半側空間無視患者は暗闇でも左側が見えないのか?
半側空間無視患者のADLに対する介入として生活場面での視野の調整というものがあります。
これは右側へ注意が向きづらくなるように右側を壁にしたり遮蔽物をおいたりするものですが、
果たして半側空間無視患者の病態というのは外部からの視覚情報だけによって現れるようなものなのでしょうか。
例えば何の視覚刺激もない真っ暗闇の中では、半側空間無視患者は果たしてどのように空間を認知するのでしょうか。
今日取り上げる論文は、半側空間無視患者と視野欠損患者を対象に真っ暗闇の空間の中での探索課題を行っているときの視線の動きについて調べたものです。
実験では5名の半側空間無視患者と5名の視野欠損患者を対象に、完全な暗闇の中で空間上の中央を見つめてくださいという指示し、その後左右いずれかに点灯する光を見つけ、そこに視線を固定するように指示し、この課題を行っているときの視線の動きについて計測しています。
結果を述べると半側空間無視患者の視線は右方向に偏っており、
スタートポジションの視線の固定点もやはり右方向に偏っていることが示されています。
それに対し視野欠損の患者は左右に等しく視線が分布し、スタートポジションの視点も中央にあることが示されています。
これらのことから、半側空間無視の病態というのは単に外部刺激によって駆動されるようなものではなく、
患者の空間の内部表象そのものがすでに右側に偏っているのではないかということが仮説的に述べられています。
半側空間無視というのは実に複雑な現象なのだなと思いました。
参考URL:Ocular exploration in the dark by patients with visual neglect.
【要旨】
視覚的半側空間無視を持つ患者を対象に完全な暗闇の中で光を探索する課題を行い、その時の視線の動きについて計測を行った。視線の固定点は中央線より右側に偏っていた。対照群である視野欠損患者は両側を同じように探索した。この結果から半側空間無視患者は左方向の感覚情報処理過程とは関係なく右方向への偏りがあることが示された。この結果は半側空間無視患者における注意が半球性に制御されていることと対側空間の表象が障害されているという仮説に関連するものである。