左半側空間無視患者が持つ右方向への問題?
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問題は左側だけなのか?

半側空間無視では左側を認識しづらくなるという症状が見られますが、そもそもこれはなぜなのでしょうか?

なぜこのような症状が起こるかについては注意機能の問題が関係するというものやワーキングメモリの問題だというものもありますが、

今日取り上げる論文は、左半側空間無視には右方向へのサッケード(急速眼球運動)の運動記憶の問題が関係する可能性を示したものです。

普段私達が何かを見たり探したりするときの視線の動きというのはサッケードと視線の固定が繰り返し繰り返し起こっています。

視線はある場所からある場所へ飛ぶように移動し、目当ての場所へサッととどまり、また再度その場所から他の場所へサッと飛んでいきます。

この研究では右頭頂葉に限局した損傷を持ち左半側空間無視を示す患者(68歳男性)を対象に様々な視覚探索課題を行わせ、その時の視線の動きについて詳しく調べています。

まず最初に行ったのは数ある資格刺激の中からTだけを探し出す課題なのですが、左半側空間無視患者らしく視線は過度に右側へ偏っています。

しかしながら視線の固定点を見てみると、興味深いことに視線の再固定の場所を見ると一度探索した場所に何度も視線を再固定させていることが分かります。

次に標的刺激であるTの数を変えるとどの様になるか調べているのですが、画面中の標的刺激の数が増えるほど、一度見た標的刺激Tを何度も繰り返し選択する確率が増えており

(縦軸は平均の再クリック率、横軸は標的刺激の数)

この再クリック率(一度見たはずの刺激を再度選んでしまう確率)が増えるほど、左方向のTの見落とし率も増える(半側空間無視の程度も増す)ことが示されています。

トランプ遊びで神経衰弱というものがありますが、あれと同じようにカードの数(標的の数)が増えるほどに何度も同じカードをめくりやすくなる(同じ標的を選びやすくなる)、それゆえどこに視線を動かしたかという記憶機能に問題があるのではないかという仮説が立てられ、

これを検証するために標的刺激をTではなく、具象的なイラストに変えて行ったところ、再クリック率が低下しており、

上記図表参考URL:

やはり運動性の記憶が右方向への繰り返しの探索につながっているのではないか、

この右方向への繰り返しの探索があるからこそ、

線分抹消課題が時間の制限の有無にかかわらず成績が変わらなかったり(時間が無制限であれば最終的に左側を探索するはずだが、右側ばかりへ固着してしまう)するのではないか、

この頭頂葉性の右方向への視線運動記憶の問題が左半側空間無視症状を重症化させるのではないかということが述べられています。

本当に複雑な病態なのだなと思いました。

参考URL:Impaired spatial working memory across saccades contributes to abnormal search in parietal neglect.

【要旨】

ヒトにおける右頭頂葉の損傷後に現れる左空間への視覚的無視は片側への注意の方よりを示しており、これは探索課題で明らかに示される。我々は頭頂葉性の無視は視覚探索を行う中ですでに探索された場所を思い出すことが困難となった状態であるという仮説を立てた。新たなパラダイムを用いて、我々は被験者が視覚探索課題を行っているときの視線について調査し、その視線が新たに標的を見つけたのか、あるいは依然見つけたことのある標的に再度視線を向けているのかについて厳密に調査した。右頭頂葉に限局された損傷を有し、左半側無視を有する被験者は繰り返し右の場所への視線の再固定が見られた。重要なことに、この被験者はそれらの場所をすでに探索したことを覚えておらず、異常に高い確率で古い標的刺激を新たなものとして認識していた。これとは対照的に年齢を調整した健常被験者は以前の標的への視線の再固定を行うことは稀であり、一度発見した標的を新たなものと認識することも殆どなかった。この半側空間無視患者が間違う頻度というのは、異なるコンディションで課題を行ったときも無視の重症度と相関を示していた。健常対照群は非探索課題においても知覚的な障害を示さなかった。これらの結果から頭頂葉性無視においては、片側性の空間の偏りに加え、一度探索した場所を覚えておくことの困難さがあることが示された。さらに探索した場所を覚えることの困難さは、片側性の空間の偏りという障害を強化しており、彼らは一度探索した右方向の場所を一度探した場所として認識できないため、繰り返し右方向を見てしまうことが考えられた。この2つの障害の組み合わせ(片側への視覚の偏りと一度探索した場所を覚えておくことの困難さ)は頭頂葉性無視を特徴づける探索における病的なパターンを説明しうるかもしれない(なぜ右側の視覚刺激があたかも始めて見たかのように繰り返し探索されるのか、またなぜ左側の視覚刺激が時間の制限がない設定においても無視されてしまうのか)。以上の提案は近年の電気生理学的データおよび機能的画像データから示される、後部頭頂葉はサッケード行っているときの標的の場所を覚えておくことに関わっているものと合致するものである。

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