽和脂肪酸というのは,体に良いものとしては
・ドコサヘキサエン酸(DHA)
・エイコサペンタエン酸(EPA)
・α-リノレン酸
の3つがあり
この内,DHAだけが脳の中に取り込まれやすいこともあり,DHAをよく含む魚類の摂取が,アルツハイマー病の発症予防に良い影響を与えているのではないかということが述べられています.
油といってもいろいろあるのだなあと思いました.
参考URL:
Consumption of fish and n-3 fatty acids and risk of incident Alzheimer disease.
青魚は本当に脳に良いのか?
スーパーの魚売り場に行くたびに
「さかなさかなさかなー,さかなーをたべーるとー,あたまあたまあたまー,あたま―がよくーなるー」
と,あんまり頭がよくなさそうな歌を連呼されると,ついつい魚は頭に効くのかなと思ってしまうのですが,果たして魚が認知症の発症リスクに与える影響というのはどれくらいなのでしょうか.
この論文は生のニシンをまるごと食べる文化があるオランダ国民を対象にした魚と認知症の関係について調べたものです.
青魚に含まれる成分の中でもオメガ3不飽和脂肪酸と呼ばれる成分はとりわけ認知症の発症リスクを低下させるのではないかと言われているそうですが
この研究ではロッテルダム近郊に住む55歳以上の5395名を対象に魚の摂取量とオメガ3不飽和脂肪酸の摂取量,認知症の発症リスクの関連について平均約10年の追跡期間で調べているのですが
結論から述べると魚やオメガ3不飽和脂肪酸は統計上認知症予防効果がないことが示されています.
しかしながらこれをオメガ3不飽和脂肪酸を十分にとった場合,そうでない場合と比較して約24%,比較的若い時期のアルツハイマー病発症リスクを低めるということはあるようです(統計上の有意差はなし)
24%もリスクを減らせるのなら効くといっていいじゃないかとも思うのですが,科学のやり方というのは正直かつ厳正なのだなあと思いました.
参考URL:
Dietary intake of fish and omega-3 fatty acids in relation to long-term dementia risk1,2,3
青魚はアルツハイマー病遺伝子を持っているヒトだけに効く?
認知症の予防には青魚がよいと聞きますが,これはいったいなぜでしょうか.
青魚の脂にはEPAやDHAと呼ばれる成分が多量に含まれており,これが認知機能の維持に良い影響を与えているとのことですが,はたしてこれは誰にでも効果があるものなのでしょうか.
この論文は,EPAやDHAがアルツハイマー病の遺伝的因子を持っている人といない人で,認知機の変化に与える影響がどの程度違うかについて調べたものです.
研究ではフランスに住む65歳以上の高齢者1238名を対象に血漿中のEPAとDHAのレベルと認知機能の変化について調査しています.
調査ではアルツハイマー病の主要な危険遺伝因子であるε4対立遺伝子(ApoE-ε4)の持っているかどうかで調べているのですが
結果を述べると,添付図のグラフにあるようにアルツハイマー病に関連する遺伝因子を持っていない群はDHAの血漿中のレベルと認知機能の低下には関係が見られなかったのですが,
アルツハイマー病に関連する遺伝因子を持っている群では,DHAの血漿レベルが高いほど認知機能の低下を防げることが示されています.
もし家系にアルツハイマー病患者がいるのであれば,食事には気をつけてもいいのかなと思いました.
参考URL:
ω-3 fatty acids and cognitive decline: modulation by ApoEε4 allele and depression.
運動療法+ハーブで認知症が予防できる?
認知症の予防方法はいろいろと提案されていますが,実際にデータを取ってみると必ずしも効果が確認できるとは限りません.
栄養や食事,生活スタイルなどいろいろなものがありますが,どういった組み合わせで効果的に認知症の予防を行うことができるのでしょうか.
この論文は,ハーブと運動療法の組み合わせで認知症の予防ができる可能性があることを示した論文になります.
この研究ではイランに住む軽度認知障害(MCI)を有する高齢者40人を対象に
・セイヨウカンゾウ抽出物の摂取
・有酸素運動
・有酸素運動+セイヨウカンゾウ抽出物
・プラセボ(偽薬)
の4条件で12週間介入を行い,その前後で体内の炎症関連物質(IL-1βおよびTNF-α)と認知機能の変化(MMSE:Mini-Mental State Examination)を調べています.
結果を述べると,運動もしくはセイヨウカンゾウ抽出物の摂取で炎症関連物質の値が低下し,認知機能にも改善が見られたのですが,こういった傾向は有酸素運動とセイヨウカンゾウ抽出物の摂取を併せて行うことで,よりはっきりと効果が出たことが示されています.
