左視野の半側空間無視を有する患者における視覚探索課題中の空間記憶の障害
半側空間無視では多くの場合左側の障害として現れ、左側にあるものをうまく認知できなくなってしまうのですが、
こういった症状が起こる機序として、大きく分けると
・左側へそもそも注意が向かない
・左側の情報が頭の中に保持できない
の2つの障害が関わっているのではないかということが考えられています。
今日取り上げる論文は、半側空間無視患者の空間記憶能力について調べたものです。
被験者は右半球損傷患者8名(半側空間無視あり;4名、半側空間無視なし;4名)で、
実験では左右両方の視野の中からある視覚刺激を探索する課題を難易度を変えて行わせているのですが、
難易度が上がると無視症状のない被験者は左右両方の視野において探索能力が低下するのですが、
半側空間無視患者ではこのような探索能力の低下は右側だけに現れることが示されています。
こういった現象が起こる背景として、半側空間無視患者は左側空間の空間記憶保持能力が低下しており、難易度を上げたところで低いスコアは低いままで大きな変化がなかったのではないかということが述べられています。
空間記憶との関連を調べるために、視覚刺激の数を増減しているのですが(数少ない視覚刺激の中から標的を探すのと、多数の視覚刺激の中から標的刺激を探すのでは後者のほうが空間記憶の負荷が大きくなる)
半側空間無視患者のADLを考える時、空間記憶の負荷が少ないような生活環境設定って大事になるのかなと思いました。
【要旨】
視覚探索試験中の空間作業記憶を、半側空間無視を有する右脳損傷患者、ならびに右半球病変を有するが無視症状のない年齢適合対照患者について左右両方の視野で評価を行った。 Kristjansson(2000)によって導入された再配置検索パラダイムを用いて試行内空間記憶について調査した。この課題では表示アイテムは110msごとに場所が交換された。課題時間中の全ての時間において表示項目が所定の位置にとどまっていた静的条件とある瞬間から次の瞬間への位置が移動する再配置条件を比較した。 2つの条件を等しくするために、すべての項目が両方の条件で110ミリ秒ごとに向きを変え、各視覚配列を提示した後にマスキングを行った。結果は、表示項目の移動によって患者と対照群の両方で探索活動が阻害されることが示されたが、重要なことに、この中断は患者の右側視野でのみ見られ、左側視野では見られなかった。
コメント
探しものが極端に苦手で、いつも使う食器や衣類の場所を変えられると途端に見つけられなくなる。
こういったことが起こるのはボトムアップ的な注意の問題かと考えていたのだけれども、空間記憶の関係でいけば一度両目で空間をスキャンして取り込んだはずの情報を脳の中にとどめておけないというのも関係があるのだろうか。
探す能力を上げるよりは、探さないですむような環境設定にしたほうが労力は少なくて済むのかなと思ったり、
同じ努力をするにしても(自分の苦手な能力を上げるのか、自分の能力に見合ったよいやり方を見い出すのか、あるいは努力しなくても済む環境に移るのか)
努力の方向性って大事なんだろうなと思います。
生き延びるということは、すなわち適応するということで、
むやみに頑張るよりも、適応するコストが低い方略を選ぶほうがきっと賢いんだろうなと思ったりです。
人生歩いたり立ち止まったりですが、
時には立ち止まり、
歩いている方向が正しいのか考えることのほうがずっと大事なのかなとも思います。