宗教的原理主義とその心理学的・脳科学的基盤とは?
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はじめに

原理主義的思考というものがあります。これは主に宗教分野で多いのですが、決められていること、書かれていることを思考の基盤とし、そこから外れたものを許さない思想的態度になります。世の中はどちらかというと白黒付かない灰色のものがほとんどですので、原理主義的態度で物事を通そうとすると、多かれ少なかれ摩擦が起こります。

この原理主義的思考は決して珍しいものではなく、歴史を振り返れば集団的狂気のような状態で多くの悲劇を生み出してきたのも事実です。しかし、この原理主義的思考のもとにあるのは一体どのようなものなのでしょうか?今回の記事ではその心理学的・脳科学的基盤について掘り下げて考えてみたいと思います。

宗教的原理主義とルールベースの考え方

「宗教的原理主義」と「政治的保守主義」は、ルールベースの考え方に結びつきやすいことが知られています。実際、グーグルでUXの開発に携わる心理学者、ヤング博士らはアメリカ人キリスト教徒119名を対象に、宗教的原理主義、政治的保守主義、ルールベース思考の関係性について調査しました1. 実験では、被験者らに以下の道徳的ジレンマ課題を行わせ、その妥当性について7点満点で評価させました:

・潜水艦で酸素不足事故が起き、死に瀕しているクルーを殺害して他のクルーを助けるか

・任務中に敵に捕まる危険性が高い負傷した味方兵士を殺害して拷問を免れさせるか

・満員のボートが沈みそうな場合、保存の見込みのない負傷者を船外に投げ出して他の乗客を救うか

・爆弾テロを起こそうとしているテロリストの息子の腕を折って脅迫することで爆弾を防ぐか

・線路上で迫り来る電車に工作員5人が轢かれそうな場合、そばにいる大柄な他人を押し出して工作員を救うか

この調査により、ルールベース思考の程度が高いほど(どんな状況であれ傷つけたり殺したりしてはいけない)、宗教的原理主義傾向や政治的原理主義傾向も高いことが示されました(Young et al., 2013)。この結果を見る限り、原理主義者は、良い人といえば良い人なのかもしれませんが、文脈や目的に応じた判断は苦手ということになるのかもしれません。

 

宗教的原理主義と統合的複雑性

また心理学的概念の一つとして統合的複雑性というものがあります。これは物事をどれだけ多面的、重層的に見られるかの能力を示すものになります。いじめがあった場合、いじめた側だけが悪いという判断は統合的複雑性が低く、親や学校の問題も含まれると考えるのは中等度、経済、社会、政治まで含めて複雑な立場から捉えるものは統合的複雑性が高いということになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

宗教的原理主義に関する研究の第一人者であるハンスベルガー博士は、大学生89名を対象に統合的複雑性と原理主義的思考の関係性について調べています。実験では被験者に以下のテーマについて質問し、その回答から統合的複雑性を調べています。また被験者を宗教的原理主義の程度の高さで2群(高いものと低いもの)に分けた場合、彼らの統合的複雑性にどのような違いがあるかについて調べています。

倫理領域:

  • 遺伝子選択(皮膚や目の色を子どもが生まれる前に選択すること)
  • 中絶

環境領域:

  • 汚染規制によって企業が事業を失う可能性
  • アフリカの運河建設による環境への影響

宗教領域:

  • 日曜営業をめぐる消費者需要と宗教的反対
  • 自動車事故で娘を失った両親が、愛する神を信じることとの折り合い

 

結果としては、テーマ全般について見た場合、宗教的原理主義傾向と統合的複雑性の間には関係性が見られなかったものの、実存的なテーマについては統合的複雑性が低くなることが示されました(Hansberger et al., 1994)。具体的には生と死を扱ったもの(中絶と子供の死)については宗教的原理主義者は統合的複雑性が低い結果となっています。これらのことから、宗教的原理主義者は実存的な問題に対して向き合うことが得意ではないのではないかと論じられています。

 

宗教的原理主義に関係する脳機能

また近年発表された研究で、宗教的原理主義と脳機能の関係について調べたものがあります。この研究では退役ベトナム戦争軍人を被験者としてしており、脳損傷の程度と部位、宗教的原理主義、心理的傾向の関係性について調査しました。心理的傾向については、思考の柔軟性や開放性について調べています。結果としては以下のことが示されています。

・宗教的原理主義と関連する領域として腹内側前頭前野と背外側前頭前野がある。

・思考の柔軟性や開放性の影響を加えると、宗教的原理主義と関連するのは背外側前頭前野だけである。

ちなみに腹内側前頭前野は抽象的な社会的信念(正義とはなにか、善悪とはなにか)に関わる領域であり、背外側前頭前野は理性的思考に関わる領域になります。この研究結果から筆者らは前頭前野の損傷により、思考の柔軟性や開放性が低下し、宗教的原理主義が高まったのではないかと論じています(Zhong et al., 2017)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Zhong et al., 2017, Figure 3を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Zhong et al., 2017, Figure 3を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみましょう。

・原理主義的傾向が高いものは、まずルールありきのルールベース思考の傾向が高い。

・原理主義的傾向が高いものは生や死などの実存的な問題に対しては統合的複雑性が低い。

・原理主義的傾向は背外側前頭前野の機能低下が関連している可能性がある。

さて、最後に上げた背外側前頭前野の機能低下ですが、これは直接的に損傷していなくても、不安や恐怖などで容易に引き起こされることが分かっています。戦争や災害で人間はしばしば原理主義的傾向に走りますが、これには一時的な前頭前野の機能低下が関係しているのかなと思うのですがどうなのでしょう。不明瞭な世界を不明瞭なものとして愛でる程度の知性や胆力が欲しいな、と思いました。

 

【参考文献】

Hunsberger, B., Pratt, M., & Pancer, S. M. (1994). Religious fundamentalism and integrative complexity of thought: A relationship for existential content only?. Journal for the Scientific Study of Religion, 335-346. https://doi.org/10.2307/1386493

Antonenko Young, O., Willer, R., & Keltner, D. (2013). “Thou shalt not kill”: Religious fundamentalism, conservatism, and rule-based moral processing. Psychology of Religion and Spirituality, 5(2), 110–115. https://doi.org/10.1037/a0032262

Zhong, W., Cristofori, I., Bulbulia, J., Krueger, F., & Grafman, J. (2017). Biological and cognitive underpinnings of religious fundamentalism. Neuropsychologia, 100, 18–25. https://doi.org/10.1016/j.neuropsychologia.2017.04.009

 

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