こういったことから有酸素運動とセイヨウカンゾウ抽出物を併せることで体内の炎症症状を緩和し,その結果認知機能にも良い影響を及ぼしたのではないかということが述べられています.
なにか身体に働きかけようとするときには,相乗作用というものを考えることが大事なのかなと思いました.
参考URL:
認知症の予防:生活習慣からのアプローチ
最重要課題としてのセルフケア:その予防効果と治療効果
私の妻の祖父は96歳まで一人暮らしを続け,買い物も料理も畑仕事もなにもかも一人でやってきた人なのですが,
仕事を通じていろんな老人を見ていると,できるだけ自分のことは自分でやろうと頑張っているような人というのは比較的長生きで元気に生活しているような気がするのですが,これは果たして普遍的な現象なのでしょうか.
この論文は,先日発表されたセルフケアの重要性について説いた米国心臓協会(American Heart Association)の科学的声明になります.
この声明で取り上げられているセルフケアというのは,いわゆるADL(お風呂に入ったりご飯を食べたりという日常生活動作)よりも,もっと幅広い概念で
これは健康を保つために,食事に気を配ったり,体重管理をしたり,定期的に医者にかかったり,運動をしたりというもので,
いわば自分で自分の面倒を見る(一般的な日常生活動作や電話をしたり,買い物をしたりという手段的日常生活動作も含めて)という概念がセルフケアにあたるものになります.
この論文では,高齢者がセルフケアできるように介入することで,認知症や心疾患,脳卒中の予防や治療に大きな効果がもたらされることを示した様々な研究について紹介しています.
セルフケアを促す介入方法は,個人レベルのもの(食事や運動),家族レベルのもの(定期的に医者に通わせる,症状を観察する),コミュニティレベルのもの(様々なサービスへのアクセシビリティ)があるそうですが,そのそれぞれで効果が確認されており,
持てる力を最大限活用することで健康寿命というのは伸ばせるのかなと思いました.
参考URL:
Self‐Care for the Prevention and Management of Cardiovascular Disease and Stroke
認知症施設入所者の若いころ
ことばというのは何かを強制的に括ってしまう力があり
それゆえ老年期になってものの覚えが悪くなった人を人格も何も捨象して「認知症」という一言でくくるのにはどうしても抵抗があるのですが
それにしても認知症というのは何がどういうわけでそうなってしまうのでしょうか.
この論文は認知症と心臓病のリスク要因との関係について調べたものです.
心臓病のリスク要因としては高血圧や飲酒,運動不足などいろいろなものがあるのですが
この研究によると認知症が原因で入所した人たちは主に
①喫煙
②高血圧
③糖尿病
という心臓病に関連するリスク要因を抱えていたこと
さらに中年期にこういった状態であることが強く関連していることが報告されています.
つまり中年期に喫煙をして血圧が高く糖尿を抱えた人というのは認知症になるリスクが高いということで
中年期の健康管理が高齢になってからの対策よりも大事なのかなと思いました.
参考URL:
高齢者は認知症リスク要因をいくつ抱えているのか?
認知症というのは,その代表的なものにアルツハイマー型認知症と脳血管型認知症の二つがあるのですが
この両者ともに血管の老化が発症の主要因子となっていることが近年の研究から明らかになっています.
それゆえ血管の健康を保つようなアプローチがそのまま認知症の予防にもつながると考えられているのですが,
一般に高齢者は血管病変リスクをどの程度抱えているのでしょうか.
この論文は,高齢者に対する血管病変予防アプローチが認知症発症の低下にどの程度影響を与えるかについて調べたものになります.
この研究はまだ始まったばかりであり,この論文では対象となる高齢者(70-78歳)が,どの程度血管病変リスクを抱えているかについて報告しているのですが,
血管病変リスクを
1 高血圧
2 BMI>30
3 高脂血症
4 現在喫煙している
5 運動不足
というように見ると
1004人の被験者の中でも87%が最低一つの血管病変リスクを抱えており,その最大のものが高血圧であることが示されています.
この研究では,地域の看護師が主体となって,対象になる高齢者にこれらの血管病変リスクを減らすよう集中的に関わることで,認知症の発症リスクどう変わるかを6年間追いかけるそうです.
自分だけでの健康管理というのはなかなか難しいと思うのですが,地域の知った顔の看護師が関わることで,より効果的に健康管理ができるのかなと思ったり,
いわゆる地域リハビリテーションの様な関わりが,認知症の予防に有効になるのかなと思いました.
参考URL:
Prevention of dementia by intensive vascular care (PreDIVA): a cluster-randomized trial in progress.
認知症の予防:その他
結局のところ,認知症には何が良くて何が悪いのか
何が認知症の発症を防ぎ,何が認知症の発症を促進するのかというのは数多くの研究がなされていますが,統一された見解もあれば,そうでない見解もあったりしてはっきりしないところがあります.
