秋田県人のきりたんぽに見る原理主義的傾向と神経症候学
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秋田県人に見るきりたんぽ原理主義

秋田を離れてだいぶ長くなるが、冬になると決まってきりたんぽを食べたくなる。

きりたんぽというのは秋田県における冬のカレーライスのようなものであり、体の奥底まで染み込んでいるソウルフードでもある。

このきりたんぽ鍋であるが、私の中ではかくあるべしというレシピが有り、それ以外は決してきりたんぽと認めない。

具は必ず鶏肉、ごぼう、せり、舞茸、しらたき、ネギであり、決して豆腐や白菜など水気のある具材入れない。

ましてや鶏肉の代わりに豚肉、あるいは食べ終わったあとのうどんやおじやなどあってはならぬものである。

こういった傾向はどうも私だけではなく、ウィキペディアを見ても、しらたきを入れるのを「邪道」と記載していることから、秋田県民は多かれ少なかれ、きりたんぽかくあるべしという強い信念を持っているように思われる。

ある特定にあり方意外決して例外を認めず、例外に対しては改宗を求め、場合によっては攻撃を辞さないというのは政治の世界でも見られる原理主義だが、果たしてこの原理主義というのは脳科学的にはどのようなものなのだろうか。

原理主義者の脳の中

色々と調べてみたが、脳損傷患者の原理主義的傾向と脳の損傷の関係について調べた研究があった。

Zhong W, Cristofori I, Bulbulia J, Krueger F, Grafman J. Biological and cognitive underpinnings of religious fundamentalism. Neuropsychologia. 2017;100:18-25. doi:10.1016/j.neuropsychologia.2017.04.009

この研究では脳に貫通性の外傷を負った成人119名を対象に調べていて、被験者の政治的原理主義的傾向を点数化して、

かつ脳のどのへんが損傷しているかについて調べ、脳損傷と原理主義的傾向を調べているのだが、

結論から言うと、背外側前頭前野や腹内側前頭前野と呼ばれる前頭前野の損傷で原理主義的傾向が強められることが示されている。

背外側前頭前野というのは知能や理性、記憶に関わる領域であり、腹内側前頭前野は価値判断に関わる領域であるので、なるほどそうかという気もするが、何も秋田県人の殆どが脳に貫通性の外傷を負っているわけでもない。

価値判断に関わる腹内側前頭前野というところが気になり、報酬系との絡みで調べてみた。

しかしながら今ひとつピンとくる文献がない。

腹内側前頭前野をどこでくくってるのかを図でしっかり見てみると、前頭眼窩野もしっかり入っているので、ここも含めて文献を漁ってみた。

意思決定と食事の選択

前頭眼窩野というのは前頭前野でも下の方に位置していて、

脳の色んな部分と神経線維でつながって、情報を取りまとめては意思決定に関わる結構な領域らしい。

これって腹内側前頭前野と場所的にどう違うんだと思って調べてみると、腹内側前頭前野の場所の定義というのは必ずしも明確ではなく、前頭眼窩野の脳の内側(右脳と左脳がくっつきあう、表面からは見えないところ、上の図左の赤いところ)のあたりも含むらしい。

なんだかややこしいが、前頭眼窩野の内側のあたりが腹内側前頭前野といわれる領域とかぶっていて、

この辺が脳の広い場所に枝を伸ばして情報を統合するような統合幕僚長のような位置にあるというのが分かった。

食べ物の選択と報酬系との関係についてまとめた論文を見てみると

Rangel A. Regulation of dietary choice by the decision-making circuitry. Nat Neurosci. 2013;16(12):1717-1724. doi:10.1038/nn.3561

食べ物の選択には脳の中でも報酬系と呼ばれるシステムが関わっており、

その中でも前頭眼窩野の内側領域は、甘さや辛さという生理学的な情報だけでなく、ワインのラベルのような思い込み社会的認知における価値まで取り込んで総合的な評価を下すところのようだ。

何を食べるか、何を飲むかというのは、どれだけ良い思いをしたいか、つまりは報酬を最大化しようという試みだが、

前頭眼窩野の内側領域は負の価値も予想的に評価して(好みの食べ物、好みの異性、好みの洋服)

何かを拒否するという行動も取らせるようだ。

Zald DH. Orbitofrontal cortex contributions to food selection and decision making. Ann Behav Med. 2009 Dec;38 Suppl 1:S18-24. doi: 10.1007/s12160-009-9117-4. Epub 2009 Sep 29. PMID: 19787309.

豚肉の味のしみたきりたんぽも美味しそうじゃないという合理的な妻の提案に激怒するのはこの辺も関与しているのだろう。

しかしながら私のきりたんぽ原理主義はどうも社会的認知に引っ張られすぎているようにも思える。

結局の所、政治的な原理主義ときりたんぽ原理主義というのは結局どういった関係性になるんだろうか。

アイデンティティと意思決定の脳基盤

そんなことを考えていたら昔書いた記事のことを思い出した。

人間の意思決定というのは複雑な階層構造になっていて、

いろんなことを感じたり、企んだり、成功したり、失敗したりでアイデンティティが形成されてくるとかいう理論である。

なんだか胡散臭いような気もするが人工知能に実装して案外うまく行っているらしい。

この図で行けば、幼少期から食べ慣れたごぼうや鶏肉、せりや舞茸の味が渾然一体としてハフハフ言いながら食べるきりたんぽの味が、100回、200回のきりたんぽ鍋の経験として自伝的記憶の中に組み込まれ、

前頭眼窩野の内側部分はこの幸福感を間違いなく再現するために忠実なレシピにこだわり、白菜や豆腐の入ったきりたんぽ鍋に激怒するという行動を引き起こすのだろう。

世の中には声を荒げるいろんな原理主義者がいるが、結局の所すべての原理主義者が求めるのは愛と暖かさであり、理不尽とも思える主張や行動やそれを失う怖さと悲しみなのかなと思った。

なんだかまた、きりたんぽ、食べたくなってきたな・・・

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