脳内ネットワークの特徴とは?
初めて子供に名付けた名前は継でした。これはちょうど彼が生まれたときにネットワーク理論の勉強をしていたことに由来します。ネットワーク理論ではすべての現象は繋がりから生じるとし、その繋がり方を様々な方法で測定します。
例えばサッカーであれば、以下の図のようにチームの特性を分析することなども出来ます。
A network theory analysis of football strategies, fig 1
サッカーであれば同じ11人から構成されるチームであっても、その繋がり方でチームカラーが出てきますが、これは人間の脳で同じことがいえます。では人間の脳はどのようにしてネットワーク解析を行うことが出来るのでしょうか。
今回の記事では、人間の脳のネットワーク解析について詳しく論じた論文を紹介します。
Small-world connectivity, motif composition, and complexity of fractal neuronal connections.
脳内ネットワークの測り方
この論文によると、脳内ネットワークの特徴はスモールワールド性にあるといいます。
スモールワールド性というのは、ネットワークの繋がりやさの指標になります。例えば世界には数十億人の人間がいますが、ある社会学的な実験によるとわずか平均6回のステップで世界中の色んな人とつながることが出来ることがわかっています。これはつまり知り合いの知り合いの知り合い・・・というように人間関係を繋いでいけば、6ステップ目の繋がりでアメリカの大統領だろうが、世界的大企業のCEOだろうがつながることが出来るということになります。
もう少し実感できやすいものとしては航空ネットワークがあります。例えば私は現在富山に住んでいますが、富山→成田→ドバイ→ガーナ→ガーナの地方空港、というように世界中どこであれ、数回の乗り継ぎで到着することが出来ます。
こういったネットワークにおける繋がりやすさの特徴がスモールワールド性と呼ばれるものになります。
では脳内ネットワークのスモールワールド性の指標となるものにはどのようなものがあるのでしょうか。
この論文では以下の5つの指標が重要であると論じられています。
①パス長
②機能的モチーフ
③複雑性
④フラクタル性
⑤ネットワークの階層性
どうにも聞き慣れない言葉が並びますが、一つずつ説明していきたいと思います。
①平均パス長
平均パス長というのはネットワーク上のある点からある点に平均で何ステップで行けるかを示すものになります。例えば富山駅から品川に移動するには、途中5つの駅を経由(長野、大宮、上野、東京、品川)するので5ステップになります。しかし富山駅から品川駅まですべて各駅停車の鈍行で行こうとすれば、数十ステップが必要となり、移動時間も膨大になります。脳内ネットワークは一般に、この平均パス長が非常に短く、数ステップで脳内のあらゆる場所へ繋がれることがわかっています。またアルツハイマー病では、このパス長が大きくなることが報告されています(Stam et al., 2006)。
②機能的モチーフ
ネットワークというのは、ぱっと見た感じ複雑ですが、いくつかの基本パーツの組み合わせで示すことが出来ます。例えば、サッカーの戦い方で3人、もしくは4人でパス回しをするとしたら以下のようなパターンが考えられます。
(Tran et al., 2013, Figure 1)
スモールワールド性に富んだ脳内ネットワークでは、この機能的モチーフと呼ばれる繋がり方のパターンが豊富であることがわかっています。サッカーでも、様々なパターンのパス回しがあったが方が単調なパス回ししかないよりも戦い方として優れていると思うのですが、脳も同じようなことが言えるようです。
③複雑性
複雑性というのは文字通り、ネットワークの複雑性です。例えば日本国内に国道が3本しかなかったとしたら、ネットワークの構造はシンプルになりますが、移動は大変になります。しかし日本国内に国道が3億本あったとしたらネットワークの構造は複雑になりますが、これはこれで帰って移動が大変になります。つまり適度に複雑であるときに最もネットワークの効率性が高まるのですが、脳内ネットワークは適度に複雑であることがわかっています。
(Watts & Strogatz, 1998, Figure 1)
④フラクタル性
フラクタル性というのは一言で言えば、入れ子構造のことです。例えば以下の図は大きな一つの三角形ですが、三角形の中の三角形には三角形が入っていて、さらにその小さな三角形ももっと小さな三角形で構成されています。
脳内ネットワークも同じように自己相似的な小さなネットワークから構成されていますが、このような構造の特徴がフラクタル性と呼ばれるものになります。
(Hilgetag & Goulas, 2015, Fig 1)
⑤ネットワークの階層性
ネットワークの階層性というのも、その名の通り、ネットワーク間にどれだけ階層性があるかの指標となります。例えば会社組織であれば、社長→部長→課長→係長というように階層的なネットワークで出来ています。脳内ネットワークも同じように階層的に構成されていることが分かっています。
(Tagliaferri et al., 1999, Fig 1)
まとめ
このように私達の脳内ネットワークはスモールワールド性に富んでおり、脳内のあらゆる場所が繋がりやすくなっています。その構造的指標としては
①パス長
②機能的モチーフ
③複雑性
④フラクタル性
⑤ネットワークの階層性
で表現できます。
会社組織もネットワークであることを考えれば、効率的な組織と言うのは脳に似た特徴があるのかなと思いますが、これはまた改めて調べたいと思います。
【参考文献】
Sporns O. (2006). Small-world connectivity, motif composition, and complexity of fractal neuronal connections. Bio Systems, 85(1), 55–64. https://doi.org/10.1016/j.biosystems.2006.02.008