目次
はじめに
人間、世の中を渡っていくにはコミュニケーション能力が物を言います。しかし、このコミュニケーション能力というのは一体どのようなものなのでしょうか。今回の記事では、このコミュニケーション能力のエビデンスについて深堀りしていきたいと思います。
コミュニケーション能力の評価法
コミュニケーション能力を測る尺度にはいろいろなものがありますが、アメリカの心理学者、ルビンとマーティン等によって開発されたものに対人コミュニケーション能力尺度(ICCS; Interpersonal Communication Competence Scale )があります。
これはコミュニケーション能力を様々な切り口から測定するもので、具体的には以下の10の能力で測るものになります(Rubin & Martin, 1994)。
- 自己開示 : 自分の考えや感情を他者に開示する能力。
- 共感性 : 他者の感情や視点を理解し、共感する能力。
- 社会的リラックス : 社会的状況での不安や緊張を感じずに、リラックスして振る舞う能力。
- 主張性 : 自分の権利を他者の権利を侵害せずに主張する能力。
- 相互作用管理: 会話の流れをスムーズに管理し、交渉や会話の開始・終了を効果的に行う能力。
- 他者中心性 : 他者に関心を持ち、その言葉や非言語的な手がかりに注意を払う能力。
- 表現力: 感情や考えを言葉や非言語的手段で明確に表現する能力。
- 支持性 : 他者を肯定し、平等な立場でコミュニケーションを行う能力。
- 近接性 : 他者が接しやすいと感じるような態度や行動を示す能力。
- 環境制御 : 目標達成や問題解決のために環境を効果的にコントロールする能力。
今回、参考までに10項目版のものを以下にご紹介します。各設問に対して、「ほとんど全く違う(1点)」から「ほとんどまったくその通りだ(5点)」の5段階で自己回答するものになります。逆転項目については、点数を逆にして採点します(5点→1点、4点→2点など)。
・私は友人に本当の自分を見せている。
・私は他人の立場に立って考えることができる。
・私は社交的な場面で快適に過ごせる。
・不当な扱いを受けたとき、その人に直接抗議する。
・私の会話は一方的だ。(逆転項目)
・私の会話は、スムーズに話題が移行する。
・友人は私が幸せか悲しいかを見分けられる。
・私は他者を対等な立場で扱って会話する。
・友人は私が彼らのことを気にかけていると本当に信じている。
・私はコミュニケーションの目標を達成している。
さて、あなたは一体何点だったでしょうか。
医療関連職を対象にしたある研究では平均点が36.8点、標準偏差が3.3点と報告されており、これは7割の人達が34点から40点の間に入っている計算になります(Sexton, 2014 )。私自身の点数は28点で地味にショックを受けました・・・。
コミュニケーション能力と性格傾向の関係
コミュニケーション能力については、性格傾向(ビッグファイブ)との関連も調査されています。
ビッグファイブとは人間の性格傾向を5つの要素で示すもので、これは、外向性、協調性、誠実性、(新たな経験への)開放性、神経症傾向になります。
大学生を対象にしたある研究では、これらの要素のうち、協調性がとりわけコミュニケーション能力の高さと関連し、ついで外向性と開放性が関連していたことが報告されています。
また共感性とコミュニケーション能力との関連を調査した研究があります。この研究ではカーリング選手を対象に行なっていますが、共感性が高い選手ほどコミュニケーション能力も高く、その結果、競技パフォーマンスも向上することが報告されています(Bedir et al., 2023)。
コミュニケーション能力と遺伝の関係
コミュニケーション能力には遺伝的な要因も関係します。
ある研究では双子を対象に調査を行い、コミュニケーションの様々な要素について、どれが遺伝的影響が強いかについて調査しました。
コミュニケーション能力の評価で使用したのは、コミュニケーション適応性尺度(CAS; Communicative Adaptability Scale )。これは、コミュニケーション能力の5つの要素を評価するものです。
・社会的な落ち着き:どれだけ落ち着いてコミュニケーションを取れるかの能力
・機転:状況に合わせて場を和ますことを言える能力
・明確な表現:自分の伝えたいことを言葉足らずにならずに表現できる能力
・社会的確認:コミュニケーション状況を確認しながら話を進められる能力
・適切な自己開示:TPOに応じて自分のことを適切に開示できる能力
結果としては、以下の遺伝率が示されました(Beatty et al., 2001)。
・社会的な落ち着き:88%
・機転:90%
・明確な表現:0%
・社会的確認:36%
・適切な自己開示: 0%
この結果からは、コミュニケーション場面における緊張のしやすさや機転のきかせ方は遺伝的な影響が大きいものの、言葉の選び方や相手への気遣い、自己開示は後天的な学習で改善する余地があると考えることもできます
まとめ
このようにコミュニケーション能力には様々な要素が関連しており、性格傾向や遺伝的要素も関わっているようです。
幸い、コミュニケーション能力には、学習によって伸ばせる部分もあります。伸ばせる部分はしっかりと伸ばして、上手に世の中を渡っていきたいものです。
【参考文献】
Beatty, M. J., Marshall, L. A., & Rudd, J. E. (2001). A twins study of communicative adaptability: Heritability of individual differences. Quarterly Journal of Speech, 87(4), 366-377. http://dx.doi.org/10.1080/00335630109384346
Bedir, D., Agduman, F., Bedir, F., & Erhan, S. E. (2023). The mediator role of communication skill in the relationship between empathy, team cohesion, and competition performance in curlers. Frontiers in psychology, 14, 1115402. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1115402
Rubin, R. B., & Martin, M. M. (1994). Development of a measure of interpersonal communication competence. Communication Research Reports, 11(1), 33-44. https://doi.org/10.1080/08824099409359938
Sexton, M. (2014). Determinants of healthcare professionals’ self-efficacy to resolve conflicts that occur among interprofessional collaborative teams (Doctoral dissertation, University of Toledo). http://rave.ohiolink.edu/etdc/view?acc_num=toledo1396104234