注意とはなにか?
あなたを脅すわけではないのですが、世界というのは危険に満ちています。
道を歩ければ車に当たるかもしれないし、ひょっとすると機嫌の悪い上司が目の前に現れるかもしれない、
あるいはあなたがスマートフォンをいじっているその横で赤ちゃんが熱いコーヒーカップをひっくり返そうと試みているかもしれません。
こういった危険を回避するために私達の脳は太古の昔から進化してきており、外部の顕著な刺激に対して自動的に反応するような仕組みを作ってきました。
このような仕組みがあるおかげで、私達の生存確率というのを上げることができます。つまり無駄に事故や災難に合う可能性が少なくなります。
しかしながらこれだけでは生きていくのに十分ではありません。
私達が生き残って子孫を残していくためには必要なものを探していく必要があります。
それは森のバナナかもしれませんし、スーパーの中で姿を消してしまった自分の子供かもしれませんし、あるいはパソコンの奥深くに隠れてしまったファイルかもしれませんが、とにかく意識して何かを探し出す能力というものも必要になってきます。
つまり注意には二種類あって、一つは生存に必要な情報に気づく能力、もう一つは生存に必要なものを探す能力、この2つがあって危険なこの世界を生き抜くことができるように私達の体は設計されています。
ではこの2つの注意というのは脳の中でどのようなしくみで設計されているのでしょうか。
腹側注意ネットワークと背側注意ネットワーク
脳というのはよく言われるように一つの大きなネットワークなのですが、この大きなネットワークは様々なサブネットワークが集まってできています。
一つの会社も様々な機能に特化した総務部、営業部、人事部などからなるように脳の中にも、あなたが行う様々な機能に対応したネットワークが存在しており、注意に関しても、上記の二種類の注意に対応したネットワークがあります。
一つは腹側注意ネットワークと呼ばれるもので、これはいわば「気付き」のためのネットワークです。
あなたが意識していなくてもハッと気づくような注意がありますが、このような注意は刺激によって駆動されるボトムアップ型注意とよばれ、腹側注意ネットワークはこのボトムアップ型注意に関わっています。
もう一つは背側注意ネットワークと呼ばれるもので、これは自分から意識して何かを探し出すような注意、いわばトップダウン型の注意に関わっています。
これら2つの注意ネットワークは感覚情報が集まってくる頭頂葉と認知や判断の中枢である前頭葉の様々な領域が結ばれる形で成り立っています。
しかしながら私達の注意はこの2つが別々で動いているわけではなく、車を運転しているときを考えても分かるように交互に切り替わりながら動いています。
会話に耳を傾けていていも(トップダウン型注意)、目の前の車が急に止まれば(ボトムアップ型注意)ブレーキを踏みますし、カーナビを見ながらも(トップダウン型注意)眼の前に子供が横切ればはっと気づいてブレーキを踏み込むことができます。
逆に言えば、この2つの注意の切り替えができないと事故に上がる確率が跳ね上がり、一緒に乗っていてもヒヤヒヤドキドキするはめになってしまいます。はたしてこのような2つの注意の切り替えや統合とうのは脳のどこでなされているのでしょうか。
下前頭接合部:トップダウンとボトムアップをつなぐもの
今日取り上げる論文は、このボトムアップ型注意に関わる腹側注意ネットワークとトップダウン型注意に関わる背側注意ネットワークの関係性について調べたものです。
実験では被験者に画面ディスプレイ上にトップダウン型中を要する課題やボトムアップ型注意を要する課題を行わせ、その時の脳活動について調べているのですが、
結果を述べると脳の中でも下前頭接合部(inferior frontal junction)と呼ばれる聞き慣れない場所が、注意に関わる2つのネットワークをつないでいるのではないかということが述べられています。
私達の注意というのは意識的なものにしろ無意識的なものにしろ、もっと大きな枠組みで働いているような注意そのものをコントロールするメタ的注意というのがあり、下前頭接合部というのがそれにあたるのかなと思いました。
参考URL:A central role for the lateral prefrontal cortex in goal-directed and stimulus-driven attention.