原理主義の社会心理学:何があなたを原理主義者にするのか?
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はじめに

原理主義とは、聖典に書かれていることが全てであり、それ以外の言説は認めないという考え方である。しかし、この原理主義が出てきたのはつい最近である。科学が幅を利かせ、宗教も世俗化していく中で、カウンターカルチャーのように20世紀初頭に出てきたのが原理主義である。しかし、この原理主義とはどのようにして定義できるのだろうか。また私達はなぜ原理主義を信じるようになるのだろうか。今回の記事ではこの2つのテーマについて論じた論文について説明したい。

原理主義の定義

原理主義はどのように定義できるのだろうか。

オランダの哲学者、ピールズによると、原理主義には宗教的原理主義と非宗教的原理主義があるという。前者はキリスト教原理主義やイスラム教原理主義であり、後者はファシズムやネオナチズムなどである。この2つの原理主義はともに、世界の不確実性を嫌い、世界を確実的でコントロール可能なものとして捉えるという点で似ているという。また心理学的検査でも、宗教的原理主義者と非宗教的原理主義はよく似た性格プロフィールを示す(Peels, 2022)。

さらにピールズによると、原理主義には以下の共通点がある。

・現代の発展に対する反動として現れる。

・思想のバックボーンとなる壮大な歴史的物語を持つ。

・自らのあり方は現代的な特徴を持つ。

具体的には以下の特徴を示す。

・自由主義的倫理、科学、技術的利用への反発

・確実性とコントロールの追求、聖典の文字通りの解釈、メディアの活用などの近代性

・楽園・堕落・救済あるいは宇宙的二元論といった歴史的物語性

この論文ではファシズムとネオナチズムだけが取り上げられているが、世間を賑わす様々な政治的思想には多かれ少なかれ、上記の特徴が含まれているようにも思われる。

原理主義を促す社会的要因

原理主義は他人事のようにも思えるが、ときに時代が狂気を帯びることもある。例えば第2次世界大戦中のドイツや日本のあり方を見ると、原理主義の特徴が当てはまるものが多い。そう考えると誰であっても原理主義に傾く可能性はあるともいえる。しかしどのような状態で私達は原理主義に傾くのだろうか。

ドイツの社会学者、バウルマンは、原理主義的思考は本質的には科学的信念の成り立ちと大きくは変わらないという(Baurmann, 2007)。

私達は色々な科学的信念を持っている。例えば地球が丸いであるとか、太陽の周りを地球が回っているなどである。あなたがこのような信念を持つためには、まず信頼できる人が存在することが必要になる。それは学校の先生かもしれないし、研究実績のある教授やノーベル賞を取った科学者であるかもしれない。あなたがそれを疑うことなく信じても多くの場合は問題がない。なぜなら科学の世界では、科学者同士が互いにその言説を吟味・検証し合うのでその正確性がある程度担保されているからである。

しかし原理主義的信念も、科学的信念と同じように、権威のある人の言うことを信じることから始まる。しかし科学と異なるのは、原理主義は、その言説の正確性が担保されていないことである。さらに原理主義コミュニティは多くの場合、閉鎖的で排他的であり、外部の意見を取り入れてその信念が十分に吟味されることがない。このように原理主義においては言説の信頼性を担保する仕組みがないため、リアルな世界のあり方とズレが生じるのではないかと論じられている。

不確実性と原理主義

人間は不確実性を嫌う生き物である。例えばあなたが夜のジャングルにいるとしよう。不確実な状況では状況を確実にするために探索行動が取られることもあれば、じっと身をかがめて行動を制限することもある。これれはいずれも不確実な状況へ適応しようとする行動である。しかしこれらの方法に加えて考え方を変えることでも不確実性を減らすことが出来る。例えば呪文を唱えていればライオンが寄ってこないだとか、ライオンが危険な生き物であるというのは陰謀だとか、そういった信念を持つことで、世界はより単純で確実なものになる。

アメリカの社会心理学者、ホッグは不確実性と原理主義の関係について論じている。古代ローマでは社会が不安定化する中、様々な狂信的な宗派が生じ、20世紀初頭のドイツでは経済の先行き不透明性によりファシズムが生じ、20世紀後半の欧米では移民が増大する中で白人原理主義が生じた歴史がある。

また人間には確証バイアスというものがあり、これも原理主義的信念を後押しするという。これは不確実な状況では自分の信念を確かめたいがために、自分の意見と似た意見ばかりに耳を傾け、同じような人達同士で固まってしまう傾向である。このようなこともあり、先行き不透明な不確実な社会では原理主義が育ちやすくなるのではないかと論じている(Hogg et al., 2013)。

おわりに

人間、生きている以上不確実性から逃れることは出来ない。とはいえ、全く何も信じないで生きていくのも難しいし、自分一人ですべてを明らかに検証するのも現実的ではない。そのため、私達は無数の信念を持つことで世界の不確実性に対処している。大学を出ていれば大丈夫、貯金が2000万円あれば大丈夫、結婚すれば大丈夫などである。しかし、こういった信念はいつでもどこでも通用するとは限らない。時代の変わり目には常識が変わりが、今まで逃げていた世界の不確実性と再び対峙することになる。

原理主義は不確実性と不安の子供とも言える。安直な解決策に飛びつくことなく、中腰でじっと不確実性を覗き込みつつ、それに飲み込まれることなく生きていきたい。

 

【参考文献】

Baurmann, M. (2007). Rational Fundamentalism? An Explanatory Model of Fundamentalist Beliefs1. Episteme, 4(2), 150-166. https://doi.org/10.3366/epi.2007.4.2.150

Hogg, M. A., Kruglanski, A., & Van den Bos, K. (2013). Uncertainty and the roots of extremism. Journal of Social Issues, 69(3), 407-418.https://doi.org/10.1111/josi.12021

Peels, R. (2023). On defining ‘fundamentalism’. Religious Studies, 59(4), 729-747. https://doi.org/10.1017/S0034412522000683

 

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