社会認知神経科学:その中核的プロセス 1
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

はじめに

私達人間は社会で生きる生き物です。社会で生きるためには心を感じたり理解したりする能力が大事になってきます。仕事であれば取引先や上司の顔色をうかがう必要がありますし、怒りを堪えることも、自分の心を感じ取ることも大事なってきます。こういった心の働きは心理学分野で調べられているのですが、社会認知神経科学とは、その仕組を脳の働きとして調べるものになります。今回の記事では、自分や他人の心を感じたり理解したりするための脳の仕組みを考えてみます。

XシステムとCシステム

普段の生活の中でも私達は直感的に判断することもあれば、しっかり考えて判断することがあります。一目惚れで恋に落ちるようなものは直感的な判断ですし、お見合いで結婚を判断するようなときには、熟慮に熟慮を重ねて判断することもあります。脳の中にはこの2つの判断に関わる仕組みがあり、ある研究者はこれらをXシステムとCシステムと名付けました。いまいち人間味がないネーミングだと思うのですが、以下にその特徴と関連領域を紹介します。ちなみに臨床研究では、Cシステムが病気や怪我で損傷することで、熟慮が必要な判断ができなくなることが分かっています。

 

他者を理解する脳

心の理論

社会で生きていくためには相手の心が分かる必要がありますが、この分かり方には2つあります。一つは心の理論と呼ばれるもので、相手の心をシャーロック・ホームズのようにクールに読み解くものになります。この心の理論に関わる脳領域としては外側側頭皮質(LTC)と呼ばれる領域と背内側前頭前野(DMPFC)と呼ばれる領域があります(部位については上図を参照)。外側頭頂皮質はパッと見た時の視覚情報を取り込む働きがあり、背内側前頭前野はその情報を元に相手の心を類推する働きがあります。うつむき加減の友人を見て(外側頭頂皮質)、その理由を考える(背内側前頭前野)のように、相手の心を理解する仕組みがあります。

共感

また私達は深く考えることなく、相手の気持を感じることができます。他人が苦しそうにしていると、あたかも自分も苦しいかのような気持ちになることがありますし、相手が喜んでいると自分も喜ぶような気持ちになることもあります。こういった共感には脳の中でも前部島皮質と背側前帯状皮質(dACC)が関係していると考えられています。この島皮質は上図には示されていませんが、脳の内側に入り込むように存在し、様々な主観的感覚(うまい、寂しい、嬉しい、痛い、など)に関わる領域になります。自分が大事な人が苦しんでいるのを見ると理由もなしにつらくなりますが、これは相手の気持ちが自分の主観的感覚として立ち上げられるからと考えられています(Mutschler et al., 2013)。

自分を理解する脳

自己認識

当たり前ですが、私達は自分で自分のことを認識できます。自分の写真を見れば自分だと思いますし、自分の持ち物を見ても自分のことを思い出します。しかしこの能力は決して当たり前のものではなく、赤ちゃんであれば鏡を見ても自分だと認識することができませんし、動物であっても比較的高度な知能がないと自己認識するのが難しいと言われています。前頭葉の一部である外側前頭皮質(LPFC)は、この自己認識処理に関わっています。

主体感

また私達は自分は自分だという感覚も持っています。自分の手を見れば自分の手だと思いますし、自分の手を上げれば自分で動かしているという感覚が生じます。しかし脳卒中になると自分の体を自分のものとして認識できなくなることもありますし、統合失調症では自分の体が他人に動かされているような感覚が生じることもあります。脳の中でこの主体感に関わっているのは、頭頂葉の一部である外側頭頂皮質(LPAC)であるとされています。

自己反省

反省というと、なんだか悪いことを反省しているような意味合いがありますが、心理学的には自分のことを振り返って感じることとされています。映画を見てどう感じたかを考えることも自己反省になりますし、自分の性格について思いを馳せることも自己反省になります。こういった自己反省には内側前頭前野(MPFC:ブロードマン10野)が関わっていることが分かっています。またこの内側前頭前野が損傷されると、自分の失敗を恥ずかしいと感じられなくなることが報告されています。

 

まとめ

さて、このように自分の心や他人の心を理解する脳の仕組みはいろいろとあるようです。また心の理解にあたっても直感的な判断に関わる脳領域や熟慮的な判断に関わる脳領域もあります。次回の記事では自分自身をコントロールする時の脳の仕組みや、他人と関わりを持つ時の脳の仕組みについて整理したいと思います。よろしくお願いいたします。

 

【参考文献】

Beer, J. S., Heerey, E. A., Keltner, D., Scabini, D., & Knight, R. T. (2003). The regulatory function of self-conscious emotion: insights from patients with orbitofrontal damage. Journal of personality and social psychology85(4), 594. https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/0022-3514.85.4.594

Lieberman M. D. (2007). Social cognitive neuroscience: a review of core processes. Annual review of psychology, 58, 259–289. https://doi.org/10.1146/annurev.psych.58.110405.085654

Mutschler, I., Reinbold, C., Wankerl, J., Seifritz, E., & Ball, T. (2013). Structural basis of empathy and the domain general region in the anterior insular cortex. Frontiers in human neuroscience7, 177. https://doi.org/10.3389/fnhum.2013.00177

最新の学術情報をあなたへ!

脳科学コンサルティング・文献調査・レポート作成・研究相談を行います。マーケティング、製品開発、研究支援の経験豊富。納得のいくまでご相談に応じます。ご相談はこちらからどうぞ!

 

脳科学専門コンサルティング オフィスワンダリングマインド

脳科学コンサルティング・リサーチはこちら!

脳科学を中心に、ライフサイエンス全般についてのコンサルティング・リサーチ業務を行っております。信頼性の高い学術論文を厳選し、分かりやすいレポートを作成、対面でのご説明も致します。ご希望の方にはサンプル資料もお渡ししますので、お問い合わせからご連絡くださいませ!