注意力低下に伴う空間意識の右方向への移動
半側空間無視では多くの場合、右半球損傷によって左側への視覚的認知が障害されますが、
このような現象は患者さんの覚醒状態によっていくらか変動するような印象があります。
つまりぼんやりしているときは左側への注意が向かいづらく、リハビリ室で気を張って歩いているときはそうでもなかったりします。
様々な研究からも覚醒状態と半側空間無視の程度については報告されているのですが、
今日取り上げる論文は、健常成人を対象に覚醒状態と視覚認知の関係について調べたものです。
人間の視覚というのは必ずしも左右対称というわけではなく、健常成人であれば若干注意が左方向へずれていることが知られています。
この実験ではこの現象を利用して、被験者を睡眠不足にした状態でどのような変化が現れるかについて調べています。
実験では左右対称に分けられた横棒を見せ、どちらのほうが長いかについて被験者に回答させてその空間認知の偏りについて調べています。
結果を述べると、やはり睡眠不足の程度が増すにつれて左方向への偏りは消失していき、あたかも半側空間無視患者のような右方向バイアスがかかっていくことが示されています。
車の運転については、健常成人で左バイアスがかかっているのであればやはり右車線走行がいいのかなと思ったり、
注意障害のある患者さんの運転については相当慎重になったほうがいいのかなと思いました。
参考URL :Rightward shift in spatial awareness with declining alertness
【要旨】
どちらの大脳半球に損傷を受けた後にも、反対側の空間を一時的に無視するが、持続型は大部分が右半球病変と関連している。このことから、他の右半球系の障害、特に覚醒を媒介する障害が回復を妨げる可能性が示唆されている。刺激による無視の重症度の軽減、鎮静薬による増悪、および持続的注意課題を受けている慢性無視患者の成績不良は、この見解と一致している。しかし、注意力の変化が空間的注意力に特異的な影響を及ぼすのか、あるいは単に多くの領域にわたって行動力を改善するのかという問題は、患者研究のみを用いて対処することは困難である。ここでは、健常成人集団の個体についてこの問題を検討する。特定の空間課題では、成人は軽度ではあるが信頼できる左寄りの注意バイアスを示す。半側空間無視に行われた研究結果に基づいて、我々は、覚醒レベルが低下するにつれて、このバイアスが減少する(あるいは逆になることさえある)という仮説を立てた。最初の研究では、参加者に、睡眠が奪われ、十分に安静にされたときに、線の左右の部分の相対的な長さを判断するよう求めた。注意力の有意な右方偏位は、睡眠遮断と関連していた。また、セッション中に右方への移動も観察された。2番目の研究では、この作業時間効果が再現された。これらの結果は、覚醒の低下が健康な脳において視覚注意の右方偏位を誘導するのに十分であることを示唆している。患者における無視の持続、小児における空間バイアス、および正常な自由視野非対称性に対する意味合いを論じた。