選択的視覚的注意の転換:その基盤となる神経回路へむけて
「目は口ほどにものをいう」という言葉がありますが、私達の目は四六時中あちこちに視線を動かして休む間がありません。
仕事をしていても、大きな音や電話の音がすれば視線がそちらへ向いてしまい、上司や社長がやってきても自動的に視線はそちらへ向いてしまいます。
このように視覚情報や音響情報など様々な情報によって私達の視線は移動し、それに伴い注意も流れ写っていくのですが、
これにはどのような神経メカニズムが関わっているのでしょうか。
今日取り上げる論文は、どのようなシステムであればこのような視覚的注意の転換が起こりうるかについて理論的に考察した論文になります。
この論文によると、視覚情報というのは色情報、形情報、動き情報、肌理(キメ)情報など様々な情報から成り立っていること、
またこのそれぞれの情報に対応した地図があり、それぞれ別々に表象されること、
これらの別々の地図における際立った情報がこれらを統合する地図へ送られること、
そこで勝者総取りルール(もっとも強いとみなされる情報のみが取り上げられ、他の情報は棄却されるようなルール)によって、注意の転換が引き起こされることが述べられています。
ヒトの脳の中では下頭頂小葉が、別々の情報地図を取りまとめるような中央表象地図に当たるのではないかということが述べられています。
こういったルールがあれば人工知能か何かを使って自動的にヒトのような注意の転換ができるロボットができるのかなと思ったり、
あるいはこの注意の転換を引き起こすには外部情報だけでなく、瞬間瞬間で流転する内臓感覚、欲求、感情のようなものが必要なのかなと思いました。
参考URL :Shifts in selective visual attention: towards the underlying neural circuitry.
【要旨】
様々な研究から霊長類の視覚システムとヒトの視覚システムは視野を横切る動きに注目する機能を特化して進化させてきたことが示されている。本研究はいかにしてニューロンのような要素からなるシンプルなネットワークがどのようにして選択的視覚的注意の転換に関連した様々な現象を説明しうるかについて論じたものである。とりわけ、我々は(1)色や向き、動きの方向や不均衡性のような基本的な要素が異なる組織分布図上に並行に表現され、(2)この初期的組織分布図がさらに中心的な非組織分布図的な表象として選択的にマッピングされ、この中心的な表象はある瞬間における視野のある一つの場所における性質を含んでいると考える。また我々はこのマッピングは初期視覚的注意の主要な現れであると考える。選択的注意の一つの機能はことなる分布図からある一貫した全体へ情報を流し込むことである。ある選択的なルールによって、どの場所が中心的な表象へ写し込まれるかを決定されるが、初期表象においてある場所の顕著さを用いるようなこの主要なルールは勝者総取りネットワークとして実装される。このネットワークの中で選択された場所を抑制することによって自動的に次の多くの目立った場所へ注意の転換が起こる。付加的なルールとしては近接性と類似性への親和性である。われわれはどのようにしてこれらのルールがニューロンのようなネットワークに実装されているかについて議論を行い、視覚野から外側膝状体に対して密なバックプロジェクションがあると考える。
コメント
先日、長男のことで定期面談があり妻が学校へ行ってきた。
自由時間に本を読み始めると過集中になって、声をかけても気づかないことが多いとのことだった。
過集中の癖は私と似ているのだろう。味のある人生を送ってもらえればと思う。
息子の名前は継という。
ちょうど脳のネットワーク理論の関係で複雑系の本を読み漁っていた時にひらめいた名前だ。
仏教の縁起の教えでもないけれども、世の中のすべての事象は継り(つながり)から生起する。
宇宙の根本原理はおそらくこれだろうということで名付けた名前だ(ちなみに最近生まれた第三子の名前は「律」)。
ちなみにこの複雑系の理論では、与えられた初期条件と環境の相互作用で系が大きく変化しうると言われている。
ビートルズにポール・マッカトニーがいなかったら(初期条件)、あるいはバンドを組んだのが20年前もしくは20年後だったら(環境)、結果はかなり違っていたかもしれない。
初期条件は選べないにしても、親や教師というのは環境にはなり得る。
トマトにはトマトの、小松菜には小松菜の育て方があるように、
成るべくものが成るように、そこにいれたらと思います。