実行機能とはなにか?
私達は朝起きてから寝るまでにいろんなことをして過ごしています。
スマートフォンをいじったり、同僚や上司の話に耳を傾けたり、書類を作ったり、車を運転したり、やることは非常に様々ですが、なぜ私達はこういったことをスムーズに執り行うことができるのでしょうか。
自動車の自動運転でもないのですが、私達が処理しなければいけない情報というのは莫大です。
仮に今、あなたが覗いているディスプレイから目を外して周りの景色を見てみれば、その情報量というのは莫大ですし、
あなたの耳や肌を通して入ってくる聴覚情報や触覚情報というのも天文学的な量の情報量となるでしょう。
こういった莫大な情報があなたの脳を刺激しているにもかかわらず、あなたはスマートフォンを上手に操作しているかもしれないし、あるいは上手に車を走らせているかもしれません。
こういったことが上手にできる背景として、心理学的には実行機能という概念が想定されています。
この実行機能というのは端的にいうとどの情報を取り入れて、どの情報を無視するのか、体のどの部分を使って、どの部分を使わないのかということを状況状況に応じて取捨選択するような機能になります。
こういった機能があるので、車を運転していても必要な情報が必要な程度とりこまれ、適度な力でアクセルを踏むことができるので、あなたはおそらく人生の大部分を無事故で運転することができます。
逆に言えば車の運転が危なっかしい人というのは、この実行機能に何らかの問題を抱えている可能性があります。
ではこの実行機能というのは脳のどの辺が関わっているのでしょうか。
実行機能と脳の関係とは?
脳というのはいろんな機能を持つ様々な領域から成り立っているのですが、その中でも前頭前野と呼ばれる部分は様々な動物の中でも、ヒトにおいても最も発達しており、いわゆる「人間らしさ」に関わっているとされています。
この前頭前野ですが、この領域がいわゆる実行機能と関連しているのではないかという仮説のもとに様々な研究がなされてきました。
今日取り上げる論文は、このこれらの研究から推定される実行機能と前頭前野の関係性について述べた総説論文になります。
この論文では、まず実行機能の本質は抑制機能ではないかということについて述べています。
これは様々な状況に応じて脳が勝手に様々な刺激に反応しないように抑えるような働きなのですが、こういった抑制機能が実行機能の本質ではないかということが述べられています。
また様々な研究からこの抑制機能に関わる領域として脳の中でも前頭前野が大事であり、
更にその中でも背外側前頭前野、下前頭皮質、前頭眼窩野と呼ばれる領域が実行機能に関わっているのではないかとされているのですが、
この論文ではその中でも最も大事なのは、下前頭皮質、とりわけ右側の下前頭皮質が実行機能に大きな関わりを持っているのではないかということが述べられています。
脳卒中においても右半球の損傷で注意障害が出やすかったり、あるいは半側空間無視の本態は注意機能の障害であるとの考えもありますが、
半側空間無視が右半球損傷で出やすいことと、右下前頭皮質が抑制機能の中枢であることは何かしら関係があるのかなと思いました。