果たして今現在最も信憑性が高いのは,どのようなものになるのでしょうか.
この論文は認知症の予防や発症促進に関わる研究を総まとめにして,どの要素が信憑性があるかについて詳しく調べたものです.
研究では1984年から2008年までになされた信頼性の高い研究を対象に分析しているのですが,
認知症の発症を増加させる因子として
・ApoE4(アルツハイマー病発症関連遺伝子)
・血漿中の低セレン濃度
・うつ病
・糖尿病
・メタボリック症候群
・喫煙習慣
予防する因子としては
・認知訓練
・野菜摂取
・地中海食
・オメガ3不飽和脂肪酸
・身体運動
・レジャー活動
があげられています.
年をとってもよく働きよく食べよく遊ぶのが良いのかなと思いました.
参考URL:
アルツハイマー病はどこまで予防できるか?
アルツハイマー病というのは脳の病気でパーキンソン病のように脳の神経細胞が変性していくことで,認知機能を始めとして様々な機能が障害されるものですが,
このアルツハイマー病の発症には様々な要因が観覧でいると言われています.このアルツハイマー病の予防,治療というのは現在どの程度まで可能なものなのでしょうか.
この論文は,アルツハイマー病の予防と治療についての最新の治験についてまとめられたレビュー論文になります.
この論文の構成として
1 アルツハイマー病の予防方法に関する知見
2 アルツハイマー病の官民一体型の予防的介入に関する効果の知見
3 アルツハイマー病に対する薬物療法による介入
の3つから構成されており
1の予防的方法については,大きくは心血管の健康を保つ方法(糖尿病,高血圧,肥満の予防・改善)および生活習慣(喫煙,運動習慣,精神的および社会的活動)が重要であることがエビデンスとして確立されていること
また2では,この予防方法を実際にやってもらうための高齢者を対象にした数千人規模の官民一体型の予防的介入の効果について述べられているのですが,数千人規模の4つの介入の内,実際に運動を促すものが効果を挙られたこと(運動を促すだけのものは十分な効果が得られなかったこと)
また3ではアルツハイマー病の発症機序に基づいた薬物療法が有効かどうかについて検証している現在進行中の治験についての紹介がなされています.
予防方法はいろいろあるのですが,やはり大事なのは知識として知っているだけでなく,実際にやっているということであり,そこまで踏み込む介入方法で初めて効果が出るのかなと思いました.
参考URL:
Alzheimer’s disease prevention: from risk factors to early intervention
認知症予防はいつから始めるべきか
認知症というのは生活習慣病といった一面もあり,それゆえ生活全般の管理が認知症予防で大事になってくるのですが,これに最適な年齢というものはあるのでしょうか.
どのような取り組みが認知症に効果的かを調べた研究は数多くあるのですが,今日取り上げる論文は,ヨーロッパで行われている大規模研究を例に取り,認知症予防研究においては,被験者数や介入期間,介入時期,追跡期間がどれ位が妥当であるかについて論じたものです.
添付図を見てもらえれば分かりやすいのですが(縦軸が介入効果,横軸が介入年齢),従来の研究の多くは60-70歳台を対象にしたものが多いのですが,
費用対効果で見ればもっとも効果が出やすいのは60歳台未満の年代であること,
こういったことから被験者の数や介入時期,評価方法などに工夫が必要であることなどが述べられています.
添付図は模式的なものとはいえ非常に分かりやすく
やはり認知症予防は早めのほうが色んな意味で安くあがるのかなと思いました.
参考URL:
学歴はアルツハイマー病を予防するか
普段仕事でおじいさんおばあさんを見ていると
全員が全員というわけではないのですが女学校出のおばあさんというのは割合歳をとってもしっかりしているなあという印象があります.
認知症に影響を及ぼす要因は様々だとは思うのですが,果たして学歴というのは認知症の発症に何らかの影響をおよぼすのでしょうか.
この論文はアルツハイマー病の予防効果について過去に行われた研究を元に詳しく調べたものです.
アルツハイマー病の発症に影響する後天的要因としては7つ挙られており(尿病,中年期の高血圧,中年期の肥満,喫煙,抑鬱,不十分な認知的活動または低学歴,不十分な身体的活動)
この内喫煙と低学歴が際立って大きく影響することが述べられています.
以下はあくまで試算なのですが
もし喫煙者が10-25%減るのならアメリカ合衆国では5万人から13万人アルツハイマー病の発症を予防できることができ
もし低学歴者を25%減らすことができるのなら9万人のアルツハイマー病を予防できるということで
もし効果的に予算を使うのであれば禁煙の促しと教育補助にお金をかけるのが良いのではないかということが述べられています.
