言葉を処理する脳とは?
私達人間は地球で最も複雑な鳴き声を出せる動物です。
ヒトが使える母音や子音の組み合わせやその並びを考えると、その取りうるパターンはほぼ無限であり、
またヒトが話す音素の数というのは一秒間に15音素前後です。
さらにはこの鳴き声は単なる単語ではなく、文法や包含関係を含む複雑な統語体系によって出来上がっており
こういったことを考えると、超高速で打ち出される奇妙キテレツな鳴き声が示す内容を瞬時に理解するというのは相当難易度の高い作業だと思うのですが、
果たして私達の脳はどのようにこれらの情報を処理しているのでしょうか。
言葉を処理する脳:ブローカ野とウェルニッケ野
脳の中には視覚や聴覚など様々な機能に特化した領域がありますが、その中でも言語に関わる領域としてブローカ野とウェルニッケ野が代表的なものとして知られています。
ごくごくざっくりとブローカ野は「話す」機能、ウェルニッケ野は「聞き取る」機能と学校では習いますが、言葉というのは先に述べたように単なる音だけでなく文法や意味、包含関係を含む複雑なものです。
またブローカ野というのもブロードマンの脳地図では44野と45野に分けられ
ウェルニッケ野も頭頂葉の後方下部(下頭頂小葉)から側頭葉の中部および後部を含む広範な領域から構成されています。
果たしてこれらの複雑な脳領域は複雑な「言葉」という情報をどのように処理しているのでしょうか。
ブローカ野とウェルニッケ野を結ぶ神経線維
脳というのはみっしりと神経細胞が詰まっているわけではなく、神経細胞が在るのは脳の表面がほとんどであり、表面の下には神経細胞をつなぐ神経線維がみっしりと通っています。
ブローカ野とウェルニッケ野の間にもこれらの領域をつなぐ神経線維があり、これは上縦束(SLF: superior longitudinal fasciculus)や鉤状束(UF: Uncinate fasciculus)と呼ばれる太い神経線維の束が関わっています。
今日取り上げる論文は、この神経線維と言語処理の関係についての総説論文になります。
この論文によると、言葉というのは主に統語的情報(主語や述語、包含関係といった言葉の骨組み)と意味情報(言葉が保つ意味、いわば言葉の肉づけ)からなっているのですが、
統語的情報ついては、ブローカ野を構成するブロードマン44野から上縦束を介してウェルニッケ野にあたる側頭葉後部(上側頭溝や上側頭回後部)と繋がることで処理され
意味情報についてはブロードマンを構成するブロードマン45野から側頭葉中部(上側頭回/中側頭回の中央部)をつなぐ経路で処理されているのではないかということが述べられています。
自閉症スペクトラム障害では言葉の聞き取りや意味理解は苦手でも、文章表現や文章構築が上手な人がいたりしますが、こういった偏りは言葉処理システムが一筋縄でないことからきているのかなと思いました。
参考URL:Pathways to language: fiber tracts in the human brain.