2つの注意システムと脳内ネットワーク
普段私達はいろんなものに注意をして生きていますが、この注意には大きく分ければ二種類あります。
一つはトップダウン的な注意で、これは自らの意思で何かを探索するような注意です。待ち合わせの場所で誰かを探したり、あるいは部屋の中で何かを探しているときの注意を考えてもらえばわかりやすいかと思います。
もう一つの注意はボトムアップ的な注意で、これは自らの意思というよりも外部の刺激によって駆動されるような注意になります。眼の前に急に子供が飛び出してきたり、あるいは空を見上げたらUFOが飛んでいて目が釘付けになるような注意を考えてもらえばいいかと思います。
臨床現場で頻繁に遭遇する半側空間無視の患者さんは時間の経過とともに左への注意が改善するケースやそうでないケースがありますが、
改善するケースの患者さんにはこのトップダウン的な注意を使って能動的に左へ注意を向けることで折り合いをつけているケースも多いと思うのですが、
中にはトップダウン的な注意そのものがうまく使えず、代償的な方略も使えない患者さんもいます。
しかしながらこのトップダウン的な注意やボトムアップ的な注意に関わる脳領域というのはどのようなものなのでしょうか。
今日取り上げる論文は、健常者を対象に二種類の連続した注意課題を行っているときの脳活動を詳しく調べたものになります。
実験では22歳から34歳の健常成人6名(男性2名、女性4名)を対象に
①画面に提示される矢印が左右どちらを向いているかを判断する(トップダウン的注意課題)
②その後矢印で示された左右いずれかの側だけを見続け、そこに提示されるチェックボード様の画面の中に灰色のブロックが混じっているかいないかを判断する(ボトムアップ的注意課題)
を行い、それぞれの脳活動を機能的MRIを用いて調べています。
上図参考URL:https://www.nature.com/articles/nn0300_284
結果を述べるとトップダウン的な注意課題では前頭葉上部(上前頭回、中前頭回)、下頭頂小葉、上側頭葉が有意な活動増加を示し、
ボトムアップ的な注意課題では腹外側前頭葉(下前頭回)、前帯状皮質、補足運動野が有意な活動増加を示しています。
下頭頂小葉の損傷で半側空間無視は遷延化することを示した研究もありますが、
トップダウン的な注意が使えるかどうかが予後を占う上で大事なのかなと思いました。
参考URL:The neural mechanisms of top-down attentional control.
【要旨】
選択的視覚的注意は注意制御システムと脳の感覚関連領域との動的な相互作用を含むものである。今回事象関連機能的MRIを用いて手掛かり刺激による空間的注意課題を行っているときの注意制御に関わる脳活動を標的刺激の処理と分離して調査した。異なるネットワークが注意を向けるべき手掛かり刺激とその後の標的刺激の処理に関連して活動していた。上部前頭葉、下頭頂葉、上側頭葉は手掛かり刺激に対して選択的に活動しており、このことはこれらの領域は自発的な注意制御ネットワークの一部であることが考えられた。この調整に関わる複数の視覚領域は関連する視覚標的刺激の選択的な感覚処理によるものであることが考えられた。
コメント
探しものが極端に苦手である。
茶碗にしても衣類にしても定位置から少しでもずれていると目に入ってこない。
これは私の視覚的注意が過度にトップダウンに偏っており、ボトムアップ処理が抑えられているせいかと思うが
それゆえしばしば妻と諍いになることが多い。
「あれどこだったっけ?」「これどこだったっけ?」と聞くとそのたびに「見えないの?」と怒りを含んだ口調で答えが返ってくる。
「見えない(というかボトムアップが効かずに気づけない)」というのは、おそらく一生ついてまわるだろうし
妻の「分からない(というか頭でわかっていても感情を抑制するのが難しい)」というのも一生ついてまわるのだろう。
お互いに相手の欠点を諦めきれないのも愛情のひとつなのかなと思ったりもします。