半側空間無視と眼の動き
私達は何かを探したり見たりしますが、これは眼のどのような動きによるものでしょうか。
駅前で誰かと待ち合わすことを考えてみましょう。
目の動きというのはゆっくりとカメラを回すようなものではなく、左を見て、その後すばやく右を見てというように急速な眼球運動とその後の視線の固定というものでなりたっているのが分かると思います。
こういった眼球の急速な動きはサッケードと呼ばれていますが、果たして半側空間無視患者ではどのようになっているのでしょうか。
半側空間無視患者の眼球運動と半盲患者の眼球運動
今日取り上げる論文は、半側空間無視患者の眼球運動について視線追跡装置を用いて調べたものです。
実験では左半側空間無視患者、左半盲患者、健常者を対象に下の図のような画像を見せ、図の中からAの字を探す課題を時間無制限で行わせます。
この図で実は縦に四等分すると同じだけの数のAが含まれており、被験者が左右のどの部分にどれだけAを見つけられたを調べられるものになっています。
またこのテストを行っている時に被験者が画面上のどこから探索を始め、どのような視線移動と視線固定がなされたかについて調べています。
結果を述べると、左半側空間無視患者では左半盲患者や健常者と比較して
・左側への認知が低下していた
・探索は右方向から開始していた
・左方向の空間への探索時間や視線固定時間は少なかった
・右方向の空間への探索感や視線固定時間が多かった
ということが示されています。
左半側空間無視でしばしば議論になる点として、左側への認知低下が単に左側へ能動的に視線を向ける能力が低下するためか、
あるいは何らかの受動的な注意力の変化の結果として左方向へ視線が向きにくくなるかというものがあるのですが、
この論文では後者の意見、すなわち注意力の変化が左側への認知の変化につながっているのではないかということが述べられています。
すなわち能動的な視線の運動が起こるためには視界に受動的に入った情報を頭頂葉で適切に処理できていることが重要になるのだけれども、
右半球損傷(とりわけ右頭頂葉損傷)によって、受動的な注意が右方向へ偏ってしまい、その結果、左方向への能動的に視線を動かす能力が低下してしまうのではないかということが述べられています。
難しいなあと思いました。
参考URL:Impaired visual search in patients with unilateral neglect: an oculographic analysis.