学歴がアルツハイマー病の発症の予防に影響するのは若い頃に脳をしっかり使うことで脳内の神経配線が頑強になり,脳が多少萎縮しても症状が出にくいという話を聞いたことがありますが
この辺が女学校でのおばあさんが割としっかりしているのにもどこかしら関係しているのかなあと思いました.
参考URL:
The Projected Impact of Risk Factor Reduction on Alzheimer’s Disease Prevalence
認知症の治療に関するトピック
なぜ音楽は認知症の症状改善に有効なのか?
音楽療法というのは随分と歴史が長く,文献上,古くは古代ギリシアまで遡れるそうですが
音楽が認知症患者に何らかの効果があるというのは,おそらく経験的に知られていて様々な施設で音楽を通しての関わりが行われていると思います.
しかしながら,この音楽というのは本当に認知症患者に何かしらの効果があるのでしょうか?
またあるとしたら,なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
この論文は,音楽による関わりが認知症患者にどのような影響を与えるかについて調べたものです.
この研究ではイタリアに住む認知症患者59名を対象に行なったもので
片方の認知症患者のグループ(30名)には,週2回,16週間音楽療法を行い,
もう片方の認知症患者のグループ(29名)には,同じ期間教育支援やレクリエーション(entertainment activities)を行い,
認知症患者の記憶力や問題行動がどのように変化するかについて調べています.
また音楽療法では,リズムやメロディで治療者と同調し(affect attunement),コミュニケーションを促すような方法で行われています.
また治療効果の判定として,NPIと呼ばれる介護者による精神症状を評価するための方法を用いて,妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、多幸、無感情、脱抑制、易刺激性、異常行動の10項目について評価しています.
結果を述べると添付図を見てもらえば分かるように,治療開始後8週後から明らかな効果が見られ,
特に認知症の周辺症状(BPSD)である妄想、興奮、不安、無感情、易刺激性、異常行動に有意な改善が見られたこと,
またその効果が治療終了後4週後も維持されたこと,
しかしながら記憶機能の改善には音楽療法の効果が見られなかったことが示されています.
音楽療法により,認知症の周辺症状が軽減する理由として,
認知症患者は外部の刺激に過敏に反応する傾向があるのですが,
音楽療法により,精神的に安定し,外部刺激による反応の閾値(threshold)が上昇したことが関係しているのではないかということが述べられています.
たとえ認知症になったとしても,非言語的コミュニケーションというチャンネルは残っており,ここを通じた介入方法(intervention)というのは有効なのかなと思いました.
参考URL:
Efficacy of music therapy in the treatment of behavioral and psychiatric symptoms of dementia.
なぜ入院治療で認知症が増悪するのか
病院で患者さんを見ていてよく当たるものに,入院することで認知症が一時的もしくは慢性的に進行するというものがあります.
これは入院中の不穏という言葉で片付けられてしまうことが多いのですが,なぜ人は入院加療によって認知面に変調をきたしてしまうのでしょうか.
この論文は隔離された環境が脳内ホルモンに及ぼす影響について調べたものです.
実験ではオスのラットを8週間隔離して,脳の認知機能の維持向上と密接な関係があるBDNF(脳由来神経栄養因子)の濃度について調べているのですが,
やはり長期に渡り隔離することで海馬を中心にこのBDNFの濃度が低下することが示されています.
また別の研究では隔離だけでなく,短期間の不動によってもBDNFが低下することが報告されており
骨折での高齢入院患者においては隔離環境+不動環境で脳内のBDNFが低下し,急性の認知機能の低下,不穏を引き起こすこともあるのかなあと思いました.
参考URL:
認知症の予防と治療:まとめ
認知症の予防方法としては、大きくは食事と運動、ストレス管理が大事で、
これはつきつめて考えれば、血管の老化をいかにして防ぐのかということになるかと思います。
また認知症が発症するには若い頃からの生活が大事であり、特に中年期の生き方が老年期の脳機能に反映されやすいとのことから
やはり大事にすべきは中年期の生活管理かなと思います。
先のことを心配してばかりの人生も味気ないのですが、
そこそこは身体を大事にしたほうが、明日の生活、来週の生活も楽になるでしょう。
幸せになるには楽しいことを増やす方略と苦しいことを減らす方略がありますが、
貯金のつもりでほんの少し今日の楽しさを減らして、未来の苦しさを引き下げるのも悪くないかと思います。
一つしかない取替のきかない体です。
大事に大事に使いましょう。
認知症の発症機序に関する論文はこちらにまとめてあります。
是非どうぞ。
疲労もまた認知症の遠因になりますが、疲労についての生理学的研究は以下のものをご参考ください。