演技の脳科学:演じている時に何が起こっているのか?
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はじめに

地球上には様々な動物がいますが、人間というのは少々特殊です。他の動物にない様々な能力を持っているからです。言葉を話したり、未来のことを考えたりすることもそうですが、その他に「演じる」という能力も持っています。演じるためには様々な知能が必要です。まず演じる対象の心を理解する必要があり(メンタライジング能力)、演じることに集中する必要があり(注意力)、自我を抑える必要もあります(自我抑制力)。では実際、演技している時にはどのような脳活動が起こっているのでしょうか。今回はシェークスピアのロミオとジュリエットになりきって演技している時の脳活動を調べた研究を紹介します。

The neuroscience of Romeo and Juliet: an fMRI study of acting
(ロミオとジュリエット の神経科学:演技に関するfMRI研究)

方法

この研究の被験者に選ばれたのは、アメリカの大学で演劇を選考している大学生15名(女性11名、平均年齢21歳)です。実験では以下の4つの条件で、様々な社会的状況に関する質問(「招かれていないパーティーに行きますか?」、「恋に落ちたら親に伝えますか?」など)に回答する課題を行いました。またこの時の脳活動はfMRIにより測定されました。

1)素の自分として回答(一人称的視点:1P)

2)  親しい知人がどう答えるかを回答(三人称的視点:3P)

3)  素の自分として回答、ただしイギリス風のアクセントで回答する(アクセント)

4)  ロミオ、またはジュリエットとして回答(架空の一人称的視点:fic 1P)

ちなみになぜこの4つの方法に分けたかというと、それぞれの条件を比べることで、演技に関わる本質的な心理的要素に関連する脳活動を調べることが出来るからです。

 

例えば、2)の条件であっても、4)の条件であっても、自分ではない誰かの心を想像するという心の働き(メンタライジング)が生じます。そのため、2)と4)の脳活動を比べて、4)だけに生じている脳活動が分かれば、それはメンタライジングとは無関係な演技に関する脳活動だということが分かります。

また1)の条件であっても、4)の条件であっても、いわゆる「自分」を表現することになるのですが、1)と4)を比べることで、誰かになりきっている時の「自分」にか関わる脳活動を調べることが出来ます。

さらに3)のアクセント条件に関わる脳活動を調べることでも演技に関わる脳活動を知ることが出来ます。というのも演技の技法には、インサイド‐アウト(内面に起こった変化を身体的な動きに変える)とアウトサイド‐イン(フィジカルな動きを行うことで、感情やイメージなどを呼び起こす)があります。素の自分でありながら、答え方はイギリス風のアクセントで答えるというのは、いわゆるアウトサイド‐インにあたります。そのため、1)と3)を比べることで、アウトサイド‐インに関わる脳活動について知ることが出来ます。

結果

結果として以下の図に示すような脳活動の差が見られました。

論文 figure 2を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図のa)は演じている自己と素の自己を比べたものですが、自己意識に関わる内側前頭前野領域の活動が演じている自己で大きく減少していることが示されています。それに加えて注意のコントロールに関わる楔前部の活動が大きく増加しています。

またc)は演じている自己と、知人の心を想像している時を比べたときですが、程度は小さいもののa)と同じような脳活動が違いが示されています。

d)はイギリス風のアクセントで素の自分の回答をしているときと、そのままの素の自分で回答している時の違いを比べたものですが、イギリス風のアクセントで回答している時には、やはり自己意識に関わる内側前頭前野の活動が低下していることが示されています。

考察

結果に示すように、ロミオやジュリエットを演じることで、自己意識に関わる内側前頭前野の活動が低下し、注意に関わる楔前部の活動が増加することが示されました。その理由として、誰かを演じる時には、本来の自己意識を抑える必要があるからではないか、また楔前部の増加は、演じる自己と素の自己という意識の分割を維持し続けるための注意活動を反映しているのではないかということが論じられています。

まとめ

残念ながら演技に関わる脳活動を調べた研究はこの研究以外に目立ったものがなく、この研究の結果からだけでは一般的なことは言えません。それでも演じることは自己を抑制することと関連しているというのは、大変興味深いなと思いました。ある役者が、「自分には中身が無いんです。空っぽなんです」と話すのを聞いたことがありますが、これは案外役者としての適性を語っているのかなと考えました。

【参考文献】

Brown, S., Cockett, P., & Yuan, Y. (2019). The neuroscience of Romeo and Juliet: an fMRI study of acting. Royal Society open science, 6(3), 181908. https://doi.org/10.1098/rsos.181908

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