なぜ自閉症スペクトラム障害では表情の読み取りが苦手なのか?
自閉症スペクトラム障害は様々な症状で定義されていますが、その中に一つにコミュニケーションの困難さというものがあります。
このコミュニケーションの困難さというのは表情の読み取りの稚拙さも関係してくるのですが、
なぜ自閉症スペクトラム障害では表情の読み取りが難しくなるのでしょうか。
今日取り上げる論文は、自閉症スペクトラム障害の表情読み取りについて脳波を使って調べたものです。
実験ではモノクロの顔面写真とシャープな線だけで書いた顔面イラストを提示し
これを見たときの脳波と表情の評価(起こっているのか幸せそうか)を行わせています。
結果を述べると自閉症スペクトラム障害ではモノクロの写真に対しては表情認知に関わる脳波の波形(事象関連電位のN400)や表情認知に関わる電極間のコネクティビティの低下が見られたものの
エッジのあるシャープな顔面イラストでは健常者と脳波に関わる指標に大きな違いがなかったことが示されています。
このような現象が起こった原因として、自閉症スペクトラム障害では基本的な表情認知メカニズムが通常と異なるためではないかということが仮説的に述べられています。
一般に視覚処理には網膜から入って一次視覚野→二次視覚野→・・→高次視覚野という経路と
これをショートカットする網膜から入って扁桃体→高次視覚野という経路があります。
前者はいわゆる認知的な判断への関わりが大きく、後者は意識に上ってくる以前の直感的な認知に関わるとされています。
また画像情報にはシャープな高空間周波数で構成されたものと
ボンヤリした低空間周波数で構成されたものがあるのですが、
後者はより強く扁桃体の活動を促すことが知られています。
関連記事:恐怖表情における低空間周波数の紡錘状皮質の活動への影響
自閉症スペクトラム障害者がボンヤリした空間で表情認知に劣り、エッジの聞いたシャープな画像で健常者と変わらなかったのは
シャープな画像(高空間周波数)では扁桃体の活動を介さずに済むためではないかということが述べられています。
自閉症スペクトラム障害では結構ベースの部分からマジョリティと体の仕組みが違うのかなと思いました。
参考URL:Conscious and Non-conscious Representations of Emotional Faces in Asperger’s Syndrome
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